トピックス
ビジネスコラム

転換期を迎えているEDI -迫るEDI 2024年問題とは-

第二回 インターネットEDIへの移行でどう変わる?手順と各業界の採用動向を解説

1.代替となるインターネットEDI

第一回でもご紹介したように、インターネットがコミュニケーションインフラとして不自由なく利用できるほどに発展/普及する中、PSTNからIP網への移行に伴って生じた「EDI-2024年問題」への有効な解決策として、“インターネットEDIへの移行”が各産業界で推奨/検討されている。今回はそんなインターネットEDI手順についてご紹介する。

インターネットEDI手順は、ADSLやFTTHなどのブロードバンドサービスが始まりインターネットが本格的に普及し始めた2000年頃から徐々に策定が進んだ。通信形態として、発注側/受注側の双方にサーバーシステムを用意し送受信を行う“サーバー-サーバー型(以下 S-S型)”、発注側にサーバーシステム、受注側にクライアントシステムを用意し送受信を行う“サーバー-クライアント型(以下 S-C型)”の二つに大別できる。S-S型は、双方がお互いに通信処理の起点となることができ、リアルタイムでのEDI取引が可能だ。費用対効果を考えると、大容量の取引データを即座にやりとりしたい場合に有効な形態となる。一方、S-C型は、常にクライアント側が通信処理の起点となり、クライアント側の必要なタイミングでEDI取引を行う。取引先からの発信に備えて常時起動しておく必要があるサーバーシステムと異なり、クライアントシステムなら常時起動は不要となる。さらにEDI端末を社内ネットワークの外に公開する必要が無いため、セキュリティの面からもS-C型はS-S型と比べて低コストでの導入/運用が可能だ。

次の表は、現在国内で利用されている主なインターネットEDI手順を並べたものだ。国際標準となっている「ebXML MS2.0」、「EDIINT AS2」の2手順がS-S型、その他の3手順がS-C型の通信形態を採用している。

■国内で利用されている主なインターネットEDI手順

通信手順 通信形態※1 備考 Biwareシリーズ対応製品
ebXML MS2.0 S-S型
(プッシュ型)
UN/CEFACTとOASISが共同で策定。
  • Biware EDI Station 2
EDIINT AS2 S-S型
(プッシュ型)
IETFが策定。
  • Biware EDI Station 2
JX手順 S-C型
(プル型)
SOAP-RPC規約をもとに経済産業省事業において策定。
  • Biware EDI Station 2
  • Biware JXクライアント
  • Biware らくらく受注Pro 2
ebXML MS3.0 S-C型
(プル型)
ebXML MSのS-C型としてUN/CEFACTとOASISが策定。
  • Biware EDI Station 2
全銀協標準通信プロトコル
(TCP/IP手順・広域IP網)
S-C型
(プル型)
全国銀行協会が策定。
本手順に準拠した「インターネットに対応した全銀TCP/IP手順」はJISAが策定。
  • Biware 全銀TCPクライアント

※1 S-S型はサーバー/サーバー型の略。S-C型はサーバー/クライアント型の略

従来型EDIの国内主要手順である「JCA手順」や「全銀TCP/IP手順」は、どちらもS-C型の通信形態を採る。インターネットEDIへの移行を機にebXML MS2.0やEDIINT AS2を採用して、EDI業務のスピード化、効率化を図る企業は存在するが、やはり従来同様に安価なパソコンでインターネットEDIを実現できるS-C型手順への需要は高い。

S-C型の通信手順を簡単にご紹介すると、まず日本の産業界で最もインターネットEDIの普及が進む消費財流通業界において、流通サプライチェーンの全体最適化を実現するべく、経済産業省事業の一環として策定されたのが「JX手順」である。流通業界の従来型EDI手順として普及するJCA手順の後継に相当する通信手順だ。

一方、金融業界では現在広く普及する全銀TCP/IP手順の後継として、「全銀協標準通信プロトコル(TCP/IP手順・広域IP網)」が策定された。本通信手順では、電文制御等の仕様に関して、従来の全銀TCP/IP手順の仕様がそのまま踏襲されている。そのため全銀TCP/IP手順から移行する利用者は、後続の基幹システムに原則手を加えることなく最小限の負担で移行することが可能だ。2017年に策定された通信手順であり本格的な普及はこれからとなるが、EDI-2024年問題を見据え、今後広く普及が見込まれる通信手順である。なお、弊社インターコムもメンバーとして参加する情報サービス産業協会(JISA - EDIタスクフォース)が策定した「インターネットに対応した全銀TCP/IP手順」は、全銀協標準通信プロトコル(TCP/IP手順・広域IP網)に準拠した通信手順であり、具体的な移行手段として同様に今後の普及が見込まれる。

最後に海外のEDIに目を向けると、国連のEDI標準機関にあたるUN/CEFACT(貿易簡易化と電子ビジネスのための国連センター)で国際的な標準EDIが管理されている。そこでインターネットEDI標準の中心となっているのがebXML(XMLを使用したインターネット上の企業間電子商取引のための仕様群)である。このebXMLの通信手順として「ebXML MS3.0」が定義されている(ちなみに、S-S型のebXML MS2.0もebXMLの通信手順の一つ)。

※参考

2.業界別インターネットプロトコル採用動向

それでは次に、「EDI-2024年問題」を見据えたインターネットEDIへの移行について、各業界の動向をご紹介する。

(1)消費財流通業界

消費財流通業界では、メッセージ、通信プロトコル、セキュリティに関するインターネットEDIの標準仕様として「流通BMS(流通Business Message Standards)」を2007年に策定。現在、流通システム標準普及推進協議会(以下 流通BMS協議会)によって普及活動が行われている。日配食品をはじめ受発注の取引量が多い消費財流通業界においては、送受信における通信コストの削減や取引時間の短縮など、従来型のJCA手順による取引と比べてリリース当時から大幅な業務効率化が期待されていた。流通BMS協議会の発表によれば、2018年11月現在の流通BMS導入企業数は小売が184社、卸売/メーカーが203社となっている。来たるEDI-2024年問題についても、その対応策として流通BMSの展開をより一層進めようとしている。ちなみに流通BMSでは、通信手順としてJX手順、EDIINT AS2、ebXML MS2.0がそれぞれ規定されている。

※参考
(2)電子機器・部品業界

電子機器・部品業界では、電子情報技術産業協会 ECセンター(以下 JEITA ECセンター)が中心となり、電子機器メーカーと電子部品・半導体メーカーの双方においてビジネスプロセスの最適化を図るべく、ebXMLを開発基盤とした新しいEC標準の「ECALGA (Electronic Commerce Alliance for Global Activity)」を2003年に策定し、普及活動を行っている。最新のガイドラインでは、通信手順としてebXML MS3.0が規定され、クライアント側の通信ソフトウェアとしてJEITA ECセンターが開発した「JEITA共通クライアント」を無償で提供している。来たるEDI-2024年問題への対応についても、未だ利用者の多い全銀TCP/IP手順からの移行を図るべく、移行推奨手順としてebXML MS3.0を掲げ啓蒙活動を行っている。

※参考
(3)化学業界

化学業界では、石油化学工業協会(CEDI)によって標準EDIの維持管理が行われている。現在、従来型のJPCA方式(データ形式:CII固定長、通信手順:全銀手順・全銀TCP/IP手順)と、化学業界におけるインターネットEDIの国際標準である「Chem eStandards」を採用したCEDI方式(データ形式:XML、通信手順:RNIF1.1)の2種類が標準EDIとして存在する。JPCA方式を採用する企業においてEDI-2024年問題への対応が必要となる中、データ形式や運用ルールはそのままに最小限の負担で移行を進めるべく、通信手順のみを全銀協標準通信プロトコル(TCP/IP手順・広域IP網)に移行する基本方針が発表されている。

※参考
(4)業界VAN

業界EDIの標準化を目的に、取引企業の間に立ってEDIによるデータ変換を取り持つVANサービスが各業界で普及している。業界VANでは、どの業界においても通信手順をインターネットEDIへ移行し、ファイルレイアウトはそのままという流れが多く見受けられる。以下、業界VANの一部について取り上げる。

■食品・日用品業界VAN

小売-卸売間は、インターネットに対応した標準EDIとして(1)でご紹介した「流通BMS」の普及が進む一方、卸売-メーカー間はVAN事業者がEDI標準化の役割を担っている。

酒類・加工食品業界VANの「FINET」では、2022年12月までに通信手順を従来型の全銀TCP/IP手順からインターネット型のJX手順、EDIINT AS2、ebXML MS2.0へ移行するよう、ユーザー企業に対して呼びかけている。ちなみに、交換するデータは「日食協フォーマット」と呼ばれる固定長形式のファイルレイアウトが利用されている。

また日用品・化粧品業界を中心にVANサービスを展開する「プラネット」でも、通信手順については同様に2022年12月までを目安として全銀TCP/IP手順からJX手順、EDIINT AS2、ebXML MS2.0へ移行するよう、ユーザー企業に対して呼びかけている。なお交換するデータは「プラネット」の専用フォーマットであり、固定長と可変長(TSV)の2種類が用意されている。

※参考

■医薬品業界VAN

製薬メーカー-医薬品卸売間のVANサービスとしては「JD-NET」、「NHI」が普及している。「JD-NET」の通信手順は全銀TCP/IP手順とEDIINT AS2の2種類が用意されており、今後はインターネット型のEDIINT AS2を推し進めていく形となる。一方「NHI」の通信手順は全銀TCP/IP手順のみであり、今後はEDIINT AS2やebXML MS3.0の対応が予定されている。

また近年、インターネット時代の新しい業界プラットフォームとして、データ形式にXML、通信手順にJX手順を採用した「PEDIAS」が本稼働し、普及活動が進んでいる。

■その他業界VAN

医療機器業界では、メーカー-販売会社間のVANサービスとして「@MD-Net」が普及している。「@MD-Net」では、全銀TCP/IP手順からJX手順、ebXML MS3.0、EDIINT AS2への移行を推進している。

紙パルプ業界では、メーカー、代理店、卸売、物流企業など関係企業間のVANサービスとして「カミネット」が普及している。「カミネット」では全銀TCP/IP手順からJX手順への移行を推進している。

※参考

3.金融EDIの刷新-ZEDI

国内の新たな企業間決済インフラとなる「全銀EDIシステム(愛称:ZEDI/ゼディ)」が2018年12月からいよいよ本稼働となった。ファームバンキング(FB)などにおける総合振込、およびそれに係わる振込入金通知、入出金取引明細通知をXML形式の電文で送受信できるようにするためのインフラがZEDIだ。ここではそんなZEDIの概要、メリットについてご紹介する。

ZEDIを利用する最大のメリットは、企業の経理担当者が毎月頭を悩ます“売掛金の入金消し込み作業”を自動化できることにある。一部の会計システムなどでは、これまでも入金消し込み機能を提供していたが、支払いのタイミングや決済手段は取引先の企業によって異なるケースが多く、上手く活用できないこともあった。ZEDIでは、これまで取引データに関連性がなかったFBなどの金融EDIと受発注に伴う商流EDIについて、決済情報と商流情報の紐付けを行うことで、この入金消し込みの問題を解決しようとしている。

■ZEDIの利用メリット

入金消し込み業務の効率化

入金消し込み業務
の効率化
(受取企業)

振込先からのお問い合わせ

振込先からのお問い合わせ
対応軽減
(支払企業)

ヒューマンエラーの回避

ヒューマンエラー
の回避

入金消し込みの問題は今に始まったことではなく、これまでも決済情報と商流情報の紐付けについて検討/実施された経緯がある。結果として十分な普及には至っていないが、その要因の一つとして電文のデータ長の制約が挙げられる。これまでの電文は計120桁の固定長形式であり、そのうちEDI情報欄と呼ばれる商流情報を付加する領域はわずか20桁となっていた。当時はここに最小限のマッチングキーを付加することで紐付けを図ろうとしたが、データ長の短さなどいくつかの要因からほとんど浸透することはなかった。

ZEDIでは、企業と銀行間の取引電文としてISO 20022(金融通信メッセージの国際規格)に準拠したXML形式の電文が規定されている。データ項目の内容や長さを自由に設定でき、柔軟性や拡張性を備えたXML電文であれば、データ長の制約が回避され取引の特定に必要となる情報を十分に盛り込むことが可能となる。

ちなみにEDI情報欄に格納するべき商流情報の標準化について、中小企業庁の研究会である“金融EDIにおける商流情報等のあり方検討会議”で格納するべき商流情報案が2016年12月に公表された。現在、本公表案などを参考としつつ、EDI情報欄の標準化は各業界に委ねられている。一般社団法人全国銀行資金決済ネットワークでは、「全銀EDI情報標準登録制度」を設け、各業界で標準化された内容の申請受付/公表を行っている。産業界全体としてEDI情報欄の標準化が進むことで、すべての企業が本格的にZEDIの恩恵を受けられるようになるであろう。

さて、下記の図はZEDIを利用した振込データの送受信フローを表した概念図である。ZEDIでは、支払企業/受取企業のそれぞれにおいてXML電文の送受信を可能としているが、銀行間(仕向銀行⇔被仕向銀行)の送受信は従来の全銀システムを通じて固定長電文で行う。システムの改変負荷が大きい銀行間の送受信システムはそのままに、XML電文による振込データの送受信を可能にしたのがZEDIなのだ。ちなみに支払企業/受取企業とZEDI間の送受信プロトコルには、主に消費財流通業界で実績のあるJX手順が採用されている。

■ZEDIを活用したFBによる振込データの送受信フロー

ZEDIを活用したFBによる振込データの送受信フロー

支払企業が総合振込情報をXML電文で送信すると、ZEDIが受信データからEDI情報部分を格納し、振込情報と紐付けるためのキー情報を生成する(1)。振込情報を固定長電文に変換し、キー情報を付加して仕向銀行に送信する(2)。仕向銀行から被仕向銀行までは、全銀システムを通じて固定長電文で送信する(3,4)。被仕向銀行から受取企業へ送信する際に再度ZEDIを経由し、格納してあったEDI情報を振込情報にセットする(5)。最後に固定長電文からXML電文への変換を行って受取企業へ送信する(6)。

弊社インターコムでは、ZEDIの規定を踏まえた対応製品としてXML電文の作成/変換に対応する「Biware EasyExchange」、JX手順による送受信に対応する「Biware JXクライアント」を現在提供している。自社/顧客先の会計システムなどと連携してご活用いただければ幸いである。

ちなみにZEDIでは、上記概念図のほかに法人インターネットバンキングによる送受信(XML電文のWebアップロード/ダウンロード)の方法も規定している。ZEDIの本稼働に合わせ、XML電文を簡易的に作成できる専用サイト「S-ZEDI」を公開、ブラウザー上から振込用のXML電文を無料で作成することが可能となっている。

※参考

お問い合わせ・資料請求

資料請求・お問い合わせはWEBで承っております。どうぞお気軽にご相談ください。

WEBからのお問い合わせ
お問い合わせ
資料ダウンロード・資料請求
資料請求