中期的なRPAへの取り組みとRPAやAIを組み込んだ業務改革
第三回 RPAの運用とRPAのこれから
第二回目ではRPAの定着と規模拡大における要点およびPoCについて紹介した。
第三回目は、NICEのRPAをベースにRPAの運用の勘所を説明した後、RPAのこれからについて紹介する。
NICEのRPA: Advanced Process Automation
最初にNICEのRPAソリューションについて簡単に概要を紹介させていただきたい。
NICEのRPAソリューション(Advanced Process Automation)では、Robotic Automation、Desktop Automation、Desktop Analytics の3つのソリューションを単一プラットフォーム上で提供している。Robotic AutomationはいわゆるRPAで、人が介在する必要のない定型業務を仮想デスクトップ上に配置したロボットたちが順次処理していく。無人で業務を処理するので、通称、全自動ロボットと呼んでいる。Desktop Automationは各担当者のデスクトップ上に常駐し、デスクトップ上での自動化シナリオの実行は当然として、単一ウィンドウへの入力データを複数アプリケーションに登録したり、逆に複数アプリケーションからの情報を集約することもできる。
さらに担当者のデスクトップ上の動作に合わせて、注意喚起や手順のガイドを行うことができ、自動化だけではなく様々な業務支援を行うことが可能なため、通称、アシストロボットと呼んでいる。また、アシストロボットと全自動ロボットとの連携により、アシストロボットから全自動ロボットに自動化シナリオの実行を指示したり、全自動ロボットのシナリオでの入力データの訂正をアシストロボットに依頼したりといったことも実現できる。
Desktop Analyticsは自動化ではなく、担当者のデスクトップ上の業務内容を可視化するデスクトップ分析ソリューションで、担当者の日々のデスクトップ上のアクティビティから業務の効率化およびRPAに処理させるプロセスの発見などに活用する。
NICEのRPAソリューションの強みは各アプリケーションとの深い接続性や、実際に一万席以上での稼動実績を複数持つ拡張性、大手金融機関の要件を満たすセキュリティにある。また、AIやチャットボットなどと連携することも可能であり、1つのRPAソリューションで企業全体のニーズを満たすことが可能だ。
RPAの運用
RPAを定着させ、RPAの規模を拡大していくための社内体制については前回紹介した。ここではRPAソリューションによってどのように運用を支援するのかを紹介する。
ロボットを自分のデスクトップ上で実行する分にはロボットの管理はさほど気にせずとも良いかもしれないが、人の目の届かないサーバ上で働くロボットに任せる際には、それを管理する機能は必須となる。管理機能としては「どのロボットが稼動しているのか」、「どんなシナリオを処理しているか」、「何件のシナリオが処理されたのか」、「シナリオの処理速度に異常はないか」、「いつどのロボットがどんなシナリオをタスクとして処理し、その結果はどうであったか」「作成したシナリオがどれだけ実行されたか」ということを把握できる必要がある。
例えば、シナリオを作成してもそれが実際のどの程度利用されているのかがわからなければ、その効果を知ることはできないし、作成したシナリオのエラー割合や処理時間が把握できなければ、シナリオの改善を図ることができない。また、サーバ上で稼動するロボットが異常停止したことを自動的に検出・通知する手段がなければ、甚大な業務影響を及ぼす可能性がある。
RPAを組織で管理していくにはシナリオごとの管理は必須である。まず、作成したシナリオのリリース判断を誰が行い、どのように管理するのか。これはCoE(Center of Excellence)の中で適切に管理されるべきであるが、本番環境にシナリオを保存し、誰に配信するのかを明確にしておく必要がある。RPAソリューション上で適切に権限を設定し、誰でも何でもできるというような環境は排除する必要がある。
シナリオに変更が発生した場合には、バージョン管理をしておくことでどのバージョンのシナリオがどこに配信されているかを把握することができ、新しいバージョンのシナリオで重大な不具合があった場合には、以前のバージョンに戻すといった対応も可能となる。バージョン管理は規模が大きくなるにつれて複雑になっていくため、人手ではなくRPAソリューション上で自動的に管理されることが望ましい。
また、シナリオをタスクスケジュールとして管理する機能や実行中のシナリオタスクを人手により停止・削除するような機能もシナリオの実行状況を適切に管理するには必要となる。
RPAを活用する中で忘れられがちなのが、RPAもITソリューションの一部でITインフラとして管理される必要があるということである。RPAインフラとしては従来型のオンプレミスモデルやAWSなどのIaaS上での構築からSaaSでの利用まで選択可能であるが、全社的にRPAを展開しようと考えているのであれば、SaaSモデルをおすすめしたい。なぜなら、SaaSモデルの場合、RPAインフラを意識する必要がなく、RPAをいかに活用するのかに注力できるからである。また、IT部門のインフラ管理の負荷が少なく、IT部門にはRPA活用のための技術的支援に注力してもらうことも可能になる。
RPAを業務に必須なものと位置づける際には、止まらないRPAインフラを意識する必要がある。ロボット単体では何らかのエラーは必ず発生するし、停止してしまう可能性もある。それを前提として、ロボットとそれを管理するサーバ群の冗長性や監視機能を検討する必要がある。
また、本番環境だけではなく、開発環境も検討することをおすすめしたい。開発環境を設けることにより、様々な業務シナリオの評価を行うことができるようになるため、実業務へのリスクを軽減することができるし、新しい技術への取り組みも開発環境があれば進めやすくなる。
もう1つの重要な検討事項がセキュリティである。RPAの中でも様々な観点でのセキュリティが存在するが、通信やデータの暗号化やロボットが使用するパスワードの集中管理、開発ツールやRPAポータル(ダッシュボードやレポート)へのアクセス管理などの運用する際のセキュリティと、コンプライアンス違反などが発生した際に備えて、監査機能が備わっていることも常用なポイントとなる。
RPAのこれから
今現在、RPAというと『RPA=定型業務の自動化』という認識が強い。ルールベースのRPAであっても、自動化ツールではなく、業務効率化ツールという観点で活用方法を見直すと更なる効率化対象の発見できるし、その観点でRPAソリューションを比較してみるとそれぞれの将来性が把握できるのではないかと思う。
現在のRPAは全体最適を当面の目標としている段階が大半かと思うが、B2Cのビジネスがマスからパーソナライズにシフトしてきているように、RPAも徐々に各社員にパーソナライズされる方向に向かって拡大されていくであろう。このパーソナライズはRPAだけで実現されるのではなく、AIやチャットボットなども巻き込みながら実現されていくものだ。
日々の業務に追われている状況では、自身の業務の一段上から業務効率化を考えたり、中期目標の達成に向けた具体的な行動を意識的に実行したりすることは容易ではないかもしれないが、ぜひ目線を上げて来るべきRPAとともに働く将来に向けて歩みを進めていただきたいと思う。
今年、2018年5月にNICEはNEVA(NICE Employee Virtual Attendant (https://youtu.be/HW4UgmRB-ys))を発表した。これから数年以内に実業務で利用されるRPAの未来として是非一度ご覧いただければと思う。
また、2018年12月にはAutomation Finderの提供を開始する。Automation Finderは担当者の日々の業務をモニタリングし、自動化対象業務を自動的に探し出すソリューションでDesktop Automationの一部として提供予定だ。これによりDesktop Automationにより日常業務の効率化を図りながら、Automation Finderにより自動化の種を見つけ出すことができる。また、実際の業務データに基づいているため、シナリオ作成前に自動化の効果が把握できるし、日常当たり前すぎてまたは細かすぎて気づかないような自動化の種を見つけ出すことが可能となる。
さらにその先ではAutomation Creatorのリリースを予定しており、Automation Finderで見つけた自動化の種をAutomation Creatorでシナリオの自動作成を行えるようになる見込みだ。
これ以外にもフリーテキストを理解するリーディングロボットやエラーシナリオの自己修復機能など様々な機能がRPAソリューション上でAI技術を巻き込みながら展開されていく。
是非、RPAソリューションの今後1-2年間での更なる成長に期待していただきたい。
全3回にわたって「中期的なRPAへの取り組みとRPAやAIを組み込んだ業務改革」について紹介してきた。RPAはソリューション単体では全社的に機能させることは難しく、部門利用に留まればその効果は限定的で企業全体としての効果は薄い。全社的に展開可能なRPAソリューションの選定とそれを着実に運用するCoEのような組織体制の構築の両面をきちんと押さえて、RPAやAIを取り込んでの業務改革を推進していただきたいと思う。