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ビジネスコラム

現実解としての戦略

第八回 想像力活用とKPI

本コラムも残りあと二回となりました。この連載は続けて読んでいただいている方が多いそうで、そんな方々に支えられて、ここまできた感があります。本当にありがとうございます。

さて今回は、戦略実現のために不可欠である、分析作業の能力を実務で磨く方法です。

前回、戦略の構築のためには、材料の構造化やエッセンスの抽出などの知的建設作業が不可欠であり、単なるヒアリングや材料集めでは不足がある、と記載しました。また、その能力を鍛えるには、現業をこなしながら、訓練する方法が望ましいともお話ししました。今回は、その訓練する方法を中心にお話してみようと思います。

しばしば誤解されがちですが、まず前提として、こうした能力は普段の仕事の中でしか身に付かない、ということがあります。なぜかと言えば、知的建設作業とは、抽象的な事象を頭の中で構造化し、目的に対する優先度を当てはめ、戦略構築に使える材料を選定し、再構築していく、などの作業を指します。これは結構高度な作業です。

これを、一度や二度試みただけでできるようになるでしょうか。

正直なところ、まず無理でしょう。理論的なものを理解するだけでは足りないのです。なぜなら、こうした仕事にはある種の想像力が必要だからです。そして、これは実際に手を動かさないと身に付かないことが多いのです。しかし、こうした能力というのは、多くの人は何度も繰り返して試すうちに磨くことができます。だとすれば、普段の業務を遂行しながら、このような作業を行うことが最も効率がいいということになるのです。

そうなると、普段の仕事の中で訓練できる環境が必要ということになります。実は、表題にあるように、KPIの分析、活用を応用することで、こうした作業を実務の中に組み込むことができるのです。これにより、知的建設作業の能力向上を望むことができると考えています。

KPIとは、key performance indicator:重要業績評価指標と訳されます。概念としては、戦略に沿ったプロセスの達成状況を数値化し、それを確認しながら業務効率や精度を上げていく、とされています。

一般の概念は以上のとおりですが、私は、この手法の最大のメリットの一つは、現業に従事しながら、知的建設作業を訓練できることにあると考えています。その理由は、KPIの使い方にあります。

KPIの利用として最初に思い浮かぶのは、仮説検証に利用することでしょう。業務を推進する前に、望ましい状態を仮説として立てておき、行動の結果を仮説と比較して検証する。そのように理解されていると思います。KPIのような指標は、その検証の際の材料として利用されるわけです。この作業を、知的建設作業のトレーニングとして利用するわけです。

しかし、それなら、KPIを利用していればこうした能力はどんどん向上しているはずです。しかし、実際にはそういった例はあまり聞きません。なぜでしょう。

私が聞いた範囲では、KPIを利用したと言っても、単に数字を公開しただけにすぎないケースが多いのです。数字は単なる事象の断片を示す参考値なので、その数字が持つ意味や、利用方法まで定義しないと、建設的な頭脳労働環境を整えたとは言えないのです。

例えば、私も関わったある企業向けの手法ですと、KPIを算出するだけでなく、利用する会議体や利用方法も規定しています。各KPIは、単純なデータではなく、週次の業務遂行の仮説と結果説明の補完材料として使用するように定義しています。

この手法のポイントは、KPIを単独で考えていない点です。週次であったり、月次であったりする会議体の利用情報の一つとしてとらえています。報告者は、このKPIを材料として扱い、自分のこれからの行動を、自己分析した結果を踏まえて次のアクションを計画する、という仮説検証的な作業をルーティンワークとして取り入れているわけです。

そして、その結果は上司と共有されます。上司は部下のいわば仮説検証作業の管理者となり、組織的に各員の行動方針を統括して、さらなる上司に報告する、という情報構造をとります。

この手法をとると、日常的に、情報を分析し活用することが要求されるのです。たとえば営業担当は、単に客先を訪問すればいい、というわけではなくなります。訪問数と商談数を比率で比較するKPIが要求されていれば、訪問だけしていても商談につながらなくては意味がありません。どうすれば商談につながるかを考えて、行動を起こさなければならないわけです。こういった業務習慣は、業務品質の向上に必要な、洞察力と推理力の訓練になります。

これらを活用するための想像力が、戦略を考える上で重要なのです。過去の行動の中からヘリテッジに気付き、それを活用して未来の方向性を企画する能力の訓練になるわけです。

その意味で、例に出したKPI活用プロジェクトのような、知的建設作業を実務の中で行うことは、かなり有益であると考えるのです。

付け加えると、こうしたKPIはやはりシステム化されていることが望ましいでしょう。集計作業に時間をかけすぎると、検証に時間が使えなくなるからです。たとえば、ERPソフトの導入の場合、私の経験ではこの5年間に手伝ったERPプロジェクトは、すべてKPI実現を目的としていました。

昔は、情報システムとは、作業の手間を省力化させるために導入していましたが、最近は情報の活用によって、業務効率を向上させるために導入するケースが増えている、ということになるでしょう。

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