Web3(Web3.0)とは、ブロックチェーン技術を基盤に、インターネットをより分散化・自律化された形へ進化させる構想を指します。現在主流のWeb2.0(SNSやクラウドによる双方向・共有型のWeb)に対し、Web3では「データの主権が個人にある」「中央集権ではなく、分散型ネットワーク上で運営される」といった特徴があります。
(Webアーキテクチャーの変遷)
世代 | 概要 | 特徴 | 主なプレイヤー |
---|---|---|---|
Web1.0 | 静的な情報提供型Web | 一方向、読み取り専用 | 企業、政府など |
Web2.0 | SNSやクラウドの普及 | 双方向、共有・投稿型 | GAFA、メディア |
Web3.0 | 分散型のWeb基盤 | 自律・分散・所有 | DAO、DeFi、ブロックチェーン企業 |
(Web3の中心技術)
名称 | 内容 |
---|---|
ブロックチェーン | 改ざんが困難な分散型台帳 |
スマートコントラクト | 自動実行されるプログラム可能な契約 |
トークン(暗号資産、NFT) | 価値の交換手段・証明 |
分散型アプリケーション(DApps) | 特定の管理者が存在しないアプリ |
1.なぜ今Web3が注目されるのか?
Web3は「特定のプラットフォーマーに依存しない、透明でオープンなデジタル社会」を目指すものです。個人情報の乱用、巨大IT企業による寡占、プラットフォーム規制といった現代の課題に対するひとつの解答として、世界中の起業家や開発者が注目しています。
特に2021年以降は、暗号資産市場の拡大やNFT(非代替性トークン)の流行、DAO(分散型自律組織)などの新しい組織形態の登場により、Web3は単なる技術ではなく「次の経済圏」としての注目を集めています。
2.Web3のB2Bビジネスへの影響
企業活動においても、Web3の思想と技術はさまざまな場面で応用可能です。以下に今後Web3が与えると思われる、企業活動へのインパクトを整理します。
1)サプライチェーン管理の透明化
ブロックチェーンを活用することで、製品の流通経路を記録・追跡できるようになります。特に製造業や食品業界では、原材料のトレーサビリティ向上や不正の防止に活用され始めています。
2)契約・決済の自動化(スマートコントラクト)
仕入れ・納品・検収・支払いといった一連の商流に、事前に定義された条件で契約が自動実行される仕組みを導入すれば、事務コストを大幅に削減できます。これはERPとの統合領域でも注目されており、「自動化されたB2B取引の基盤」としての展開が期待されています。
3)分散型ID(DID)の活用
企業の従業員・顧客・取引先のID情報をブロックチェーン上で管理することで、セキュリティ強化とプライバシー保護を両立できます。ゼロトラストセキュリティとの親和性も高く、これからの認証基盤として注目されています。
4)DAOによる新しい組織運営の実験
DAO(Decentralized Autonomous Organization)とは、スマートコントラクトに基づき、ルールに従って自律的に運営される組織形態です。現在は主にWeb3系プロジェクトで活用されていますが、大企業においてもR&Dや新規事業部門にDAO的手法を取り入れる動きが見られます。
3.実際の適用事例(B2B領域)
・IBM × Maersk(TradeLens)
海運業における物流情報をブロックチェーンで共有することで、書類業務を大幅に削減。残念ながら2023年3月末に終了しましたが、B2BサプライチェーンへのWeb3技術の先駆けといえる事例です。
・BASF × Minespider
化学メーカーのBASFが、鉱物調達における原産地証明のため、ブロックチェーンベースのトレーサビリティを導入。環境・社会ガバナンス(ESG)対応としても評価されています。
・Salesforce Web3サービス
CRM最大手Salesforceは、NFTを活用した顧客ロイヤリティ管理をWeb3サービスとして提供開始。マーケティングの領域でもWeb3が浸透しつつあります。
4.経営・IT戦略としての視点
Web3はまだ黎明期にあり、法整備やインフラ、実用性の面では課題も多いですが、「中央集権から分散」「プラットフォーム依存から脱却」「信頼の透明化」という潮流は、今後の企業経営に大きな示唆を与えます。
ERPやCRMのような基幹システムとも将来的に接続される可能性があり、たとえば「ERPの一部データをブロックチェーンに記録して監査証跡を強化する」「契約書の電子化とスマートコントラクト連携」といった未来も現実味を帯びてきています。
Web3は単なる技術革新ではなく、「インターネットのあり方」そのものを問い直すムーブメントです。企業にとっては、新しいビジネス機会であると同時に、自社のIT戦略・ガバナンス・信頼構築の姿勢を見直すチャンスでもあります。
今すぐ全面的に導入する必要はありませんが、「今後どこに適用できそうか?」という観点で、経営層やIT戦略部門が議論を始めることには大きな意義があります。