現実解としての戦略
第六回 ヘリテッジから戦略へ
さて、今回は、ヒアリングで聞き出した情報の活用について話をしてみようと思います。
戦略を組み立てる際には、自社の基本的な価値(ヘリテッジ)を正しく把握することが必要で、そのためには、現場社員からの情報が重要であるとお話しました。では、ヒアリングを終了した後、次のアクションはどうなるでしょうか。
まずは、ヘリテッジの特定を行います。ヘリテッジのおさらいをすると、時間の経過にも変化を受けない、自社が存続してきた中心的な理由、それがヘリテッジです。多くはいくつかのエレメント(要素)から構成されると考えておくとよいと思います。その理由が、たとえば、製品の機能面での優位点なのか、信頼性か、品質面か、あるいは営業マンのサポートが献身的で、製品的にはあまり他社と差がないのか、価格競争力なのか、などの要素です。
そして、これらの要素をさらに細分化して、構造化して検討することになります。機能面での優位点とは、数字化できた場合に高いものを指すのか、あるいはユーザフレンドリーを指すのか、実は直接の機能ではなく、フールプルーフ面で差があるので機能を発揮させやすいのか。信頼性とは、耐久年数なのか、高負荷時の機能維持なのか、など、構成要素を構造化することで、要素を具体的にイメージしやすいようにします。
言い換えると、ヒアリングの対象である営業マンがこのような情報をつかんでいることが前提になります。「こんな優れた人材はわが社にはいないよ。」と言われたこともあります。しかし、本当に独りもいない、ということは経験上ないです。本当にいないなら、その会社はつぶれています。存続できているということは、存続するに足る人材が中にはいるはずなのです。
第四回で、母数は必要であるが、数を増やせばいいわけではない、ということを言いましたが、それはこういうことなのです。聞くに値する情報は、聞くに値する人から得る。これが鉄則です。その上で、偏りを避けられる範囲まで数を増やすわけです。
さて、ヘリテッジらしき物の形が見えてきたら、これを、事前に立てた仮説を見比べる形にして、検討することになるでしょう。ヒアリングを通じて、おおむね自社の価値のようなものは把握できたはずです。まずはそれを、一度落ち着いた状態で、ヒアリング前に立てた仮説と照らし合わせてみることです。今、目の前にある、ヒアリングから導かれたヘリテッジの候補とその構成要素を軸にして、ヒアリング前に立てた仮説と比較してみるわけです。
事前仮説が正しく立てられている場合、おおむね一致したものになっていると思います。また、ヒアリングの結果も、それを肯定する材料が多く出てきていると思います。しかし、完全に一つに絞りきれない、または細かい矛盾などが残っている、という状態になっていることが多いでしょう。その場合は、仮説と結果の差異をやはり構造化して、論点を明確にし、議題集約的な議論で検討します。これによって、ヘリテッジを関係者の間で共有できるレベルまで質を上げる作業が必要です。
ここで、ある程度ヘリテッジが見えてきたと感じたら、次に作業を進めることになります。 それは、自社の製品やサービスの中から、ヘリテッジを一番うまく表現しているものを見つけることです。このあたりまでくると、第四回でお話した、ヒアリングの目的である、「他者目線による自己評価」もゴールに近づいてきています。
会社によっては、ヘリテッジを表現している製品そのものがあったりします。そうでなくても、部分的に表現している製品がいくつか存在するはずです。それらを見つけて、その製品・サービスのどこが、どのような理由で受け入れられているかを検討するのです。
ここで、ヒアリングで入手した、構造化の内容が役に立ちます。製品・サービスの要素を同じく構造化することで、顧客に受け入れられている要素が明確になるでしょう。
その製品やサービスは、現存のものだけを見ないでください。第五回で話したように、ヘリテッジを聞き出す際に、過去にさかのぼって話を聞いているはずです。同じだけ過去にさかのぼって探してください。
ここで重要なのは、特定の製品に行きつくのは、あくまで結果である、という点です。顧客に喜ばれる要素を見つけるのが先で、それを具現化したら、何かに行きあたる、というプロセスや、構成要素を理解するべきです。それが理解できないと、派生的な製品やサービスを企画したり、新規事業展開などの発展的展開を行うことができなくなるからです。
実際には、その製品・サービスはほとんど一つか二つに絞られてくるはずです。事実、最近はヘリテッジを市場にアピールするため、会社の代名詞ともいえる製品を社名にする会社も増えてきているでしょう。そういえば、このコラムを掲載してもらっている、グランディットもその一つですね。これは今まで話をした背景に則っているともいえるわけです。
もし、ここまでの話でヘリテッジがうまく見つかったと考えると、次は戦略に展開していくことになります。
初回、第二回でお話したように、戦略とは資源を全体最適の観点で分配する意思決定を指します。この場合の全体最適とは、全社的にみて、営業利益を最大化できる配分ということです。つまり、このヘリテッジを具体化させた要素を持つ製品・サービスを最大限効率的に展開できるように資源配分を考えて行くことになります。
また、第二回でお話したように、この資源に時間を加えることで、単年度だけでなく、中期的な視点で営業利益を最大化することになります。
気がつけば、早くも師走になっています。
続きは来年、またお話するとしましょう。それでは、皆様、よいお年をお迎えください。