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来るべき消費税対応に備えて

第四回 複数税率を巡って

1.給付付き税額控除か複数税率か

消費税率引き上げに伴う低所得者対策としては、給付付き税額控除と複数税率(軽減税率)の検討が行われていることは前回(第3回目)にご説明しました。では、今現在、どちらの方向で進みつつあるのでしょうか。

2.社会保障・税一体改革大綱

今回の消費税率引き上げに伴う低所得者対策の方法が公に表に出たのは、民主党野田政権時代の平成24年2月17日に閣議決定された「社会保障・税一体改革大綱」(以下、「一体改革大綱」といいます)が最初です。介護、年金、医療といった社会保障支出は年間で約100兆円ですが、その財源は社会保険料が51.6%、公費負担(国税と地方税)が35.7%、資産運用収入等その他が12.7%となっています(平成22年度社会保障費用統計)。このため社会保障改革は税を切り離して考えることはできません。「一体改革大綱」は急速に進む高齢化社会を念頭に、今後の社会保障の解決すべき論点を明示し、同時にその財源として消費税の引上げを提唱したものです。

この一体改革大綱では消費税率(地方消費税を含む)を現行5%から、2段階で8%そして10%まで引き上げ、かつ、消費税を社会保障財源化することが提唱されました。また、低所得者対策としては以下のとおり、「給付付き税額控除」の導入を検討するとされています。複数税率制度については、「単一税率を維持することとする」とし、導入を否定していました。そしてこの大綱の原案通りに、消費税引上げ法が平成24年3月に国会に上程されました。

【一体改革大綱32頁より抜粋(下線は筆者)】

「消費税(国・地方)の税率構造については、食料品等に対し軽減税率を適用した場合、高額所得者ほど負担軽減額が大きくなること、課税ベースが大きく侵食されること、事業者の負担が増すこと等を踏まえ、今回の改革においては単一税率を維持することとする。」
「所得の少ない家計ほど、食料品向けを含めた消費支出の割合が高いために、消費税負担率も高くなるという、いわゆる逆進性の問題も踏まえ、2015 年度以降の番号制度の本格稼動・定着後の実施を念頭に、関連する社会保障制度の見直しや所得控除の抜本的な整理とあわせ、総合合算制度や給付付き税額控除等、再分配に関する総合的な施策を導入する。

3.与野党3党合意(平成24年6月15日)

平成24年3月に衆議院に上程された「消費税引上げ法案」は、その審議過程で修正されることになります。これが平成24年6月15日の与野党3党合意です。当時の野党であった自民党と公明党が野田佳彦総理(当時)と折衝を行い、野党が消費税率引上げに同意する見返り条件として、以下の内容を修正事項として法案に入れるよう迫りこれが実現しました。

【法案の修正事項】
  1. 消費税に複数税率を導入することの検討を行う旨を追加する
  2. 所得税の最高税率の引上げ事項の削除→平成25年税制改正へ先送り
  3. 相続税基礎控除の引下げ事項の削除→同上

4.修正後の消費税引き上げ法(低所得者対策部分)

結果的に「3」の修正を盛り込んだ消費税引上げ法案が国会を通過し、法律となりました。低所得者対策部分は以下のように規定が置かれており、給付付き税額控除と複数税率が併記されています(当初法案はイ.給付付き税額控除とハ.簡素な給付措置のみであった)。

「消費税引上げ法」(一部略記しています/下線は筆者)
第7条第1項
1号 消費課税については消費税率の引上げを踏まえて、次に定めるとおり検討すること
 低所得者に配慮する観点から強制手続きにおける特定の個人を識別するための番号の利用等関する法律(筆者注:いわゆるマイナンバー法)による行政手続きにおける特定の個人を識別するための番号の利用等に関する制度(番号制度という)の本格的な稼働及び定着を前提に、関連する社会保障制度の見直し及び所得控除の抜本的な見直しと併せて、総合合算制度(医療、介護、保育等に関する自己負担の合計額に一定の条件を設ける仕組みその他これに準ずるもの)、給付付き税額控除等の施策の導入について、所得の把握、資産の把握の問題、執行面での対応の可能性等を含め様々な角度から総合的に検討する。
低所得者に配慮する観点から、複数税率の導入について、財源の問題、対象範囲の限定、中小企業者の事務負担等を含め様々な角度から総合的に検討する。
第2条の規定(筆者注:消費税率(国税)6.3%への引上げ)の施行からイ及びロの検討の結果に基づき導入する施策の実現までの間の暫定的及び臨時的な措置として、社会保障の機能強化との関係も踏まえつつ、対象範囲、基準となる所得の考え方、財源の問題、執行面での対応の可能性等について検討を行い、簡素な給付措置を実施する。

5.公明党の衆議院選挙マニフェスト(平成24年12月)

複数税率を積極的に提唱しているのは公明党といわれています。平成24年8月10日の参議院における法律案可決の後、同年12月16日に行われた衆議院議員選挙において公明党は消費税率8%引上げ時からの複数税率適用を主張していました(公明党マニフェスト/2012衆議院選重点政策 24頁より)。

6.平成25年度税制改正大綱(平成25年1月24日)

衆議院選挙のため通常より1カ月遅れて公表された「平成25年度税制改正大綱(以下、税制改正大綱)」(自民党と公明党の連名)にて、次のように消費税率10%引上げ時(平成27年10月1日)までに複数税率導入を目指すと明記されました。税制改正大綱は「給付付き税額控除」には全く触れていません。

平成25年度税制改正大綱 平25.1.24 自由民主党、公明党 7ページ

③その他消費税引上げに係る措置
イ軽減税率
○消費税率の10%引き上げ時に、軽減税率制度を導入することをめざす。
○そのため与党税制協議会で、速やかに下記事項について協議を開始し、本年12月予定の2014 年度与党税制改正決定時までに、関係者の理解を 得た上で、結論を得るものとする。
○与党税制協議会に軽減税率制度調査委員会を設置し、適宜、検討状況を与党税制協議会に中間報告をする。
○協議すべき課題
・対象、品目
・軽減する消費税率
・財源の確保
・インボイス制度など区分経理のための制度の整備
・中小事業者等の事務負担増加、免税事業者が課税選択を余儀なくされる問題への理解
・その他、軽減税率導入にあたって必要な事項

このように、現在、低所得者対策として公に方針として示されているのは複数税率制度です。

7.2つの低所得者対策のメリットとデメリット

以上のように、現状として、低所得者対策は複数税率制度の方向性にあると考えられますが、両制度のメリットとデメリットを列挙しますと次のとおりです。

  複数税率制度 給付付き税額控除制度
メリット
  1. 軽減税率は、購入者にとり単純明快であり、分かり易い制度である。
  2. 軽減税率用は所得に関係なく広く消費者一般に適用されるので、各人の所得把握という対応が不要である。
軽減税率は高所得者もその対象となるが、給付付き税額控除の適用は所得制限が前提となる。したがって、逆進性対策のターゲットが明確となり効果的である。
デメリット
  1. (財政面)軽減税率による減収部分を標準税率に賦課すると、標準税率が高くなり、結果的に軽減税率の効果が減殺される。
  2. (仕入税額控除)単一税率でないため仕入税額控除が複雑になり、インボイス方式の導入が検討対象となる。
  3. (免税点制度)売上には軽減税率が適用され、仕入れに標準税率が適用される業種では、経常的に還付となることが予想され、この場合免税点以下の事業者も課税事業者を選択する。小規模事業者の事務負担の軽減といった事業者免税店制度の趣旨が没却する。
  4. (簡易課税制度の複雑化)みなし仕入率が細分化される可能性がある。
  5. (システム対応コスト)税率が複数となるため、仕入れ、売上げともシステム対応が不可避となる。
  6. (政治問題)生活必需品の線引きが難しく、国会議員への陳情活動が活発となり不公平感が広がる。
  1. (番号制度)各個人の所得把握のため、各所得の名寄せが必要である。そのため番号制度創設のため、国家レベルのシステム投資が必要となる。莫大なコスト、そして時間を要する。
  2. 低所得者の所得水準の線引きの困難性がある。
  3. 個人単位か又は世帯単位で所得を判断するかの困難性。
  4. 所得が低くても、多額のストック(資産)を有する者の取扱いの困難性。
  5. 生活保護者及び年金受給者は物価スライド制が適用されるため、消費税増税による物価上昇はこれらに反映される。これらの者に対する適用をどうするのか。

次回は、EUの軽減税率の適用事例について検討してみます。

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