ERP概論
第五回 ERP導入の失敗要因と回避ポイント
これまでの連載で、ERPのメリットについて説明してきましたが、当然ながらERPを導入した全ての企業でプロジェクトが成功し、メリットを享受できているわけではなく、導入に失敗している事例も数多く存在します。
今回は、ERPの導入におけるよくある失敗要因とそれを回避するためのポイントについて解説します。
ERP導入の実態
ERP製品の標準機能を最大限に活用して、低コスト且つ短期間でERP導入を完了し、その結果、経営状態が可視化され、各種KPIをタイムリーに取得できるようになっている状態が理想的なイメージかと思われます。
しかしながら、苦労して何とかERPを導入したものの、以前のシステムに比べて現場の業務負荷が高まっただけで、情報活用まで至っていない、という話を良く耳にします。
また、多くの追加開発を行ったため、メンテナンスに膨大な費用がかかる、メーカーが提供する更新プログラムが適用できずOSのバージョンアップに対応できない、などの問題が発生しているケースも散見されます。
もっとひどい話としては、導入プロジェクトが頓挫してしまい、せっかく購入したERPライセンスを使っていない事例も存在します。
ERP導入を成功させるには、ERPの特性を理解し、適切な方法で導入を推進することが求められます。
しかし、実態としては様々な要因によって、失敗するプロジェクトが後を絶ちません。
ERP導入の失敗要因
ERP導入が失敗する要因を分類すると、「ERP製品の問題」、「システムベンダーの問題」、「ユーザ企業の問題」の3つが挙げられます。
1つ目はERP製品に起因する問題です。この問題は、プロジェクトの目的や自社の状態(会社規模や社員のITリテラシーなど)に適したERP製品を選択しなかったことが原因で発生します。
ERP製品は、パンフレットでは同じように見えても製品ごとに特徴があり、ターゲットとする企業規模や得意領域などが異なります。
例えば、大企業向けの製品は保有する機能が多いため、多様な業務に対応できる反面、ユーザ企業側で決めるべき項目数も多くなります。
結果的に、各種検討に時間を要するためにプロジェクト期間が長くなり、ユーザ企業側の負荷が高くなるとともに、導入費用も高額になってしまいます。また、サービス業の会社が製造業向けの製品を導入しようとすると、機能面でのギャップが多く発生してしまいます。
日本市場での導入実績についても留意が必要です。
ERPの対象となる基幹業務では、国ごとの法制度や商習慣への対応が必須です。日本で発売して間もない製品では、日本市場への対応が不十分なこともあり得るため、日本における導入実績は必ず確認します。
ERP製品を選定する際には、ネームバリューやパンフレット上の謳い文句だけで選んでしまうと失敗につながります。
選定前にシステムに対する要求事項や必要機能を明確にして、自社の要求に合致する製品を選定することが重要です。
次に、システムベンダーに起因する問題があります。
ERP製品の問題と同様に、十分なスキルや経験を有するシステムベンダーを選定しなかったために発生する問題です。
プロジェクトを成功させるためには、システムベンダーのプロジェクトマネジャー(PM)の力量は非常に重要ですが、優秀なPMはそれほど多くないため、アサインすることは容易ではありません。
また、PM配下の導入メンバーについても、スキルレベルには個人差があります。
導入するERP製品に対する知識や経験が不足しているため、ギャップが発生した場合に安易に追記開発を推奨してしまう、業務知識が不足しているため、顧客の要望を適切に把握できない、といったケースは頻繁に発生します。
システムベンダーとしてのERPビジネスへの取組み姿勢も重要です。
マーケティングや人材育成など必要な投資を行っているか、品質管理などプロジェクトに対するバックアップ体制が整備されているのか、などの視点でも評価する必要があります。
同じERP製品であっても、導入するシステムベンダーによって、結果には大きな差が出ます。
安易に付き合いのあるシステムベンダーに依頼するのではなく、自社の要求事項を文書に取り纏めて複数ベンダーに提案を依頼し、最適な提案を提示したベンダーを選択することが重要です。
また、実際にプロジェクトを推進するPMや主要メンバーとは必ず面談をして、知識や経験が十分に備わっているか、信頼できる人材かどうかを判断します。
最後に、ユーザ企業側に起因する問題です。
プロジェクトの目的が明確になっていなかったり、ERPの本質を理解しないままに導入を進めた結果、膨大な追加開発が必要になり、コストやスケジュールが超過してしまうようなケースです。
ERP導入は全社的な変革を伴うため、何のためにERPを導入するのか、明確な目的を設定し、その目的を達成することを第一優先にして、各種の意思決定を行っていくことになります。
例えば、「同業他社がERPを導入したから当社も追随する」といったように、目的が不明確なまま導入を行えば、必ずプロジェクトの途中で混乱が生じます。システム機能についても、導入するERP製品のコンセプトを理解して、標準機能を最大限に活用することが重要ですが、現場部門が現状の業務手順やシステム機能に強いこだわりを持ち、変化に対して拒絶反応を示すようなケースも多く見られます。
そのような状況を回避するためには、プロジェクトの目的を経営層から現場まで浸透させ、ERPの特性やメリット、プロジェクトの方針について、全関係者が正しく理解した上で、プロジェクトを推進することが重要です。
また、プロジェクト体制により問題が生じる場合もあります。
前述したように、ERP導入は全社的な変革を伴うため、それに相応しい権限を持つ人がプロジェクト体制の中核になるべきです。
実行メンバーについても、業務知識やリーダーシップを持つ、エース級の社員を抜擢することが重要になります。
体制が不十分であったため、意志決定が遅延したり、一度決めた要件が後工程で覆るようなケースも見受けられます。
プロジェクトが失敗した場合、責任はシステムベンダー側に押し付けられがちですが、実態としてはユーザ企業側の問題に起因して失敗しているケースもかなり多いと感じられます。
システムベンダーに任せきりにするのではなく、ユーザ企業側が主導権を取ってプロジェクトを推進し、発生した問題に対して主体的に行動することが重要になります。
今回は以上になります。上記で説明した内容を理解していただき、プロジェクトでの失敗を回避するための参考になれば幸いです。
さて次回は、これまでの連載の総まとめとして、ERP導入プロジェクトを成功させるためのポイントについて解説します。
「第五回:ERP導入の失敗要因と回避ポイント」はここまでとなります。
第六回「ERP導入プロジェクトを成功させるポイント」を是非ご覧ください。