ERPのクラウド移行における課題と成功のためのステップ
1.はじめに
近年、システムの老朽化や人手不足が深刻化し、多くの企業でIT・業務の改革が進みつつあります。対応の遅れによって競争力の低下、業務効率化やコスト削減が困難になり早期の対応が不可欠です。
本コラムでは、「ERPのクラウド移行における課題と成功のためのステップ」と題して、初めてERP導入を検討している企業に向けて、ERPとは?なぜクラウド化が注目されているのか?クラウド移行がもたらすメリットといった部分に焦点をあてて、実際にクラウドERPを導入し、その効果をあげている導入事例などを交えて、ご紹介します。
- ERPとは?
ERP(Enterprise Resource Planning)とは、企業のさまざまな業務プロセス(財務、会計、在庫管理、販売、人事など)を統合的に管理するためのソフトウェアシステムです。ERPは、部門ごとに分散していたデータを一元管理し、業務の効率化や情報の可視化を図ります。これにより、リアルタイムでのデータ分析が可能になり、迅速な意思決定やコスト削減が実現できます。
当初、ERPは、大企業を中心に導入され、中堅企業へと普及。最近では中小企業向けに業務を最適化したERPが増えたことで、低コストで導入できるようになり、導入後の業務効率化などが実感できるといった事例が増え、様々な企業へ導入されています。
- クラウド移行がもたらすメリット
クラウドとは、インターネットを通じてデータやアプリケーション、サービスを利用する仕組みの総称です。従来、企業や個人は自分でサーバーやコンピュータを持ち、データを保存したり、ソフトウェアをインストールしたりしていましたが、クラウドでは、これらをインターネット上のデータセンターで管理・提供するため、必要なときにどこからでもアクセスできます。これにより、初期投資や維持管理のコストを抑えつつ、今までは大企業が大規模なシステム投資を行って使っていたような最新のソフトウェアを安価に利用でき、企業の競争力強化につながるといわれています。
2.クラウド移行の主な課題とは?
IT人材が豊富ではない企業が従来のシステムをクラウドやSaaS(Software as a Service)に移行する際の課題は、主に次の3つです。
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技術的な知識不足
IT人材が不足している企業では、クラウドやSaaSに関する知識が不足しているため、移行計画を策定し、導入後の運用をスムーズに進めるのが難しい場合があります。特に、クラウドの特性(スケーラビリティ、セキュリティ、データ移行の方法など)について理解していないと、システムの移行後に思わぬトラブルが発生する可能性があります。 -
データ移行の複雑さ
既存システムからクラウドへのデータ移行は、データの整合性を保ちながら行う必要があります。特に、顧客情報や会計データなど重要なデータを移行する際にミスが発生すると、業務に大きな支障をきたします。 -
従業員の適応と教育
新しいシステムに慣れるための教育が不足していると、従業員がシステムをうまく活用できず、業務が停滞してしまうことがあります。また、クラウドサービスへの移行が従業員の負担と感じられる場合もあります。
これらの課題に対して計画的に取り組むことで、IT人材が限られている企業でも、クラウドやSaaSへの移行を成功させることができます。
3.成功のためのステップ1 -導入目的の明確化と計画の策定-
システム導入時に「導入目的の明確化と計画の策定」は非常に重要です。目的が不明確だと、システム選定や導入後の効果が期待外れになることがあり、計画なしで進めると、システムの範囲が不明確になるなどの理由で、導入スケジュールが遅れたり、当初の予算を超過したりするリスクが高まります。目的と計画を設定することで、必要な機能が明確になり、スムーズな導入と運用が実現でき、最終的に業務効率の向上やコスト削減といった目標達成に繋がります。
(主な検討テーマ)
- 導入で解決すべき問題点、課題
- 達成すべき目標、導入効果
- 移行計画
社内にIT専門担当者が不在、大規模なシステム導入の経験がない場合は、外部のITコンサルタントやクラウドサービスの提供者からサポートを受けることで、技術的な不安や導入時のトラブルを解消することができます。ITコンサルタントの支援により、導入コストが増加するといったことを懸念される方もいらっしゃいますが、プロジェクトリスクの低減やシステムの早期稼働、目標達成の近道になります。
4.成功のためのステップ2 -適切なクラウドサービスの選定-
クラウドサービスの選定は、企業の成長と業務の効率化、導入プロジェクトの成否に大きく影響します。クラウドサービスを選ぶ際には、以下のポイントを参考にしていただくと良いでしょう。
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自社の業務ニーズを明確にする
クラウドサービスの選定は、まず自社の業務プロセスやニーズに合ったものを選ぶことが重要です。財務、人事、在庫管理、販売など、どの業務を改善したいのかを明確にし、その業務に特化した機能を提供するクラウドサービスを選ぶと効果的です。 -
スケーラビリティ
成長段階にある企業は、将来的に業務が拡大する可能性があります。そのため、クラウドサービスがスケーラブルで、必要に応じてリソースを追加できることが大切です。最初は少ないリソースで導入し、徐々に拡張できるサービスを選ぶとコスト効率が良くなります。 -
使いやすさとサポート体制
社内のIT要員が限られている企業では、現場の担当者にとって、システムの操作が簡単、感覚的であることが求められます。また、導入後にトラブルが発生した際や運用の中で専門家のサポートが必要となるため、迅速かつ信頼性のあるサポート体制が整っているクラウドサービスを選ぶことが重要です。
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セキュリティとコンプライアンス
クラウドサービスを選ぶ際は、セキュリティ対策がしっかりしていることを確認してください。特に顧客情報や取引データを扱う場合は、データ暗号化やアクセス管理機能、バックアップ体制などが十分か確認することが必要です。また、ISO27001認証などの第三者機関による認証を取得しているかも確認しましょう。
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コストと予算感
初期費用、月額費用、追加機能のコストなど、クラウドサービスにはさまざまな費用がかかります。契約内容や価格体系をしっかり把握し、自社の予算に合ったものを選びましょう。その際は、単純な価格比較だけでなく、提供される機能やサポート内容とのバランスを考慮することが大切です。 -
導入事例
他の企業が同じクラウドサービスを導入している事例や評判を調べることも参考になります。実際の運用実績や、同じ業種での導入事例を確認することで、導入後のメリットやデメリットを予測しやすくなります。
5.成功のためのステップ3 -スムーズなデータ移行-
スムーズなデータ移行は、クラウドへの移行プロジェクトの成否に大きな影響を与える重要なポイントです。
ここでは、スムーズに移行を行うために、以下の準備や作業ステップ、ベンダーとの役割分担などをお伝えします。
1)移行前の準備
①移行データの準備
移行を始める前に、現在使用している販売・会計システムの、どのデータをクラウドERPに移行するかを決めます。不要なデータや過去のデータを整理しておくことも重要です。
(主な移行データ)
取引先情報、商品情報、会計データ(売上、仕入れ、経費など)、在庫情報、従業員情報など
②移行後の業務フローの再確認
クラウドERPが提供する機能やプロセスを理解し、業務フローがどのように改善されるかを確認します。特に、売上管理、在庫管理、経理処理などの重要なプロセスに関して、移行後の業務の流れを明確にしておくことが大切で、必要なら事前に検証/教育環境などを用意して、実際の環境を操作して確認しておくことも重要です。
③利用部門のトレーニング
クラウドERPシステムの操作に慣れるため、利用部門のスタッフに向けた事前トレーニングを実施します。移行後のスムーズな運用に向けて、早い段階でシステムの使用方法や新しい業務プロセスへの理解を深めておきましょう。
2)データ移行作業
①移行計画の作成
移行計画を立て、ステップごとに実施します。以下に実際の移行計画の例をご紹介します。
(移行計画の例)
- データのバックアップ
- 試験移行(サンプルデータによる移行テスト)
- 本番データの移行
- 移行後のシステム動作確認
②移行テストの実施
移行前にテスト環境で移行作業を実施し、システムが正しく動作するか、データに問題がないかをチェックします。ここで問題を発見し、移行手順に修正を加えることが重要です。
③データ移行の実行
全てが整ったら、いよいよ本番データを移行します。移行後、システムが正しくデータを処理できるかをテストし、実運用に進みます。
3)ベンダーとの役割分担
クラウドERPの導入では、ベンダーとの密な連携が不可欠です。ベンダーとの役割分担を明確にしておくことで、円滑な進行が可能になります。以下に実際の役割分担の例をご紹介します。
ITの専門要員が不在、大規模なシステム導入の経験がない場合は、わからないことが多いと思います。クラウドサービスの提供者がサポートを行っている場合、そのサポートを積極的に活用することも有効です。
(ベンダーの役割)
- クラウドERPの導入と設定
- システムのカスタマイズ(必要に応じて)
- データ移行の支援(データマッピング、ツール提供など)
- トレーニングやサポートの提供
- 移行後のテストとサポート
(企業側の役割)
- 移行するデータの整理と準備
- 業務フローの見直しと新システムへの適応
- スタッフへのトレーニング
- 必要なレポートや機能の要件定義
- ベンダーと連携して進捗管理を行う
6.まとめ
クラウドERPへの移行は企業にとって大きな一歩ですが、準備と計画をしっかりと行うことで、スムーズに進めることができます。
失敗を避けるためには、一度にすべてのシステムを切り替えるとリスクが高くなるので、順次テスト移行を行い、問題点を修正してから本番移行を進めるといった、段階的な移行をお勧めします。
また、移行作業の一部を分担したものの、実際に作業を進めると、うまく分析/整理ができない、移行データの準備が予定通り進まないといったトラブルがよく発生します。そのような場合は、問題の影響を拡大しないためにも、発覚した早い段階でベンダーに相談してください。問題や課題をいつでも相談できる関係性をベンダーと構築しておくことが、失敗を避けるための秘訣だと思います。
※記事の内容は、制作時点に一般公開されている情報に基づいています。また、記載されている会社名・製品名・システム名などは、各社の商標、または登録商標です。
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