
ERPシステムの導入プロジェクト(以下、ERP導入と記す)は、システム開発プロジェクトにおいて、一般的に難易度が高いと位置づけられる。
過去10年間のシステム開発において、JUASによる統計では、予定通りに完了しない失敗率が増加傾向にある。プロジェクトにおいて難易度の高いERP導入であれば、失敗率はさらに高くなると推察される。



(図1)システム開発プロジェクトにおける工期遵守状況変遷(2015年度~2024年度)
(出所)「企業IT動向調査2025(2024年度調査)~データで探るユーザー企業のIT動向~」JUAS_IT2025summary.pdf(2025/12/12)P33。当社にて図版構成を一部改変
当社は、ERP導入のシステム構想策定フェーズだけでなく、要件定義から導入フェーズへPMOとして参画することも多い。当社の経験では、ERP導入を成功に導く鍵は多数あるが、その中でも5つを厳選して紹介する。
鍵1. 経営陣の方針の明確化と現場部門の理解
ERP導入は、企業基盤である基幹システムの新規導入・刷新を行うため、経営陣の方針で始まり、現場部門と共に推進することが多い。ここで、経営陣の方針を現場部門が十分に理解できていないと、ERP導入の失敗リスクが高まる。
例えば、経営陣が「ERP導入をきっかけとしたAI活用」を方針として掲げていても、現場部門は方針への目的が分からず、十分な検討ができないまま、プロジェクトを推進するケースがある。この場合、「社内データをERPシステムに登録し、蓄積されたデータをAIで分析したい」と目的まで含めて伝えられると、現場部門は目的を意識して、紙・Excel等の基幹システム外にあるデータを、ERPシステムに登録するような業務設計を行える。
このように、経営陣の方針を、目的と共に周知し、現場がそれを理解することで、目的に対する検討を十分に行え、結果的に会社全体として求めるERPシステムができるだろう。

(図2)経営陣の方針に対して、現場部門の理解が得られないケースと得られたケースの違い
(出所)当社作成
鍵2. プロジェクトメンバーの主体性の醸成
特定部門のみでERP導入を行うと、現場業務が回らない、経営課題が解決できない等、後戻りできないタイミングで、ERP導入に関わる部署から、問題が発生することが多い。
このような事態を避けるために、システム構想段階から、プロジェクトメンバー全員が、主体的に関わる機会を設けたい。つまり、主体性を徐々に醸成するような機会を提供することが重要だと考える。それにより、各メンバーの立場から、ERP導入に対する意見を発し、導入後の利用イメージを各自が具体的に考え、設計できる。その結果、上記のような問題が発生する確率が低くなると考えられる。
主体性醸成のためには、以下のような方法が考えられる。ぜひ実践いただきたい。
- メンバーへ、プロジェクト目的について十分に説明し、動機づけを図る。
- 会社の主軸となるような業務に関わるメンバーを中心に、主要タスクを割り振る。
- プロジェクトメンバー内でのコミュニケーション頻度を増やす。
鍵3. 標準化と貴社の強みのバランスを意識した業務設計
Excelや紙に依存した業務が標準化を阻害し、カスタマイズ要求が肥大化するケースは多数ある。特に旧来のレガシーシステムを活用している企業は、レガシーシステムの対応領域が限られているため、対応領域以外は紙・Excel等、企業ならではの仕組みで補うことが多い。
この場合、ERPシステムによる標準化だけを見据えて、全業務をシステムに合わせることは少々待っていただきたい。レガシーな仕組みに、長年培ってきた企業ならではの強みがあるかもしれない。その強みのエッセンスを踏まえながら、ERPシステムを利用する新業務を設計していただきたい。そうすることで、貴社が培ってきた強みを生かしたERP導入ができる。
鍵4. リスクに応じた移行方式の検討
移行方式には下記表に記載する2種類がある。
| 方式 | 概要 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| 一括移行 | ERP対象業務を一度に切り替える。 | 短期間にて移行できる。並行稼働期間が短く、二重登録の負荷を軽減できる。 | 移行負荷が非常に高い。トラブル時の影響範囲が広く、業務停止リスクが高い。 |
| 段階移行 | ERP対象業務をモジュール・業務ごとに分割移行する。 | 移行負荷の分散できる。影響範囲が限定的なため、リスクコントロールが容易。 | 並行稼働期間が長くなる。モジュール・業務ごとの連携確認の手間が大きい。 |
(表1)移行方式比較
一括移行方式は、ERP対象業務を一度に切り替えるため、並行稼働期間が短く、短期間での移行が可能である。しかし、移行時の対象業務が広いため、移行負荷が非常に高く、移行に失敗した場合の業務停止リスクが高い。そのため、業務移行、データ移行ともに、複数回の移行テストや、稼働判定を厳格に行うことは必須である。
一方、段階移行方式は、ERP対象業務を分割して段階的に移行する。移行負荷の分散ができるため、移行時のリスクコントロールを行いやすい。一方、長い並行稼働期間による業務負荷の増加や、モジュール・業務間の連携確認に時間を要する。そのため、全てのERP対象業務を移行したゴールイメージから、逆算したスケジュールを立てることが重要だ。
このように、各移行方式にはメリット・デメリットがあるため、各企業のスケジュール、リソース、業務制約(例:システム部門メンバーの業務負荷、会社全体で抱えているプロジェクト状況等)を考慮して、判断いただきたい。
鍵5. ERP導入をきっかけとした人材教育
ERP導入を機に、新業務が再設計され、併せて人の役割も変化する。その役割に応じた人材教育は重要な鍵であり、教育方法として、プロジェクトメンバーを中心とした段階的な教育を推奨したい。
段階的な教育では、システム構想段階から、経営陣とシステム部門・現場部門のリーダー層に、プロジェクトメンバーとしてご参画いただく。そして、プロジェクト経過と共に、議論を継続することにより、徐々にプロジェクトへの理解を深めていく。その後、プロジェクトメンバーから現場部門へと普及することで、企業全体でERP導入後を見据えた人材教育・育成ができると考える。
最後に、今回紹介した5つの鍵は、過去のERP導入経験より重要と考えられる事項を表したものだが、各企業の現状に応じて使い分けていただきたい。今回提示した5つの鍵が、貴社のERP導入の成功につながることを祈り、結びとする。
著者

三菱UFJリサーチ&コンサルティング㈱
コンサルティング事業本部
デジタルイノベーションビジネスユニット
業務ITコンサルティング部 シニアマネージャー
/ 中小企業診断士・技術士(情報工学部門)・PMP・CISA・システムアナリスト・情報処理安全確保支援士
まつもと としろう
主な経歴
約20年間、システム業界において金融系・自治体・製造業を中心に、アプリケーションシステムおよびインフラ基盤の導入プロジェクトを担当。プログラマ、システムエンジニア、プロジェクト管理者と、開発からマネジメントまで一貫して経験。2023年にITコンサルタントへ転身し、中堅・中小企業の製造業・観光業を中心に、社内システムの最適化支援やセキュリティ対策支援を提供している。
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