コロナ禍での在宅勤務における労働時間の考え方
コロナ禍でテレワークが急激に普及しました。実施を急ぐあまり、テレワーク中の労働基準法や労災保険法が適正に運用されておらず、トラブルに発展するケースもあるようです。新型コロナウイルスが収束したとしても、在宅勤務をはじめとするテレワークは今後も広がりをみせていくと考えられます。今回は、在宅勤務時における労働時間の考え方についてみていきたいと思います。

川島経営労務管理事務所所長、(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサルタント、社会保険労務士。
早稲田大学理工学部卒業後、サービス業にて人事・管理業務に従事後、現職。人事制度、賃金制度、退職金制度をはじめとする人事・労務の総合コンサルティングを主に行い、労務リスクの低減や経営者の視点に立ったわかりやすく、論理的な手法に定評がある。
在宅勤務を行う前に確認しておきたい事項
技術的にはインターネットに接続する環境があれば、今日からでも在宅勤務をスタートさせることが可能です。ただし、あわてて導入するのではなく、以下の点については最低限チェックしてから始めることをお勧めします。
- 在宅勤務実施に関する就業規則上の取り決め
- 在宅勤務時の労働時間に関するルール
- 在宅勤務時にかかった費用(通信料等)の負担に関するルール
これらのルールを決めるときは、会社が一方的に定めてしまうのではなく、労使で十分に話し合ってから決めることが重要です。ルールを定める前に在宅勤務をスタートし、実施後にトラブルに発展するケースが多く発生しています。
労働基準法等の適用について
在宅勤務を行う場合でも、以下の法律をはじめとする労働法は原則としてすべて適用されます。
- 労働基準法(労働時間、有給休暇、割増賃金等)
- 労働契約法(労働契約内容の変更等)
- 最低賃金法
- 労働安全衛生法(健康診断等)
- 労働者災害補償保険法(怪我や疾病を発症した際の労災保険給付など)
在宅勤務の労働時間について
在宅勤務中の労働時間(労働基準法)と在宅勤務中の怪我(労働者災害補償保険法)については、実務上トラブルになりやすいので、法律の原理原則をしっかりと理解しておく必要があります。
在宅勤務の場合でも、労働時間の算定ができる場合は、1日8時間、週40時間の通常の労働時間制が適用されます。この時間数を超えた場合には会社は割増賃金を支払う必要があります。割増賃金率については以下のように定められています。
- ① 時間外労働・・・2割5分以上(1か月について60時間を超える場合は5割以上)
- ② 休日労働・・・・3割5分以上
- ③ 法定労働時間内の深夜労働・・・2割5分以上
- ④ 時間外労働が深夜に及んだ場合・・・5割以上(1か月について60時間を超える場合は7割5分以上)
- ⑤ 休日労働が深夜に及んだ場合・・・6割以上
※中小企業などの猶予対象の企業は、( )書きの1か月60時間を超える場合の割増率は適用されません。
具体的な例をあげると、午後6時までが所定労働時間(ちょうど8時間労働)で午後11時まで働いた場合には、午後6時~午後11時までの5時間が時間外労働手当の対象になり、午後10時~午後11時までの1時間が深夜労働手当の対象になります。
変形労働時間制や裁量労働制を採用していない場合は、在宅勤務であったとしてもしっかりと労働時間の把握を行った上で、残業代等の支払いを行っていく必要があります。
一方で、条件が合えば変形労働時間制や裁量労働制の導入も可能です。その中で、在宅勤務に導入されることが多い制度として、「事業場外みなし労働時間制」をあげることができます。ただし、在宅勤務時に事業場外みなし労働時間制を適用するには、次の3つの条件すべてを満たしていることが求められます。
① 当該業務が、起居寝食等私生活を営む自宅で行われること。
② 当該情報通信機器が、「使用者の指示により常時(※1)」「通信可能な状態(※2)」におくこととされていないこと。
③当該業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと。
「具体的な指示に基づいて行われる」には、例えば、業務の目的、目標、期限などの基本的事項を指示することや、これらの基本的事項について変更の指示をすることは含まれません。
みなし労働時間制を適用することができるときでも、休憩や休日は実際に付与し、深夜時間帯については、「実際の(深夜)労働時間」を把握する必要があります。また、みなし労働時間制でも休日に労働した場合は、休日勤務手当の支給が必要です。
在宅勤務では、時間管理がルーズになりやすく、「仕事量は変わらないはずなのに残業代の負担が増えた」という経営者の嘆きを耳にします。在宅勤務者の健康管理の観点からも、在宅勤務時の労働時間のルールは明確に定めておくことが重要です。
今回は、在宅勤務における労働時間の考え方について紹介をしました。次回は、在宅勤務時の労災保険法の適用について説明します。

川島経営労務管理事務所所長、(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサルタント、社会保険労務士。
早稲田大学理工学部卒業後、サービス業にて人事・管理業務に従事後、現職。人事制度、賃金制度、退職金制度をはじめとする人事・労務の総合コンサルティングを主に行い、労務リスクの低減や経営者の視点に立ったわかりやすく、論理的な手法に定評がある。
著書に「中小企業の退職金の見直し・設計・運用の実務」(セルバ出版)、「労働基準法・労働契約法の実務ハンドブック」(セルバ出版)、「労務トラブル防止法の実務」(セルバ出版)、「給与計算の事務がしっかりできる本」(かんき出版)など。