DXコラム#07 ITベンダーの「DXを実践」とは何をすることか

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ITベンダーには、2つの役割があります。1つは、お客様の要望に応えて、システムの開発や運用などのITに関わる仕事をすることです。もうひとつは、ITのもたらす価値を世の中に広め、お客様を主導し、その価値を最大限に活かして、お客様の事業の成長や経営の変革を支援することです。

需要があるから仕事になる。だから、「お客様の要望に応えて、ITの仕事をすること」は、ビジネスとしての当然の選択であって、それが収益の柱となっているわけですから、そこに経営資源を投資することは、当然のことでしょう。しかし、いつまでもそのやり方だけにたよって、事業を成長させ続けることは困難です。ならば、新たなITの需要を喚起し、収益の源泉を創り出さなくてはなりません。ITベンダー各社が、DXを喧伝するのは、そんな理由があるのです。

確かに、DXもまた、前者の「お客様の要望に応えて」の仕事です。お客様もまた、DXの実践を経営トップから求められ、ITに関わる仕事なので、ITベンダーに相談を持ちかけます。しかし、いままでと同じようにはいきません。

確かに、ITは必要不可欠ですが、それは手段のひとつであって、DXの本質ではないからです。ここを理解しないままに、「AIを導入して、業務の効率化を図りましょう」や「リモートワークに対応して、ゼロトラスト・ネットワークを構築しましょう」といった手段の話しに留まっていては、お客様の「DXの実践」に貢献したことにはなりません。

DXの本質は、「デジタルを前提に変革に俊敏に対応できる企業すなわちアジャイル企業へと変革すること」です。AIを使うことも、ゼロトラスト・ネットワークを構築することも、必要なことではありますが、それは、目的である「アジャイル企業への変革」を実現する手段です。

図:デジタル化とDXの違い

DXは、手段だけでは、できません。そこで働く人たちのマインド・セットを変革し、行動習慣や規範、働き方や業績評価基準など、事業や経営のあり方を変えること、すなわち、企業の文化や風土を変えることなくして、できません。
ならば、ITベンダーは、冒頭に掲げた、もうひとつの役割である「ITのもたらす価値を最大限に活かして、お客様の事業の成長や経営の変革を支援すること」を実践しなくてはならないはずです。
そんな理解と覚悟なくして、「お客様のDXの実践を支援します」や「お客様のDXパートナーになる」ことはできないわけで、これまでと仕事の中身が大きく変わってしまうのです。

ならば、自らもDXの実践に取り組まなければ、その役割は果たせません。自らが実践し会得したノウハウや、そこで磨かれた感性なくして、信頼を得ることなどできないからです。
では、ITベンダーの「DXの実践」とは、何をすることなのでしょうか。

「デジタルを前提に変革に俊敏に対応できる企業、すなわちアジャイル企業へと変革すること」

私は、DXの本質をこのように解釈していますが、まずは、「デジタルを前提に」という言葉について説明します。これには、2つの視点があります。

図:「デジタルを前提」とは?

社会の視点:
誰もが、当たり前にスマートフォンを使いこなす。買い物、ホテルや交通機関の予約は、ネットを使う。駅を降りれば地図サービスで自分の居場所と行き先を確認し、到着時刻をLINEで相手に知らせる。まさに社会は、”デジタル前提”に動いている。そんな社会の常識に対応できなくては、事業の存続も成長も難しい。
事業の視点:
”デジタル前提”の社会に対処するには、自らの事業もデジタルを駆使し、社会の常識に対応できなくてはならない。そうしなければ、顧客は離れ、収益の機会を狭めてしまう。積極的に、デジタルを前提に新しいビジネス・モデルを作り出さなければ、事業の存続も成長も難しい。

こんな2つの視点で、「デジタル」を捉え、次のような取り組みを行うことが、ITベンダーにとっての「DXの実践」です。

図:ITベンダーが「DXを実践する」とは何をすることか?

体感なき言葉に説得力はありません。実践なき方法論に信憑性はありません。そんなITベンダーの語るDXを、お客様は信頼することなどできません。

DXの実践は、とても覚悟のいる取り組みです。だからこそ、「お客様の要望に応えて、ITの仕事をすること」で稼げるうちに、自らが覚悟を決めてDXを実践し、「ITのもたらす価値を最大限に活かして、お客様の事業の成長や経営の変革を支援する」企業へと事業の重心を移すべきです。

「お客様のDXの実践を支援します」や「お客様のDXパートナーになる」といった看板に偽りありと指弾される前に、取り組むべきことだと思います。

著者プロフィール
ネットコマース株式会社 代表取締役
斎藤昌義(さいとう まさのり)

1982年、日本IBMに入社、一部上場の電気電子関連企業を営業として担当の後、1995年、当社を設立。外資系企業の日本で事業開発、産学連携事業やベンチャーの企業をプロデュース、ITベンダーの事業戦略の策定、営業組織の改革支援、人材育成やビジネス・コーチングの他、ユーザー企業の情報システムの企画・戦略の策定などに従事。ITの最新トレンドやビジネス戦略について学ぶ「ITソリューション塾」を2009年より主宰し東京/大阪/福岡で開催、また、ITに必ずしも詳しくない経営者や事業部門のリーダーを対象とした「ビジネス・リーダーのためのデジタル戦略塾」の他、年間150回程度の講義・講演。

著書
  • 「システムインテグレーション崩壊(技術評論社・2014)」
  • 「【図解】コレ1枚でわかる最新ITトレンド(技術評論社・2015)」
  • 「システムインテグレーション再生の戦略(技術評論社・2016)」
  • 「未来を味方にする技術(技術評論社・2017)」
  • 「【図解】コレ1枚でわかる最新ITトレンド[増強改訂版](技術評論社・2017)」
  • 「SI事業者/ITベンダーのためのデジタル・トランスフォーメーションの教科書(デジタル出版・2018)」 https://libra.netcommerce.co.jp/5022
  • 「【図解】コレ1枚でわかる最新ITトレンド[新装改訂3版](技術評論社・2020)」

その他、雑誌寄稿や取材記事、講義・講演など

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