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Column ERPの導入・運用リスクの一覧と具体的な対策例

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ERP導入や運用時に起こり得るリスクとその回避対策を一覧で整理。これからERPの導入や刷新を検討する担当者に向けてリスクを低減するポイントをまとめて解説します。

ERP(Enterprise Resource Planning)の導入は、対象スコープとなる業務やデータ、複数システムの統合などが関わることから、難易度が高く「高リスク」と言われています。ここでは、ERP導入時やその後の運用において、発生し得るリスクをフェーズ別に整理し、具体的なリスク回避対策について解説します。

ERP導入が「高リスク」と言われる理由

ERPは単なるシステムの更新ではなく、業務プロセス全体の再設計を伴う、企業の業務変革に欠かせない基幹システムです。

会計・生産・販売・在庫など、企業活動の根幹を担う業務を横断して統合するため、その影響範囲は非常に広く、導入や刷新に失敗した場合のダメージは計り知れません。

具体的なリスクの例としては、導入遅延による業務停止、想定を超えた予算超過、セキュリティ事故などが挙げられます。

【リスクが顕在化したERP導入事例】

  • 企業規模:大手企業
  • 業種:食品製造業
  • 概況:外資系大手ERPの全面刷新

ある大手食品製造業では、外資系ERPへの全面刷新を実施しました。しかし、標準機能だけでは日本国内の複雑な物流慣習や多段階の割引計算に対応しきれませんでした。そのため、現行業務に合わせるために大規模なアドオン開発(カスタマイズ)をおこないました。

その結果、システム間のデータ連携や在庫管理ロジック、データ移行に問題が内在していたにもかかわらず、本番前のテスト段階では発見できないままリリースへ向かうことになります。

システム稼働直後には全体が不安定になり、出荷指示が停止するという大規模障害が発生しました。この障害はサプライチェーン全体に波及する深刻な事態となります。

この事例が示すように、ERP導入のリスクは技術的な問題にとどまらず、経営判断の遅れや体制の不備、過剰なカスタマイズといった要因が複合的に絡み合います。リスクを「システムの話」として現場任せにせず、経営的な観点からリスクを管理する意識が重要です。

関連記事:基幹システムの入れ替え失敗事例、原因と対策

ERP導入で発生する主なリスクと回避策

ERP導入プロジェクトは、計画から本番稼働まで複数のフェーズにわたります。各フェーズに固有のリスクがあり、早期に認識して対策を講じることがプロジェクトの安定進行に不可欠です。

ここでは、導入で発生しやすい4つのリスクと、それぞれの回避策を解説します。

  1. 1.要件定義の不足
  2. 2.過度なカスタマイズ
  3. 3.ベンダー任せの体制
  4. 4.不十分な移行準備

1.要件定義の不足

要件定義の精度不足は、ERP導入リスクを高める要因のひとつです。業務要件に曖昧さが残ったまま設計・開発に移行すると、後工程でFit&Gapのズレが顕在化します。

その影響はスケジュール遅延予算超過といった形でプロジェクト全体に波及するケースも少なくありません。

ERPは複数の業務領域を横断するシステムであるため、ひとつの要件ミスが広範囲に影響をおよぼす点には注意が必要です。

以下に、要件定義フェーズで発生しやすいリスクと対策をまとめました。

リスクの具体例対策
要件が曖昧なまま設計・開発に進み、後工程で手戻りが発生する現行業務(As-Is)を可視化し、要件を明文化する
現場ヒアリング不足で暗黙業務が設計に反映されない事業部門を巻き込んで例外処理まで洗い出す
判断基準が整理されず、実態と合わない条件設計になる業務ルールを明文化し、数値や条件などのロジックを整理する
要件の優先順位が不明確で、スコープが膨張するMust/Wantを整理し、優先順位を明確化する
業務フローの後出し修正や追加機能要望などの要件変更が頻発し、予算・工期が増大する要件凍結と変更管理プロセスを設ける

要件定義においては、現行業務(As-Is)を正確に可視化し、要件を明文化することが出発点となります。

2.過度なカスタマイズ

ERP導入時のコスト増大にとどまらず、中長期的な運用コストを押し上げる要因となるのがカスタマイズです。

ERPは長期利用を前提としたシステムであるため、定期的なバージョンアップへの対応が避けられません。独自カスタマイズが増えるほどバージョンアップ時の改修コストが膨らみ、将来の運用負荷が高まります。

リスクの具体例対策
過度なカスタマイズにより導入コストが増大する可能な限りFit to Standardを徹底する
独自改修が増え、将来のバージョンアップ対応が困難になる標準機能に業務を合わせる前提で設計する
自社仕様の帳票や承認フローを完全再現し、追加開発が膨らむBPR(業務改革)を前提に業務プロセスを再設計する
バージョンアップ時に再開発費用が発生する長期利用を前提にカスタマイズの必要性を精査する
ベンダーロックインが強まり、将来的な選択肢が狭まる将来の保守・移行まで見据えて改修可否を判断する

カスタマイズは現状業務への対応にとどまらず、将来の保守・移行コストまで見据えたうえで必要性を精査することが大切です。「Fit to Standard」を基本姿勢に置くことで、長期的なコストリスクを抑えられます。

関連記事:ERPとBPRの違い・関係性と実施ステップを解説

3.ベンダー任せの体制

ERP導入をベンダーに丸投げする体制は、プロジェクト全体のリスクを高める要因となります。

ERPは単なるシステム導入ではなく、業務プロセスの変革を伴うものです。そのため、ユーザー企業が主体となってプロジェクトを推進することが欠かせません。

ベンダー主導でヒアリングや要件整理を進めると、業務実態の解像度が下がり、後工程での手戻りにつながります。

ベンダー任せになりがちな場面のリスクと対策は以下の通りです。

リスクの具体例対策
現場ヒアリングをベンダー主導に任せ、業務実態の解像度が低くなる現場主導でAs-Isを可視化し、事業部門主体で整理する
Fit&Gapの見落としが発生し、後工程で手戻りが増える事業部門を巻き込んだFit&Gap検討を実施する
経営層を巻き込まずに推進し、意思決定が遅れるステアリングコミッティを設置し、意思決定ラインを明確化する
要件整理に業務担当者が参画せず、部門からの反発が強まる業務担当者を要件定義フェーズに必ず参画させる

ベンダーはプロジェクトの開発パートナーですが、推進の責任を担うのは自社です。現場担当者を要件定義フェーズから巻き込み、意思決定の主体を自社側に置く体制を整えることが欠かせません。

4.不十分な移行準備

移行計画の不備は、ERPプロジェクトにおける見落とされがちなリスクのひとつです。特にERPはデータドリブンな経営を支える基盤となるため、データ移行の精度がその後の運用品質を左右します。

ERP導入時のデータ移行では、複数システムを統合する際の重複マスタやコード体系の整合が課題となります。過去データの取り扱いや形式変換など、事前に整理すべき項目は少なくありません。

リスクの具体例対策
ERP移行計画の準備不足により、移行スケジュールが間に合わない要件定義段階で早期に移行計画を策定する
データ移行の検討が不十分で、統合時に不整合が発生するプロジェクト横断でデータ統合ルールを定義し周知する
複数システム統合時に重複マスタやコード体系の不一致が発生する名寄せ・コード統一方針を事前に策定する
過去データの扱いが整理されず、不要データや欠損データが混入する移行対象データの範囲と保存方針を明確化する
データ形式の変換ミスにより、数値不整合が発生するテスト移行を複数回実施し、検証プロセスを設ける

中長期にわたるERP運用において、データ移行の成否はその後の運用定着に大きく影響します。要件定義段階から移行計画を並行して策定し、テスト移行を複数回実施する体制が不可欠です。

ERP運用フェーズのリスクと回避策

本番稼働後の運用フェーズにも、固有のリスクが潜んでいます。導入段階のリスクとは性質が異なり、日常業務の中で静かに蓄積されていく点が特徴です。

ここでは、運用フェーズで発生しやすい4つのリスクと回避策を解説します。

  1. 1.データが活用できないリスク
  2. 2.現場の抵抗・操作習熟不足
  3. 3.セキュリティ・内部統制リスク
  4. 4.保守・アップデートコストの高騰

1.データが活用できないリスク

ERPは稼働後、経営判断や業務改善を支えるデータ基盤として機能することが前提です。しかし、マスタ管理や運用ルールが未整備のまま運用を続けると、データの信頼性は徐々に低下します。

運用フェーズでは、以下のような課題が発生しやすい傾向にあります。

  • 部門ごとに異なるマスタ更新ルールでデータが更新されてしまう
  • 入力基準のばらつきにより、分析しにくいデータが蓄積する
  • 未使用のコードやデータが生まれ、データ品質が劣化する

以下に、データ活用を妨げるリスクと対策をまとめました。

リスクの具体例対策
マスタ管理ルールが統一されず、データの整合性が崩れる全社共通のマスタ管理ルールを策定し、更新責任者を明確化する
入力基準が部門ごとに異なり、分析結果が信頼できなくなる入力基準・定義を標準化し、運用マニュアルに明文化する
不要データや誤データが蓄積し、BI分析の精度が低下する定期的なデータクレンジングと品質チェックを実施する

ERPは導入して終わりではなく、データ品質を継続的に維持することで経営基盤として機能し続けます。現場ルールの標準化と定期的なデータクレンジングを運用設計に組み込んでおくことが大切です。

2.現場の抵抗・操作習熟不足

ERPは業務プロセスの変更を伴うシステムであるため、現場の理解と定着が不可欠です。

運用定着が不十分なまま稼働を続けると、データの入力ミスや業務の二重管理が常態化してしまいます。

運用フェーズでは、旧システムやExcelとの二重管理が続き、ERPが形骸化するケースが少なくありません。これらはERP導入によって既存業務を変更する目的が現場に十分に伝わっておらず、反発された結果、現場で起きてしまう顕在的なリスクの1つです。

リスクの具体例対策
現場が新システムでの業務に移行できずやExcelを使い続け、ERPが形骸化する利用状況を可視化し、業務プロセスをERP前提に再整理する
操作習熟が進まず、入力ミスや業務停滞が発生する段階的な教育計画と継続的なトレーニングを実施する
変更理由が共有されず、現場の反発が強まる「なぜ変えるのか」を説明する社内広報(チェンジマネジメント)を行う

ERPは使われてはじめて効果が生まれるものであり、稼働後のフォローアップが継続的に必要となります。現場の定着度を定期的に把握する仕組みを整えておくことが大切です。

3.セキュリティ・内部統制リスク

ERPは会計・人事・生産など、企業の機密情報を一元管理するシステムです。その分、セキュリティインシデントが発生した場合の影響範囲は、基幹業務全体におよびます。

権限管理やログ監視が不十分なまま運用を続けると、重大なセキュリティ事故の温床となるため、セキュリティや内部統制上のリスクは、早期に把握・対処しておきましょう。

リスクの具体例対策
過剰なアクセス権限により内部不正が発生する最小権限原則に基づき権限設計と運用を実行する
パッチ未適用により脆弱性が放置される定期的なアップデート計画とログ監視体制を構築する
退職者や異動者のアカウント削除が遅れ、権限が放置される人事情報と連携したアカウント自動停止フローを構築する

ERPは標的型攻撃を受けやすいシステムであるため、運用設計の段階からセキュリティ対策を組み込むことが欠かせません。

最小権限の原則の徹底、定期的な権限見直しを運用フローに組み込むことが大切です。

4.保守・アップデートコストの高騰

ERPは長期利用を前提とするシステムであり、導入費用だけでなく運用コストの把握が不可欠です。法改正への対応やバージョンアップ、カスタマイズ部分の改修など、稼働後に発生するコストは多岐にわたります。

導入時のコスト見積もりが甘いと、稼働後の想定外費用が経営負担を圧迫することになります。

リスクの具体例対策
法改正対応で想定外の追加開発費が発生する長期的なTCO(5〜10年)を事前に試算する
カスタマイズ部分の影響でアップデート費用が増大する標準機能中心の業務を実現できるよう業務プロセスを見直す

特に、ERPの導入判断では、初期費用だけでなく運用コストを含めた総保有コスト(TCO)での試算が欠かせません。5〜10年単位で試算したうえで、ベンダー選定や業務設計の方針を決めることが大切です。

ERP導入で失敗しないための3つのリスク低減ポイント

ERP導入に伴うリスクは、適切な対策を講じることで大幅に低減できるものです。ここでは、リスク低減に直結する3つの実践ポイントを解説します。

  1. 1.経営層のコミットメント
  2. 2.スモールスタートによる段階的な導入
  3. 3.実績豊富なベンダー選定

1.経営層のコミットメント

ERPは部門最適ではなく全社最適を目指す取り組みであり、必ず部門間の調整が発生するプロジェクトです。

経営層が関与しない場合、優先順位の判断が現場に委ねられ、スコープ膨張や意思決定遅延の原因となります。逆に、経営層がプロジェクトオーナーとして関与することで、判断の迅速化や優先順位の明確化が期待できます。

具体的には、以下の取り組みが有効です。

  • ステアリングコミッティを設置し、方針・予算・リスク管理の意思決定体制を構築する
  • プロジェクト憲章を策定し、目的・ゴール・優先順位を経営層の言葉で明文化する

現場主導の業務設計と、経営層主導の意思決定が両輪となることで、堅実にプロジェクトを進めることができます。

2.スモールスタートによる段階的な導入

全社一斉導入は網羅性が高い反面、社内リソースへの負荷が集中し、失敗確率を高める側面もあります。段階的な導入はリスクを局所化し、学習効果を次フェーズに活かせる点が強みです。

近年は「コンポーザブルERP」という考え方も広がっています。必要な機能モジュールを組み合わせて柔軟にシステムを構築するアプローチで、段階導入との親和性も高まります。

具体的な導入アプローチとしては、以下が有効です。

  • 会計など基幹領域から始め、段階的に対象範囲を拡大する
  • 特定拠点でのパイロット運用を先行し、課題を早期に把握する
  • 機能単位でのモジュール展開により、導入負荷を下げる

リスクを分散しながら業務変革を進める段階的な導入は、ERP推進における現実的な選択肢のひとつとなります。

関連記事:コンポーザブルERPとは~ビジネスの進化に対応する柔軟なシステム~

3.実績豊富なベンダー選定

ERPは長期利用を前提とするシステムであり、ベンダー選定はその後の運用リスクを左右する判断です。価格や知名度を優先した選定では、業務理解の不足からFit&Gapの見落としが生じるリスクがあります。

重視すべきは、自社業界への理解と、業務改革に伴走できる体制の有無です。

具体的な観点は以下の通りです。

  • 自社業界・自社規模に近い導入実績があるか
  • 専任PMやサポート体制など、プロジェクト推進体制が整っているか
  • 要件定義段階から業務課題に踏み込んだ提案ができるか

単なる委託先ではなく、業務改革を長期にわたって伴走できるパートナーを見極めることが、ベンダー選定の本質と言えるでしょう。

アドオン肥大化のリスクを解消した丸紅のERP刷新事例

丸紅株式会社では、20年以上にわたり運用してきたSAP ERPに約5,000本のアドオンが蓄積されていました。システムの複雑化とバージョンアップ時の高コスト化が、将来的な運用リスクとして顕在化することになります。

SAP ERPの2027年のサポート終了を見据え、延命措置ではなく抜本的な見直しを決断しました。全面刷新を避け、業務領域ごとに最適パッケージを組み合わせる「個別最適モデル」を採用して、プロジェクトが進みました。

国内営業・会計領域には、商社業務への適合性が高い国産ERP「GRANDIT」を導入。アドオン削減により将来のアップデートリスクを抑制しつつ、段階導入によって移行負荷と投資リスクを分散し、全面刷新案と比較して約3割のコスト削減を見込んでいます。

より詳しい丸紅様の導入事例インタビューは以下よりご覧ください。

丸紅が選択した“商社に強い”国産ERP、検討の経緯と期待する効果とは?

ERPリスクを正しく捉え、計画的な対策で失敗を回避するには

ここまでERP導入が「高リスク」と言われる背景から、導入・運用の各フェーズで発生しうるリスクと回避策を解説しました。

ERPはシステムの刷新にとどまらず、企業全体の業務プロセスを再設計する業務改革です。要件定義・カスタマイズ・体制・移行・運用設計、各工程での判断の積み重ねが将来的なリスクを左右します。

リスクを過度に恐れるのではなく、発生し得る課題を把握し、オーナーシップを持って対策を講じる姿勢が重要です。計画的かつ段階的に進めることで、ERPは企業の持続的な成長を支える強固な基盤となります。

ERP導入・刷新を具体的にご検討の方は、選定のポイントや失敗しないための注意点をまとめた以下の資料もご活用ください。

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