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ビジネスコラム

現実解としての戦略

第四回 情報収集のためのヒアリング技法

前回、戦略を組み立てる際には、自社の基本的な価値(ヘリテッジ)を正しく把握することが必要で、そのためには、現場社員からの情報が重要であるとお話しました。これに対して読者の方からお問い合わせをいただいたので、今回はどのようにして、その情報を集めるのかの手法についてお話したいと思います。

情報を集める場合の基本は、直接的、重点的、自然体、がポイントになります。以下、この順番に話を進めていきたいと思います。

まず、直接的な情報収集ということは、手法的には自社の社員からのヒアリングになります。一回ずつ、聞き取りの相手と対面で情報を入手することになります。アンケートでも可能ですが、あまりお勧めしません。理由は前回お話したとおりです。

そのヒアリングですが、対象は、日常的に社外の人と接することのできる職種の人を指名することになります。通常は営業職の方が基本になるでしょう。

また、基本的にある程度の人数をこなす必要があります。特定の誰かに聞いておしまい、ということはまずありません。企業全体、またはその製品やサービスの評価になりますから、ある程度まとまった母数が必要になります。

しかし、母数が多い方がいいからといって、営業職全員に聞けばいいわけではありません。あまり時間をかけると、ヒアリングの開始時と終了時で期間が離れてしまい、会話の前提になる環境が変わってしまう可能性があるということです。実際に、開始時と終了時で10カ月の時間差があるケースもありました。その時間差が、意見に影響を与える場合もあるので、それは避けたいのです。

したがって、短い時間で質のよい情報を確保するために、聞く相手を絞り込んでおく必要があります。では、どのような絞り込みを行うべきでしょうか。まずお話したいのは、対象はいくつかのクラスに分けておくということです。営業職といっても、実際にはそのクラスによって、接触のある役職が異なるものですし、そこで得られる情報の内容にも差があるからです。

たとえば、顧客の幹部とよく接点がある部長クラス、購買担当者との接点がある課長クラス、実際の製品・サービスの利用者と接点がある営業マン、などという感じです。この対象群の考え方は、それぞれ意思決定、価格・供給力評価、製品・サービス評価、を基準にしています。ヒアリングプランを設計する際に、このように、どのような情報を求めていて、それを顧客側の誰が持っているのか、そして、その顧客と常に接しているのは、自社の誰になるのか、というような論理展開で仮説を立てておく必要があります。漫然と誰かに聞いていれば何か出てくる、ということはまずないのです。そしてこの中から、職務経験の年数や社内、社外の評判、実績などを加味して、一定の母集団を選び出すことになります。

では、ヒアリングを行いましょう。まずヒアリングのシートを準備することは当然です。しかし、そのシートも空欄を埋めることで時間を費やしてはいけません。そのシートでは想定していないやり取りの中に価値のある情報が出てくることもあるからです。

従って、シートは参考程度にして(私の場合は、話の流れを作ることに使う場合が多かったように思えます。)なるべく自然体で話をすることが重要であると思います。

そのためには、基本的にヒアリングの相手は1回1名に限ることが重要だと思っています。会社によっては対象者を一堂に集めて「何か言いたいことはあるか。」とやってしまうことがありますが、お勧めできません。

こういう形をとると、ヒアリングではなく、いわば会議になってしまうからです。会議とは生き物なのです。その時の場を支配するような、漠然とした空気感や、話のつじつまを合わせようとする予定調和の反応、有力者の個人的見解、そのようなものが入り乱れては、こちらが望む情報を提供してくれる場なのかどうか不透明になります。その入り乱れた流れをコントロールしようとすれば、自然体から離れてしまいます。

また、特に気をつけたいのが、こうした流れが、形成される意見を「ノイジー・マイノリティ」化させることです。ヒアリングを受ける側からすれば、単に意見を表明する場でしかないわけで、そういう中では、単に主張の強い意見や極端な見解に流される傾向が出てきます。しかしそのような極論が全体を代弁することは実は少ないのです。いわば「サイレント・マジョリティ」の意見の方に現実を反映した意見が隠されていることが多いのです。

フリートーキングで意見交換するなら会議形式もいいでしょうが、今回のお話のような場合は、「サイレント・マジョリティ」に安心して情報を出してほしいのです。つまり、手間がかかっても、一人ひとりから話を聞いた方が有益であると考えるのです。

そのため、ヒアリング対象者を緊張させるようなことは避けるべきでしょう。たとえばあなたの会社がオーナー会社で、オーナー社長自身がヒアリングに参加していた場合、出席者が自然体で発言できるか微妙なところです。その場合は、いったん経営企画部のみで行うなどして、なるべく日々の業務の中で感じていることを、装飾なく話してくれるよう心がけるべきでしょう。

こうしてみると、単なるヒアリングを行うだけでも、気をつけることが多いことにお気づきかと思います。このような配慮がなくても、聞き取りはできます。ただ、有益な情報を集めようとすると、これくらいの配慮は必要になってくるというのが、経験からくる判断です。

もしこうした仕事を初めて行うのであれば、別に弊社でなくてもかまわないので、優れたコンサルタントの方を雇って、見本を見せてもらうこともいいかもしれません。何度かやってしまえば、後は社内で行えるようになるからです。

時間は資源です。もし、社内にノウハウや資源がないなら、いったん社外のリソースを利用し、成功体験を積んでから、自社で行うことの方が現実的な解であるというのが、率直な感想です。社内に資源がなければ、一時的に社外から借りることも有益なのです。

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