
2026年2月12日(木)、インフォコム株式会社主催、双日テックイノベーション株式会社および日鉄ソリューションズ株式会社共催による「商社・卸売業のDX推進セミナー」がオンラインにて開催されました。当日は、商社や卸売業において複雑な商社業務への対応や、グループ全体の経営状況の把握に課題をお持ちの方が54名参加されました。 本セミナーでは、商社・卸売業向けERP「GRANDIT」を中核に、商社業務を強力に支援するアドオンテンプレート「Natic Trade Master」、さらに連結財務管理ソリューション「Conseek TM」を組み合わせた全体像をご紹介しました。基幹業務から商社特有の取引管理、そしてグループ経営の可視化までを一気通貫で実現する「攻めの経営基盤」について、各社の専門家が具体的に解説しました。
目次
基調講演:企業価値向上とファイナンス機能高度化の関係性について

合同会社デロイト トーマツ
フィナンシャルサービシーズ シニアマネジャー
公認会計士
吉野 雅法 氏
吉野氏は、経営環境の複雑化を背景に、企業価値向上を推進するためのファイナンス機能の再定義と高度化について解説しました。Finance Transformationの考え方や、Target Operating Modelの3要素(業務範囲、データ・プロセス・テクノロジー、人的リソース)を軸に、商社・卸売業に特有のビジネスモデルと資金管理リスクを踏まえた具体的な検討の方向性を示しました。
企業価値向上を推進するファイナンス機能への進化
吉野氏はまず、経営環境の複雑化により、企業は様々な指標で評価されるようになっていると述べました。
その中で、経営指標や経営資源を使いこなし、ビジネスのリスクと機会を的確に捉える体制を整えることが求められていると説明しました。
Finance Transformationの定義は様々であるとしたうえで、数値に強い人材・部門が機能横断的に企業価値向上に貢献する役割をより一層果たしていくことがひとつの方向性であると述べました。
計画・予算の精緻化や実績分析の深化、適時性の向上といった「企業価値向上を支える」役割に加え、数値の裏付けをもとにリスク予測や改善提言を行い、外部ステークホルダーと密接に連携する「企業価値向上を推進する」役割への進化が重要であると強調しました。
Target Operating Modelの再定義と3つの要素
次に吉野氏は、ファイナンス機能に対する期待役割の増大に対応するためには、Target Operating Modelの再定義が必要であると述べました。
経営環境の変化により、業務量が全体的に増加し、繁忙期と平時の差が拡大し、さらに高度な専門知識を要する業務の割合が増加する傾向があると説明しました。
その対応策として、①業務範囲、②データ・プロセス・テクノロジー、③人的リソースの3要素を総合的に検討する必要があると示しました。
業務範囲では、部門横断での再編や平準化、データ・プロセス・テクノロジーでは標準化や自動化による手動業務削減と業務の効率化、人的リソースでは社内外リソースの再配置や専門人材の育成が挙げられました。これらを総合的に検討し、自社に最適なファイナンス機能構造を再定義することが効果的であると述べました。
商社・卸売業のビジネスモデルと資金管理リスク
多通貨・多国籍取引、取引量・取引先の多様性、資金繰りの複雑化といった特徴があり、バリューチェーン全体の構築という社会的役割を担っている点に特殊性があると述べました。
商取引を起点に機能・業務・特徴を整理すると、特に金融機能における資金管理の巧拙が企業価値に影響を与えると説明しました。決済リスク、為替リスク、金利リスク、流動性リスクなど、様々なリスクが想定される中で、適切なTarget Operating Modelを適用することにより、企業価値向上の機会が得られると述べました。
各拠点で個別管理を行うのではなく、本社への機能集約やシステムによる可視化・自動化、将来予測に基づく資金繰りの実施などが具体例として示されました。財務の観点から企業のあるべき姿を構想し、計画・予算の精緻化や実績分析の深化へつなげていくことの重要性を強調しました。
本基調講演では、企業価値向上という経営テーマと、ファイナンス機能の高度化がどのように結びつくのかが体系的に整理されました。単なる業務効率化ではなく、数値を「使いこなす」段階への進化が求められているという視点は、後続の各講演とも共通する問題意識でした。
商社・卸売業のビジネスモデルに内在するリスクを踏まえ、Target Operating Modelの再定義を通じてファイナンス機能を再構築することが、攻めの経営基盤の出発点であることが示されました。
講演①商社DXを成功に導く「プラットフォーム」の構築

インフォコム株式会社
エンタープライズサービス事業本部
GRANDIT事業部門 ソリューション営業部
生川 努
生川は、日本の中堅企業市場に適合した完全Webベースの統合業務パッケージ「GRANDIT」の取り組みと、商社DXを実現するためのプラットフォームの考え方について解説しました。急速に変化する市場環境の中で、ERPは単なる基幹システムではなく、意思決定を支える基盤へと進化すべきであると述べ、GRANDIT V4が目指す「コンポーザブルERP」の方向性を紹介しました。
環境変化に対応するための「情報武装」とは何か
商社を取り巻く環境変化について解説。

サプライチェーンの再設計やリスク評価には、市場や需給を定量的に把握し、短期間で仮説検証を行うことが求められると説明しました。
しかし現状では、業務の不明確さやデータの分散、システムのブラックボックス化が課題となっていると指摘します。そのため、環境変化に俊敏に対応するためには「情報武装」が不可欠であり、様々なシステムのデータ収集・統合、コアとなる統合ERPの導入、予測分析やシミュレーション機能、そして迅速な意思決定を支えるツールが必要であると述べました。
ERPは「記録するシステム」ではなく、次の手を打つための意思決定を導くプラットフォームへ進化する必要があると強調しました。
変化に強い「コンポーザブルERP」という考え方
続いて、GRANDIT V4が目指す「コンポーザブルERP」の概念を解説。

WebAPIの拡充により、貿易管理やWMSなどの専門領域と密接に連携しつつ、データを一元化できる点も特徴であると紹介しました。個別最適に陥るのではなく、ひとつのプラットフォームとして機能させることが重要であると説明しました。
また、ローコードツールとの連携により、現場が本体改修なしで独自画面や簡易アプリを作成できることにも触れました。ERPの正しいマスタデータを参照することで、ガバナンスを保ちながら現場主導の改善を可能にすると述べました。
グループ経営を支える統合データ基盤へ
最後に、生川はグループ経営への展開について説明しました。

親会社はGRANDIT、子会社はGRANDITクラウドを適材適所で選択するハイブリッド構成により、同一データ構造と操作性を持つ統合環境を構築できると述べました。商流・物流・金流のデータを同一構造で統合することで、正確かつスピーディなデータ活用が可能になると説明しました。
蓄積されたデータは、財務管理サービスと連携し、経営管理の高度化や可視化へとつながります。商社DXの成功には、基盤(Platform)、業務(Operation)、経営(Management)という役割の異なる3つの要素の連携が不可欠であるとまとめました。
本講演では、ERPを単なる業務システムとしてではなく、意思決定を支えるプラットフォームとして捉える視点が示されました。商社特有の複雑な業務やグループ経営の高度化に対応するためには、データの統合と柔軟な拡張性を備えた基盤が重要であることが印象的でした。
基幹、業務アドオン、財務管理が連携する全体像は、本セミナー全体のテーマである「攻めの経営基盤」を具体化する内容となりました。
講演②成長と変革の基盤となる新たな商社業務アドオンテンプレート

双日テックイノベーション株式会社
アプリケーション事業本部
ERP事業部
庄野 智哉氏
庄野氏は、商社における基幹システムの課題を整理したうえで、丸紅株式会社への導入実績をもとに開発された商社業務アドオンテンプレート「Natic Trade Master with GRANDIT」について解説しました。商社特有の複雑な取引や統制要件に対応しながら、ERP標準のフレキシビリティを維持する設計思想と、業界対応機能について具体的に紹介しました。
これからの商社の基幹システムで必要なこと
庄野氏はまず、基幹システムの本来の目的として、日々の取引記録、帳票出力、決算書作成を挙げ、これらは当然に実現できていると述べました。

そのうえで、近年は目標に対する現在位置の把握、要因分析、シミュレーションまで求められるようになっているが、ここまで実現できているケースは少ないと述べました。

なぜなら、現在の商社で多く見られる基幹システムの課題として老朽化の問題があり、機能不足によるシステムの分断や、長年のカスタマイズによる肥大化が生じてしまっているためであると述べました。老朽化したシステムのままでは、本来の力を発揮できないので、いずれ刷新が必要になると述べました。
これからの時代の商社に必要なのは、基幹システムとフロントシステムの実現範囲を明確にし、基幹システムは可能な限り標準に保つ「スマートでシンプル」な基幹システムであり、適材適所なシステムの配置により、ビジネスの力を十分に発揮できるシステム導入をすべきと強調しました。
商社業務アドオンテンプレートによる業務適合率の向上
続いて庄野氏は、丸紅株式会社へ導入したGRANDITをベースに、自社のノウハウを加えて開発した、新たな商社業務アドオンテンプレート「Natic Trade Master with GRANDIT」について紹介しました。

このテンプレートは、商社の業務要件への適合率向上と、ERPに必要なフレキシビリティの維持を両立する設計になっていると説明しました。国内・輸出入・三国間取引を統合した受発注入力画面、同時諸掛入力、数量Allowance対応、取引別損益管理、ワークフロー強化など、商社共通業務に対応する機能が組み込まれていると述べました。
さらに、業界対応機能として、業界特有の要件にも対応している点を紹介しました。

業界特有の煩雑な処理を標準機能で吸収する仕組み
化学品商社業務の現場で発生する具体的な課題に触れ、単価修正が必要な取引処理の煩雑さ、業法対応帳票の作成負荷、大量継販取引へのEDI対応などを挙げました。
これらに対しても、テンプレートの一括値引・一括値増・単価訂正などの一括処理機能により業務負荷を軽減できること。また、業法対応帳票をシステムで発行できることによる作業軽減ができること。取引データインターフェースを備えており外部連携を実現できることを説明しました。
本講演では、現在、多くの商社の基幹システムで起きている老朽化の問題を繰り返さずに、本来の商社のビジネスの力を発揮するためには、基幹システムとフロントシステムの実現範囲を明確にして、基幹システムは可能な限り標準に保つ「スマートでシンプル」な基幹システムが必要であるとの考え方が示されました。且つ、商社特有の複雑な業務要件をいかに標準化し、ERPの中で吸収するかという具体的なアプローチも示されました。単なる機能追加ではなく、業務適合率の向上とフレキシビリティの維持を両立させる設計思想が印象的でした。
基幹システムを「スマートでシンプル」に保ちながら、商社業務に必要な機能をアドオンテンプレートで補完する考え方は、商社の成長と変革を支える「攻めの経営基盤」づくりの重要な要素であることが示されました。
講演③商社の財務DXを加速する!~ 基幹×商社業務×財務でつくる攻めの経営基盤 ~

日鉄ソリューションズ株式会社
金融ソリューション事業本部
金融プラットフォーム事業部
投資運用ソリューション部
玉田 大貴氏

日鉄ソリューションズ株式会社
金融ソリューション事業本部
金融プラットフォーム事業部
投資運用ソリューション部
藤木 哲也氏
玉田氏は財務取引・資金繰り領域のDX化について、藤木氏は為替管理業務のDX化について解説しました。商社・卸売業に特有の多通貨・複数銀行・複数拠点にまたがる資金管理の複雑性を整理し、財務管理サービス「ConSeek TM」によって基幹システムと連携しながら財務領域を高度化する考え方が示されました。
商社財務の複雑性と構造的課題
玉田氏はまず、商社・卸売業における財務管理業務の複雑性について説明しました。
社内為替を含む財務取引の統括や全社の資金繰りは、企業運営の中枢となる重要な業務である一方、多通貨取引や複数銀行・複数拠点にまたがる管理が求められるため、他業種と比べて負荷が高いと述べました。

複数の企業ヒアリングから、「業務効率」「業務高度化」「ガバナンス」の3つの観点で課題が整理できると説明しました。ERPに加えて多数の周辺システムが併存し、Excel主体の手作業が残ることで、即時性や精度の面でリスクが生じていると指摘しました。
さらに、グループ全体の資金状況をリアルタイムで把握できず、将来の資金予測も十分でないことから、無駄な資金調達や限定的な資金活用にとどまっている現状を挙げました。財務管理の分断は、透明性低下や統制上のリスクにもつながると述べました。
ConSeek TMによる資金繰り・財務取引の統合
玉田氏は、これらの課題に対する解決策として財務管理サービス「ConSeek TM」を紹介しました。
ConSeek TMは、財務取引管理、資金繰り管理、金融機関接続などを単一プラットフォームで提供し、分断されがちな財務管理業務を統合すると説明しました。銀行からの残高自動取得、入出金情報の自動連携、決済指図の自動送信により、手作業依存からの脱却を図る仕組みが示されました。

幅広い資金調達手段やヘッジ取引、新たな資金運用手段にも対応可能であり、基幹システムでは対応が難しい財務性取引領域を補完すると述べました。日々の資金繰り業務の自動化によって業務負荷を圧縮し、その分を資金戦略や企業価値向上に充てる時間を創出できると説明しました。

さらに、グループ会社の全口座を日次で可視化し、親会社がグループ全体の資金状況を把握・活用できる環境を整えることで、段階的な資金活用や統制強化が可能になると述べました。
為替管理業務のDX化と一体管理
藤木氏は、為替管理業務のDX化について説明しました。
昨今の為替変動の激しさにより、事業収益への為替影響が拡大している一方で、社内為替や銀行為替が独立して管理され、手作業での運用が継続されているケースがあると指摘しました。メールやExcelでの社内為替受付、銀行Webでの個別申込は、財務部門の事務負荷やオペレーションリスクを高めると述べました。

ConSeek TMでは、社内為替をWebで一元受付し、承認フローやスプレッド管理を自動化できると説明しました。複数金融機関からリアルタイムでレートを取得し、ベストレートでの自動カバー取引を行う仕組みも紹介されました。
社内為替と銀行為替を一体で管理することで、取引内容の対応関係を明確にし、為替損益の改善と管理負担の削減を実現できるとまとめました。
本講演では、商社における財務管理の複雑性を改めて整理し、その構造的な課題に対して「統合」と「自動化」でアプローチする具体像が示されました。基幹システムと財務管理サービスを連携させることで、業務効率化にとどまらず、資金戦略や為替戦略といった経営判断に直結する領域の高度化を目指す視点が印象的でした。
基幹×商社業務×財務をつなぐことで、攻めの経営基盤を構築するという本セミナーのテーマを、財務の側面から具体化する内容となりました。
あとがき
本セミナーでは、企業価値向上というテーマのもと、ファイナンス機能の再定義から、基幹・商社業務・財務をつなぐ全体像までが示されました。数値を「作る」だけでなく「使いこなす」段階へ進化させること、そのためにプラットフォームとして統合された基盤を構築することの重要性が各講演を通じて共有されました。
また、ERP単体ではなく、アドオンや財務管理サービスを組み合わせることで高度化を実現するというアプローチは、コンソーシアム型のエコシステムだからこそ可能になる取り組みでもあります。複数社の知見とソリューションを連携させることで、商社・卸売業に求められる「攻めの経営基盤」の具体像が描かれました。
本セミナーが、みなさまの経営基盤のあり方を再考する一助となれば幸いです。