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ビジネスコラム

現実解としての戦略

第三回 戦略構築に向けた情報と経営価値

前回、時間も経営資源として認識すべきというお話をしました。それを受けて、成果を得るまでの時間を短縮する必要があるともお話したと思います。そして、そのためには、比較的短期間で成果があがると思われる領域には、優先的に資源投下を行う必要があるとも話しました。

では、その判断はどのように行うべきでしょうか。「うちの社長は決断できない」、「いつもうちの役員は判断を先延ばしにする」などという声もよく聞きます。しかし、では決めさえすればいいのでしょうか。それこそギャンブルではないでしょうか。

戦略が適切に構築されていなければ、正しい判断はできません。戦略を適切に構築するには、膨大な量の情報を扱うことになります。膨大な情報は、一度に扱うことはできないので、いくつかのプロセスに展開する必要があります。このプロセスの話は、また次回以降にするとして、今回は、戦略が適切に構築するために必要な、正しい材料をどのように集めるか、そもそも、戦略を構築に当たってふさわしい情報とは何か、についてお話したいと思います。

まず、戦略を考えるにあたって、一番基本的な考え方は、客が自社の何に対して、お金を払ってくれているか、という事実関係の把握です。これがわからずして、戦略を立てることなどできません。しかし、この点に関してすぐに回答できた企業というのは、個人の経験ではあまりないのです。むしろ、聞いた社員によってまちまちの回答をよこすことの方が多いですし、経営層の間でも意見がわかれることさえあります。

この点に関する情報を集めて、まず自社の基本価値を再認識することが一番重要で、まず最初に取り組むべきものです。昨日設立した会社でなければ、生き残ってきた理由があるはずです。この、生き残ってきた理由こそ、市場に受け入れられてきた強みであり、積み重ねてきた価値であるはずです。

新規事業を考えるにしろ、M&Aを狙うにしろ、この今まで積み重ねてきた価値に沿った戦略を立てるべきなのです。もしそれを無視したような戦略を立てるというなら、それはまったく新しい会社を作ることと同じです。今の会社を発展させようとして戦略を立てようとするなら、まずは自社の基本価値を認識し、それをもとに戦略を立案する必要があります。この基本価値を、私は「ヘリテッジ(先代より受け継いできた財産)」と呼んでいます。

では、そのヘリテッジを認識するのに一番役に立つ情報とはなんでしょうか。私は、自社の社員が、事業運営の現場で認識している情報こそが一番役に立つと考えています。

つまり、会社の中で、外部と接触する社員から受け取る情報のことを指します。その中心になるのは営業関係者でしょう。日々現場で顧客と接している人たちにヒアリングして、自社や自社製品・サービスの評価や批判、称賛などの最新の情報を入手していくのです。いわば、自分の会社を同心円の中心にして、手が届く範囲まで、情報の網を広げていくようなイメージです。前回の問いかけである、正しい情報とは何か、の答えの一つがこれです。

では、なぜこのような情報が最適なのでしょうか。一つは、競争環境が厳しくなっている状態では、他者目線が自己認識に一番適切だからです。競争環境が厳しいということは、要は競争相手が多いということです。つまり、お客の側には、選択する機会が多くあるということです。

そうであれば、その多数ある機会や競合会社の中から、自社を選んだ理由というのは、すなわち競合相手に対する優位点であることが想像できます。ならば、その優位点を軸に顧客層を変えてみたり、単価設定を変えてみたり、市場を変えてみたり、と視点を移して検討することが、適切な戦略を立てる第一歩になるのです。

そして、このような情報は、いわゆるマクロデータでは取れない情報なのです。当然ですが、これは自社の製品・サービスの売れ行きに関する情報ですから。自分たちで情報をとりまとめる必要があるのです。

このようにお話すると、いわゆる顧客調査のようなものを連想する方もいらっしゃるでしょう。それも悪くはないですが、個人的には、まずは社内スタッフからの聞き取り情報を優先したいと思います。

なぜなら、ユーザーは日常的に、なぜこの製品、商品、サービスを選んだのか、などを考え続けているわけではないからです。すなわち、調査項目を用意しても、その質問内容や回答候補に誘導されてしまうことがあり得るからです。従って、回答の精度を上げるためには、念を入れて作成した質問を用意した上で、相当な母数の情報を集めなければなりません。それにはかなりの負担が必要ですし、何よりまとめるまでに時間がかかります。そう。前回お話したように、時間は資源です。その資源投下に見合う内容は確実にとれるのでしょうか。それを考えて行動しなければなりません。

むしろ、聞き出すスキルさえ磨けば、社内のスタッフからの情報で、基本的な内容はわかるものなのです。社内のスタッフからの聞き取りであれば、時間も比較的かけなくてもできるでしょう。つまり、概要を短い期間で固めることであれば、これで十分というケースが多いのです。

地味ではありますが、確かな情報を手にして、実現性の高い戦略を立てることが、まず迅速な意思決定の第一歩です。正確な情報背景と、ヘリテッジに裏打ちされた実現性があれば、意思決定しやすいでしょうし、その決定の理由も説明しやすいでしょう。

多くの企業の場合、自分たちの足元にこそ、改善のヒントがある場合が多いです。誰も目にしたことがない素晴らしいアイデアなど、まずありません。戦略は常に現実解であるべきなのです。

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