EPA(Economic Partnership Agreement/経済連携協定)とは、2国間または複数国間で結ばれる経済的な取り決めのことで、モノ・サービス・投資の自由な移動を促進することをその目的としています。わかりやすく言えば、関税の引き下げや撤廃だけではなく、幅広い経済分野での協力を通じて、相互の経済関係を強化するルールです。
EPAは、同じく貿易の自由化を進めるFTA(自由貿易協定)と似た枠組みですが、EPAのほうが対象範囲は広く、たとえば「人の移動」「知的財産保護」「電子商取引」「競争政策」「中小企業支援」などにも踏み込んだ包括的な協定である点が特徴です。
1.EPAと「経済協力協定」の違い
日本では「EPA=経済連携協定」という名称が一般的に使われていますが、国によってはFTAを含めた広義の協定全般を「経済協力協定」と呼ぶ場合もあります。つまり「経済協力協定」という言葉はEPAやFTAといった具体的な条約形態を含む、やや抽象的な表現になります。
2.なぜ、今EPAが重要なのか?
グローバル経済が進展する中で、各国が自国企業の輸出入や投資活動を有利に進めるための“ルール合意”を進めているのが現代の潮流です。たとえば、EPAによって日本製の機械部品や食品の関税が引き下げられると、輸出価格が下がり、海外市場での競争力が高まります。
また、輸入側でも特定の国から安価な原材料や製品を調達しやすくなるため、製造コストの削減や新しいサプライヤーとの関係構築が可能になります。
日本はこれまでに、EU(欧州連合)との「日EU・EPA」や、アジア太平洋11カ国との「CPTPP(包括的・先進的TPP)」、英国との「日英EPA」など、20以上のEPAを締結しており、今や国際ビジネスを行う上でEPAの存在は欠かせなくなっています。
3.EPAが企業経営に与える影響
EPAは「大企業向けの話」と思われがちですが、中堅企業にとっても実際の多くのビジネス機会とリスク管理の観点で無視できない要素です。具体的には以下のような影響があります。
1)輸出の競争力向上
関税がゼロになることで、海外市場での価格優位性が生まれ、中堅企業でも販路開拓や越境EC展開が現実的になります。
2)輸入コストの削減
海外からの原材料や部品の調達コストを抑えることで、製造原価を下げたり、新製品のコスト競争力を高めたりできます。
3)サプライチェーンの再構築
EPA締結国との間では通関や手続きの簡略化も進んでいるため、調達先や生産拠点の見直しによるサプライチェーンの最適化が可能です。
4)ルール対応による信用力の強化
EPAに対応した取引や原産地証明書の整備などは、取引先からの信頼性向上につながります。輸出入ビジネスにおける“きちんとした会社”という印象を与える材料にもなります。
4.IT・ERPとの関連性
EPAの恩恵を受けるには、原産地証明書の提出や貿易管理書類の整備など、正確な情報管理と申請手続きが求められます。ここで重要になるのが、ITシステムの活用、特にERP(基幹業務システム)の存在です。
1)貿易情報の一元管理
EPAで税制上の優遇措置を受けるには、製品の原産地や仕入先、生産工程の記録を正確に管理する必要があります。ERPシステムを活用すれば、BOM(部品構成表)や原価計算、調達記録などを一元的に管理・追跡でき、原産地証明書の発行にも対応しやすくなります。
2)監査・証明への備え
輸出入に関しては、税関などによる監査が入る可能性もあります。ERPによってログを残し、変更履歴や承認フローを明確にしておくことで、コンプライアンス対応を強化できます。
3)電子化と業務効率化
EPAに対応するには、多くの書類や証明手続きが必要ですが、これらをデジタル化し、ワークフローとしてERPに組み込むことで、手続きの属人化を防ぎ、業務の標準化・効率化が可能になります。
EPAは単なる貿易ルールではなく、企業のコスト構造や事業展開に大きな影響を及ぼす「経営インフラ」とも言える存在です。とくに国際取引の増加や外注先・調達先の多様化が進む中で、EPAを前提とした経営戦略が企業の競争力を左右します。
IT部門や経営企画部門にとっても、EPA対応はERPや基幹業務システムの設計・運用方針に密接に関わるテーマです。将来的な海外展開や取引先の変化に柔軟に対応するためにも、EPAを理解し、システム面での備えを進めておくことが、今後の企業成長における重要な布石となるでしょう。