トピックス
ビジネスコラム

現実解としての戦略

第五回 情報収集のためのヒアリング技法2 ヘリテッジの見つけ方

さて、今回は、ヒアリングで具体的に何を、どんな風に聞き出すのか、中身の話をしてみようと思います。

戦略を組み立てる際には、自社の基本的な価値(ヘリテッジ)を正しく把握することが必要で、そのためには、現場社員からの情報が重要であるとお話しました。したがって、今回はそのヘリテッジとはどんな情報から導かれるのか、それはどのようにして聞き出していくのか、ということについてお話したいと思います。

前回のおさらいですが、ヒアリングの対象となるのは、社外と接触が多く、他者視点で自分の会社やサービスを見ることができる人々です。通常は営業担当者になります。

では、その人たちから、何を聞き出せばいいのでしょうか。実は重要なのは、答えを求めてはいけない、ということです。ここで求めるべきは、基礎情報であって、解答そのものではありませんし、まずきれいな答えが出てくることはありません。対象となるのは、社外から見た自社の強みです。競争が激しい中では、他者目線で自社を浮き上がらせる、これがこのヒアリングの目的です。他社目線で自社を見たときに、競争環境下での強みがはっきりとするのです。この強みこそ、企業の中心を成す、時間の流れの中でも変わらぬ価値であると考えております。このコラムでは、これをヘリテッジと呼んでいます。

ヒアリングの準備をしましょう。まず行うべきはヒアリングの前に、ヘリテッジという、抽象的な事象を定義付けしておくことです。要は仮説を立てておくということです。

それは価格競争力なのか、あるいは機能面での差なのか、信頼性か、品質面か、あるいは営業マンのサポートが献身的で、製品的にはあまり差がないのか、など、思いつく限りの可能性を出しておくことです。これをよくMECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive:ミーシーとか、ミースなどと呼びます)といいます。一通り、可能性を出したら、ここから絞りこみに入ります。ここで重要なのは、数ではなく質です。ここで出てくる内容はあくまで仮説でしかないからです。本当に議論の対象にする価値がある、いくつかの仮説があればいいのです。

また、あまり仮説を立てる作業に熱中すると、その仮説の方に引っ張られた先入観を持ってしまうことがあります。そのため、数を無理やり出すのではなく、ヒアリングの際には思い切り絞りこんでいいと考えます。その代わり、なるべく真実味のある仮説がほしいのです。数個でいいので質の高い仮説を、ヒアリング前に用意することが第一です。

そして、ここが重要ですが、質の高い、真実味を持った仮説を作るには、根拠が重要です。なぜそう思ったのか、理由を明確にするべきです。もっとはっきり言えば、証拠(エビデンス)が必要です。

個人的な経験をもとに言えば、仮説を作る際に、最も重要なのに、重視されていない内容の一つが、この証拠の部分です。仮説を単なるオピニオンとしか認識しない人があまりに多いのです。証拠がないならば、それはオピニオンです。それは仮説ではなく、ただの意見です。百人いれば百通りです。それでは議論がかみ合いません。今回必要な仮説は、企業や商品の差別化に必要な議論の出発点ですから、事情に精通している人ならだれもが納得するレベルになっていないと困るわけです。

よほどのことがない限りは、仮説の根拠になるような証拠の部分が見つかるはずです。それはなるべく定量的なデータや、トレンドを示すような情報群が望ましいのは確かですが、定性的なものでも構いません。繰り返しますが、事情に精通している人(部外者や素人ではないです)なら、腹落ちできる内容であることが必要、ということです。

誰が見ても、ある程度は納得できる仮説ですから、せいぜい数個になると思います。まずその仮説を、ヒアリングの場で聞いてみることになります。

余談ですが、ブレインストーミングなどをやったときに、しばしば混乱を拡大する主催者がいます。私の経験では、その場合、証拠のないオピニオンを土台にして、ブレインストーミングなどを行っていることが多かったです。単なるオピニオンが飛び交うから、議論が錯綜して収拾がつかなくなるのです。

では、いよいよヒアリングを始めましょう。

営業担当者は前回のお話のように、社外の状況に精通していると仮定します。その人達に、最初に仮説をぶつけてはいけません。先入観を作ることを避けるためです。まずは自社が他社より優っている点と、劣っている点に関して確認します。そして、その意見を裏付ける、お客や競合の発言などを入手します。雑談のように始めた方がいいでしょう。発言の内容もしばしば揺らぐでしょう。でもそれを責めてはいけません。人間の発言はそんなに厳格ではないものです。無理に整合性をとろうとすると、意識的に話を固められてしまうことがあります。それは結果的にミスリードになる場合があります。揺らぎをとるのは、聞き手の仕事です。少しずつ確信に迫って、ゆらぎをとっていってください。

その話の内容にゆらぎがなくなってきたら、用意した仮説を見せて、確認をとってください。仮説は複数あるので、その中から、目の前の話し手の意見に近いものを採用します。これを複数の人に繰り返していくことで、だんだん仮説が固まってきます。

そしてこれはまず他に言っている人を見たことがないので、どうぞ気をつけていただきたいのですが、もうひとつ重要な点があります。

それは、優位点と劣っている点のそれぞれを時系列で確認することです。今現在の優位点に対して、3年前はどうだったか、5年前はどうだったか。時系列で見ることがとても重要です。これはまた次回以降お話しますが、時系列で優位点を確認することで、環境の変化の中で変わったものと変わらないものが見えてきます。そこで変わらずに残っているものが、ヘリテッジである可能性が高いわけです。

ある程度、ヒアリングが進めば、事前に持ち込んだ仮説に関してもどれが現場の意識に近く、どれが遠いかがわかってきます。そこで仮説をランク付けすることになります。

このような話を、前回のお話した対象者から一人ずつヒアリングをして、確認していきます。これを繰り返すのは結構大変な作業です。しかし、次の数年の戦略の基本を、机上の思考で決めてはいけませんし、一般論にすぎないマクロ資料に基づいて、というだけでもいけません。自社の社員からの情報は貴重なのです。そこから集めた情報を正しく分析してこそ、戦略の基本になる概念を作ることができるのです。

お問い合わせ・資料請求

資料請求・お問い合わせはWEBで承っております。どうぞお気軽にご相談ください。

WEBからのお問い合わせ
お問い合わせ
資料ダウンロード・資料請求
資料請求