セミナーレポート

日経産業新聞フォーラム レポート
2030年 企業の基幹システムに求められるものとは?
~最新IT、業務、経営の視点から考える強い企業であるための情報化投資戦略~

11月16日(金)、日経カンファレンスルームを会場にて、「日経産業新聞フォーラム」が開催され、大盛況のうちに終了しました。本レポートでは講演内容を要約して掲載しております。

オープニングリマーク
引屋敷 智 氏

オープニングリマーク

オープニングリマーク:
株式会社システムインテグレータ 常務取締役
引屋敷 智 氏

はじめに、オープニングリマークとして、株式会社システムインテグレータ 常務取締役の引屋敷氏より、同社の紹介がありました。

引屋敷 智 氏

東証一部に上場しているシステムインテグレータ社は、データベースのテクノロジーを使ってECサイトをつくるパッケージの企画・開発・販売を行う企業としてスタートしました。現在は、コンソーシアム方式でERPパッケージ「GRANDIT」の企画・開発にも携わっています。

単にモノを売るだけではなく、お客さまの業務をヒアリングし、提案・改革しながらシステム導入を図る点が、同社の特徴です。「業務改善・業務改革ならシステムインテグレータ」といわれるような会社を目指しています。

「これからの基幹システムのAIやITを考える」

講師:
株式会社システムインテグレータ 代表取締役社長
梅田弘之 氏

プロフィール:
東芝、住商情報システムを経て1995年に株式会社システムインテグレータを設立。
進化系ERP「GRANDIT」の企画・開発に携わるほかに、自社製品として日本初のECパッケージ「SI Web Shopping」、開発支援ツール「SI Object Browser」、統合型プロジェクト管理システム「SI Object Browser PM」、プログラムスキル判定サービス「TOPSIC」、ディープラーニングを使った異常検知システム「AISIA-AD」なども次々リリース。

2006年8月にメイド・イン・ジャパン・ソフトウェアコンソーシアム(MIJS)を設立し、同年12月に東証マザーズ上場。2014年1月に東京証券取引所第一部上場。
主な著書に「実践!プロジェクト管理入門」「グラス片手にデータベース設計」(翔泳社)など多数。

株式会社システムインテグレータのGRANDIT製品情報ページはこちら
株式会社システムインテグレータのWEBサイトはこちら

株式会社システムインテグレータ 代表取締役社長の梅田氏は、登壇すると、まずAIの基礎から解説を始めました。

梅田弘之 氏

データには、構造化データと非構造化データがあり、非構造化データの中でも規則性なしの文章や音声、画像など、これまでは人間しか扱えなかったデータが、最近はAIでも扱えるようになってきたことを紹介した上で、AIについて詳しく整理していきます。

「AIには機械学習とディープラーニングがあります。機械学習は何をやっているのか人間にわかりますが、ディープラーニングは人間には何をやっているのかわからないブラックボックスです」

梅田氏は、犬と猫の見分け方に例えてわかりやすく説明を始めました。「耳の形がこうなっているのが犬、鼻がこうなっているのが猫」というように統計処理によって分類するのが機械学習で、犬や猫の写真をたくさん用意して、「これは犬、これは猫」と教えてやると、子供が覚えるのと同じように、いつの間にか犬と猫を区別できるようになっているのがディープラーニングだということです。

次に、AI技術の概要説明として、AIを構成する技術をコンピュータと対比しながら階層的に整理していきます。

一番下の層がハードウェアにあたるGPU、2層目がOSにあたるライブラリ層、3層目がミドルウェアにあたる人工知能プラットフォーム、そして一番上の4層目がアプリケーションとなります。「グーグルやマイクロソフトなどが、クラウド上でいろいろなサービスを提供していますが、そのサービスは、2層目を使ってトレーニングしたもの」と梅田氏は解説します。

次に、アメリカでAIがどのような産業で使われているかを見ていきます。
例えば「Legal」つまり法律関係で、ある事案を調べようと検索すると、ぱっと似た事案の判例などが出てくる、という使われ方がされているとのこと。「これは、データを蓄積して必要なものをサーチする、ナレッジ&サーチという使い方です」と梅田氏。
また、AIにも得意、不得意があり、サーチ&ナレッジなどはAIの得意分野ですが、パーソナルアシスタントをAIがすべて自律的にやるのは、まだまだ難しいとのことでした。

さらに、機械学習について詳しくみていきます。
梅田氏によると、機械学習は、学習プロセスと判定プロセスに分かれるとのこと。大量のデータを用意して正常品、不良品のラベリングをした上で、データをランダムに抜き出して見せるといった作業を繰り返すと、AIが不良品を判別できるようになります。ここまでが学習プロセスです。その後、判定プロセスで未知のデータを見せて、不良品を検知します。

機械学習は、「教師あり学習」「教師なし学習」「強化学習」に分かれ、さらに教師あり学習は、予想に使われる「回帰」と、故障診断などに使われる「分類」に分かれます。教師なし学習の「クラスタリング」も分類を行うアルゴリズムですが、こちらはラベリングを行いません。また、強化学習の例として有名なのは、グーグルの「アルファGo」などの事例が該当する、との解説がありました。

ここで梅田氏は、コンビニのおにぎりの過去のPOSデータをもとに、明日どれくらいおにぎりが売れるか予測する回帰モデルの例を示しました。

梅田弘之 氏

さらに、学習モデルとアルゴリズムの分類図を示し、ニューラルネットワークについて触れます。
「各学習モデルの中に、他のアルゴリズムと並んでニューラルネットワークというものがありますが、これは統計的な手法ではなく、ブラックボックスで行う手法です。ディープラーニングに置き換わりそうなものと、まだまだのものが混在していますね」
なお、グーグル翻訳は、2016年にディープラーニング型に変えたところ、精度が急激に向上したそうです。

梅田氏は、GAN(Generative Adversarial Network:敵対的生成ネットワーク)についても、動画を参照しながら解説しました。動画内では人間が、機械学習によって全く別人に変換するリアルな映像が映されました。

梅田氏は、ERPを取り巻くAIについても解説していきます。
「ERPのテリトリーは構造化データの権化みたいなもので、なかなかAIの出番がありません。その代わり、ERPの周りではAIが使われてきています」その一例として、ECのカスタマージャーニー(顧客が商品を購買するまでのプロセス)の例や、SFAにおけるパイプラインを用いた販売予測の例などを取り上げました。

そして、企業向けAI分野における競争の話に入ります。
さまざまなAI分野で、数多くのプレイヤーがしのぎを削っています。例として、コンタクトセンター支援の分野では、NICE社やグーグルの事例が紹介されました。
HRテックの分野では、リクルーティングやフレキシブル採用、オンボーディング、従業員エンゲージメントや労働力定量化など、さまざまなシーンでAIが活用されているとのこと。
さらに、パーソナルアシスタントやIoTでのAI活用にも触れ、いたるところにAIが入り込んできていることを強調しました。

最後に、システムインテグレータ社におけるAI活用の事例紹介があり、このセッションを締めくくりました。

「これからの業績管理を考える ~強い利益体質を作るための業績管理システムとは~ 」

講師:
スカイライトコンサルティング株式会社 経営管理サービスグループ シニアマネジャー
阿部武史 氏

プロフィール:
大手メーカーで社内SE、大手SIベンダーでERPコンサルタントを経験し、スカイライトコンサルティングに入社。大手からベンチャーまで、幅広い企業に対するコンサルティングを提供。経営管理領域を中心に、IT戦略立案から全社的な経営改革、業績管理制度の構築、業務改革、システム導入、新規事業の立ち上げ等のプロジェクトに携わる。中小企業診断士。

スカイライトコンサルティング株式会社のWEBサイトはこちら

まずスカイライトコンサルティング株式会社 阿部氏は、業績管理の現状と課題について解説しました。その中で、企業が業績を向上させるためには、優れた経営戦略と、戦略を遂行する実践力の両方が必要だと説き、実践力を高める手法の一つに「KPIマネジメント」があると強調しました。

KPIとは、key performance indicator の略で、重要業績評価指標などと訳されます。阿部氏は「KPIマネジメントには、意思決定情報の定義と、伝達・報告の仕組み構築という大きく2つの要素がある」と主張します。

阿部武史 氏

次に、業績管理の導入方法について解説していきます。
ここで阿部氏は、自身が支援した会社の事例を取り上げました。プロジェクトではKPIマネジメントを取り入れ、それをサポートする基幹システムとしてERPを導入したとのこと。

導入後には次のような成果が得られたといいます。

「業務的な効果としては、①データの取得頻度が上がり、月次の管理帳票を参照できるタイミングが早くなった。②詳細なデータを取得できるようになった。③資料作成のためのデータ集計の工数が大幅に削減できた」

「経営管理上の効果としては、①BIツールを使って会議の中で業績の確認が細かくできるようになり、意思決定の迅速化や経営のスピードアップにつながった。②部門ごとのKPIを定義しているので、業績の改善に向けた課題が明確になり、次のアクションについて議論できるようになった。③仮説を立案して実行に移し、発生した課題の原因を分析して改善を図るような、一連のPDCAサイクルが確立できた」などを挙げました。

続いて阿部氏は、KPIマネジメントの導入方法について解説していきます。
例えば、意思決定情報の定義にあたっては、「各部門のミッションが達成したかどうかを判定するKPIを設定し、達成されていない場合に何が原因なのかを見るため、部門目標を要素分解した、プロセスのKPIを設定する」という具合です。

阿部武史 氏

また、効果的な目標設定のために意識すべき重要な視点として「SMART」という考え方を紹介しました。
運用にあたっては、PDCAサイクルを回す上で、共通言語としての指標(KPI)を用いることが推奨され、月次業績報告の流れや、会議検討会議のアジェンダ例などが紹介されました。

阿部氏は、ERPが業績評価に有用である理由として、マスターとトランザクション(取引データ)が統合されており、企業内の様々な情報を一元的に管理することにより、業績評価に必要な経営指標を容易に取得できることを挙げました。

最後にまとめとして、KPIを設計する際には、改善のためのアクションにつながるように意図をもって定義すること、会議の運用を明確に定義することでKPIマネジメントを機能させることなどを挙げ、このセッションを締めくくりました。

「経営者は基幹システムの情報化投資に何を求めるのか」

講師:
みずほ情報総研株式会社 ソリューション第1部 次長
太田智久 氏

プロフィール:
みずほ情報総研株式会社 セールス・マーケティング部門で、国内外ERPベンダ一とのアライアンス企画・事業開発を担当。みずほ銀行との法人マーケット・グループ連携推進責任者、製造業向けソリューション・グローバルソリューション・BIソリューション・クラウドソリューション責任者を歴任。現組織においてコンサルティングとプロジェクトマネジメントノウハウを融合させた「PMO支援サービス」を立上げ、本サービスの創始者であり責任者。

みずほ情報総研株式会社のWEBサイトはこちら

最後のセッションでは、みずほ情報総研株式会社の太田氏が経営者視点の内容として、基幹システム更改とIT人材の増強にフォーカスした講義を行いました。

太田智久 氏

「基幹システム更改の情報化投資には多額の『カネ』がかかるが、得るものは基幹システムという『モノ』ではなく、本来その『モノ』で果たす経営目的の『コト』であるべきだ。また『モノ』と『コト』だけではなく、せっかくの機会であるのだから『ヒト』も投資対効果のリターンに据えてはどうか」と、太田氏は講義の前提となる主張を最初に訴えます。

「まず企業経営者に伝えたいことは、基幹システムは事業継続リスクにもなり兼ねない経営問題、かつIT人材の確保は今後至難を極めるだろうということ。次に強い企業とは変化に耐えうる企業なはず、ではITにおける変化とは何か。現在、人口減少と共にIT人材の枯渇が加速しており、同時にITによるビジネス変革も劇的に進んでいるということである」
太田氏は、「ビジネスをITで変革するためには、企業内に更なるIT人材が必要なはずであるが、その準備はできているか」と参加者に問題を提起しました。

「1年間の大学卒業者は約57万人。一方、2030年にはIT人材が59万人不足との調査結果がある。日本は生産人口が減少しており、あらゆる部門で人が足りない。米国ではIT人材の65%がユーザー企業にいるが、日本ではIT人材の70%がIT企業に集中しているといった背景も含め、IT人材の増強は極めて重要な経営課題である」というのです。

「最近、DXという言葉をよく聞くことだろう。DXとはデジタルトランスフォーメーションの略だ。経済産業省が発表した『DXレポート』をぜひ見て欲しい。DXによりあらゆるビジネスがデジタル化するという考え方である。『2025年の崖』と言われる時期までに、企業はレガシーシステムを刷新する必要があることは間違いない。その上で早期にDXに取り組み、デジタル企業への転換を開始するべきだ」と太田氏は語ります。

太田智久 氏

「米アマゾンがシアトルでオープンした無人店舗が話題になっている、日本でも無人店舗の実証実験が始まっている。働く人が減っていく中で、デジタル技術をどう使うのか、多くの企業がしのぎを削っているのである」

「先端デジタル技術として、AI、IoT、RPA、ブロックチェーンといった言葉が並ぶ。私はこのフォーラムで毎年講演をさせて頂いているが、2016年には『あせるな』と言い、2017年には『そろそろ』と言った。今年2018年では『いよいよ』と言わせて頂く。あらゆる情報が電子データとして行き交いサプライチェーンを変える、そしてあらゆる産業でデジタル変革が起こるだろう」と、太田氏はDXについて自身の見解を述べました。

「IT部門の役割は大きく変化しており、責任も増している。ITにおいて、WhatやHowといった(何をどう作るのか)といった議論から脱却し、why(なぜ作るのか、何を目的に作るのか)に視点を変えて欲しい」と、太田氏は語ります。

「そのためにも、経営がIT人材増強の重要性を理解し、教育に予算を支出することも必要だろう。企業内において、従来の課題解決型のIT人材ではなく価値創造型のIT人材を育成して頂くことも視野に、私は自身のPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)支援サービスという事業でそのサポートをしている。基幹システム更改は企業において最大の苦難でありチャンスでもある」

太田氏は続けて「是非PMOと呼ぶ事務局を作って欲しい。経営、現場、ITと立場の異なる人が集まり、その活動過程の中で、この3者間が相互に理解を深め、問題を克服し、合意形成を図っていく。この経験こそが、価値創造型IT人材に求められる、組織調整力やビジネスをITでデザインする力を養う絶好の機会となるのだから」と締めくくり、「基幹システム更改においては、社内のITリテラシー向上と価値創造型IT人材の育成も併せて成すべきである」と、フォーラム参加者に対して、2030年を見据えた情報化投資に関する示唆が示されました。

開催日時 2018年11月16日(金) 13:30~16:00
会場 日経カンファレンスルーム(東京都千代田区大手町1-3-7 日経ビル6F)
主催 日本経済新聞社
協賛 株式会社システムインテグレータ
協力 GRANDIT株式会社

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