現実解としての戦略
第七回 戦略構築の実際
本コラムを読んでいただいている皆様、あけましておめでとうございます。本コラムも残りあと三回となりました。残り少し、どうぞよろしくお願いします。
さて今回は、前回までのヒアリングで聞き出した情報の活用について、実践した場合にしばしば目にすることをお話してみようと思います。
実は、前回紹介した手法を記載された工程をそのまま実施した場合、ある問題に直面する企業を、しばしば見ることがあります。それは、ヘリテッジを認識し、過去の製品の中でヘリテッジを具体化された製品を探すうちに、単純な現状肯定、または現状追認案を作成してしまうことです。
前回までに、戦略を組み立てる際には、自社の基本的な価値(ヘリテッジ)を正しく把握することが必要であるとしました。それは、自社の歴史の中にあるとも書きました。そして、そのヘリテッジをもった製品やサービスを見つけて、それを軸に新しい製品展開や事業展開を計画する、という手法であったと思います。
そうなると、こういう風に考える人が出てくるわけです。つまり、正解はもうすでにあったのだと。過去の製品やサービスが正解で、それ以外の製品やサービスを作る必要はないだろう、というわけです。現状を分析した結果、過去の商品や事業が肯定されたのでは、新しいことができない、というわけです。実はこのようなことは、過去に筆者が実際に言われたことでもあります。
この、一種の悪循環はかなり厳しい結果を企業に突きつけることになります。なぜなら、戦略を立て直そうとする企業は、おおむね何かしら行き詰まりを感じており、戦略の具体策として、新商品や、新規事業を組み立てようとしていると考えられるからです。それが、すでに正解は存在して、それが現在の市場で苦戦しているとなると、打つ手がない、と頭を抱える人がいたわけです。
しかし、これは、ある種の悪循環でして、一種の誤解でもあります。それは、今回の手法を実践するには、条件があるということです。
その条件とは、ヒアリングで集めた情報はあくまで材料である、という点です。過去のコラムにも何度か書いたはずですが、調査結果は、材料でしかないのであって、回答ではないのです。その条件を理解せずに、単純に現場ヒアリングと過去の製品調査を結びつけた場合にこうした誤解が起きることがあるのです。
材料をある程度集めたら、そこからエッセンスを抜き出して、一定の量を集積し、構造化し、その結果からヘリテッジを導くという、知的建築作業が必要になるのです。
この作業を飛ばして、今までの会社の歴史の中で良い部分を確認し、それに当てはめる製品・サービスを抜き出してくると、単なる現状追認になる、というわけです。
こうした状況になった場合、或る意味で、その会社の問題点の表れであるともいえます。要は、問題や課題を構造化して理解する作業が社内に定着しておらず、そのため、発見した状況を全肯定か全否定しかできていないということになるからです。
これを避けるのは、分析者の力量です。材料を集めたら、そこからインスパイアされるような感性であるとか、経験知がある人材が、こうした作業を行う必要があるわけです。抽象論になってしまいますが、すべてが方程式でできるわけではないのです。アイデアの話ですから、どうしても、人間の感覚、それも経験に基づいた地に足のついた感性が不可欠なのです。
こうした力量、能力は、訓練で伸ばすことはできます。向き、不向きはあるとは思いますが、それでも訓練は重要です。しかし、場数や年数が重要です。
つまり、会社の業績がいいときに、こうした作業がいずれ必要になることを見越して、人材を育成しておかないといけないわけです。しかし、こういうと、遊んでいる人材を作るように思われることがあります。しかし、実はそんなことはないのです。次回は、現業の中で、知的建設作業を訓練する方法をお話したいと思います。