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ビジネスコラム

現実解としての戦略

第九回 戦略推進とKPI

本コラムもとうとう最終回となりました。九回と短い連載でしたが、いかがだったでしょうか。
戦略の立案や実行に関して、一般にイメージされるものとは、少し違う形の内容をお伝えできたと考えております。後少し、お付き合いください。

さて今回は、前回触れたKPIの活用に関してのお話です。前回は、戦略の企画に必要な知的作業の能力を実務で磨くのにKPIの活用が有効であるという話でした。

しかし、KPIを使うメリットはそれだけではありません。戦略を実際に推進するときにツールとして使うことも有効なのです。戦略を現実解として使うことをテーマとした連載の最終回には、ふさわしいといえるでしょう。

まず、KPIのおさらいです。KPIとは、key performance indicator:重要業績評価指標と訳されます。概念としては、戦略に沿ったプロセスの達成状況を数値化し、それを確認しながら業務効率や精度を上げていく、ということになります。

では、そのKPIはどんな使い方をすれば、戦略の実現に役立つのでしょうか。その前に、まずは、戦略の実現フェーズではどんなことが起こるのか、検証してみましょう。

本連載では、第一回にお話ししましたが、戦略とは経営陣が、経営資源を配分する際の考え方、あるいは方針、というように定義しています。一方、経営資源の配分を終えた後、与えられた資源で効果を最大化するための施策を、戦術という風に呼んでいます。

つまり、経営資源の配分を終えた後は、配分された資源で最大の効果を上げるよう、現場の指揮官が戦略を引き継いで実務を推進する必要がある、ということです。つまり、戦略の実行フェーズとは、戦術フェーズを指すといってもいいでしょう。

では、戦術フェーズでは何が重要になるでしょうか。戦略と戦術の関係から言えば、一番重要なのは、関係者が一定の方向性に基づいて行動することです。経営資源を配分するということは、配分する理由が背景にあるということです。その理由こそが経営判断なのですから、その経営判断を具体的な実務で実現するために、関係者は経営判断に沿って職務を遂行する必要がある、ということになります。結果的に、正しく経営判断を理解して動いていれば、一定の方向性を持って職務に当たる形ができあがるはずです。

しかし、一定の方向性に基づいて、といっても言葉にするほど容易ではありません。なぜなら、その方向性は業務遂行の際、常に同じ職務を遂行する関係者全員に意識されなければならないからです。全員が常に同じ方向を向いて行動するなど、簡単にはいかないでしょう。

戦略の実現の難しさの一端はここにあります。多くの会社で、この戦術の段階で戦略が瓦解しています。つまり、机上の段階では関係者の足並みまで考慮しないでもよかったので、理論構築ができたわけです。しかし、実現の段階で現場関係者の足並みをそろえる必要を理解せずに、単に通達や調整で実現しようとするケースが多いのです。

通達や口頭での調整では、戦略の背景を行動に反映するほど深い理解を得られません。結果、現場業務の具体的な行動に反映させることができずに、各人バラバラで動いて戦略の意味がなくなっていくケースがほとんどです。これが、実務に戦略を反映できずに終わる理由の一つで、戦略が標語と同義になってしまう理由でもあります。

しかし、現実解として戦略を使うには、この問題を解決する必要があります。どのようにそれを実現するのでしょうか。今回はKPIをソリューションとして紹介しています。KPIを導入しさえすれば解決できるものではないですが、前回のように、運用方法まで含めて考えると、解決策の一つにはなりえます。

まず、本質を考えるとKPIとは、結果を計数化するのか、日常の業務状況を計数化するのか、の二つの種類があります。書籍などで紹介されている、何々売上高や何々利益率、などの、要は仕訳の後の数字を使うものは前者だとお考えください。一方、たとえば営業であれば、一日当たりの顧客訪問数や商談数、成約率、などは後者です。今回はこの後者が重要なのです。

つまり、この後者を戦術の評価に使えるように設計するのです。たとえば、戦略として売上高を上げることを試みたとしましょう。これだけの資源を投下したのだから、これだけの売上高の向上が見込めると判断するはずです。 すると、この結果につながる業務行動を計数化します。

この場合、KPIとして使われる計数は、量的な計数と率的な計数に分解できるはずです。要は機会と効率です。売上の向上には商談数がこれだけ必要で、そのためにはどれだけの顧客候補を発掘する、などの行動をタスクとして出していきます。そして、それを表現できる計数に変えます。

その上で、この機会と効率を満たす行動や施策を実際の遂行者が仮説として考えるわけです。前回でお話した事例では、利用する会議体や利用方法も規定していたのはこういうことです。

この仮説の検証を、週次であったり、月次であったりする会議体で実施し、精度を上げていくわけです。報告者は、このKPIを材料として扱い、自己分析した結果を踏まえて次のアクションを計画する、という仮説検証的な作業をルーティンワークとして取り入れているわけです。

そういう運用をすると、KPIの設計が戦略から戦術のコンセプトと合致していれば、仮説自体が戦略に沿ったものになります。これによって、各人の方向性は一致し、行動の拠り所である仮説が戦略と直接つながることになります。 そうなれば、戦略の実現性が高くなることに貢献することになるでしょう。

重要な点は、KPIの構想時点から、戦略の実現に結び付けて考えていることです。現在の企業環境下では、関係者は、もう充分に近代化された環境で仕事をしています。これをさらに洗練させ、効率を上げるには、単独のソリューションでは難しいのです。戦略、システム、運用規程、KPIなどの複合的なソリューションを統合的に推進することが有効なソリューションになるのです。

私としては、こうしたソリューションがより世の中に広まり、効果を上げる企業が一社でも増えることを願っております。この続きはまたセミナーなどでお話できればと思います。

では、またの機会にお目にかかりましょう。どうもご愛読ありがとうございました。

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