セミナーレポート

新世代の経営手法
経営哲学の再構築
‐価値ある経営ビジョンの在り方とは‐
開催レポート

11月8日、11月15日の2日間、ステーションコンファレンス東京にて第10回経営戦略スペシャルセミナー2017が開催され、大盛況のうちに終了しました。
本レポートでは、8日の講演内容を要約して掲載しております。

新世代の経営手法 経営哲学の再構築 
‐ 価値ある経営ビジョンの在り方とは ‐

講師:
スカイライト コンサルティング
株式会社 
プリンシパル 臼井誠一 氏
臼井誠一 氏

経営ビジョンという言葉はよく使われますが、その必要性について疑問を感じたことはないでしょうか。実はそれには重要な役割があります。経営の方向性が環境と合わなくなったとき、社員の意識や経営の方向性を変えたいときにビジョンは大きな力になります。価値あるビジョンとはいったい何なのか、またその必要性とは何なのかについて、価値ある経営ビジョンの在り方をテーマとしたセミナーが開催された。

価値ある経営ビジョンとはそもそも何なのか

臼井氏は、そもそも経営ビジョンとはどういったものなのか、その定義から話を始めました。「そもそもビジョンというのは、将来展望と言い換えることができます。経営というのは、ビジョンを頂点として、その下に中期経営計画、中期・短期経営戦略、現業戦術、戦術遂行という順に構成されていると考えられます」

臼井氏は、基幹システムの構築に携わっている人に向けては、以下のように言い換えることでより分かりやすくなると解説しました。

経営ビジョンと戦略の構成

「よく、戦略を立てたけれどうまくいかなかった、ビジョンを作ったけれど飾りにしかなっていない、という会社が多い理由の一つは、これらを個別のものとしてとらえているからでしょう。経営ビジョンだけを単体として考えて作り上げても意味がないのです」と臼井氏は忠告します。

「上記の例えで話をすれば、経営ビジョンだけ作るのは、システム運用時のイメージだけ作っておしまいということです。戦略だけ作るというのは、会社全体の経営のイメージなしに、社内の資源の配分や解決策を考えるということです。いずれにしても、これではうまくいきません。経営ビジョンから中期・短期経営戦略、最終的には現業戦術の遂行というところまで、すべてを関連付けて検討、設計するべきものだと考えています」

ビジョンを実際の経営に反映させるためには

臼井氏は、経営戦略と戦術について次のように定義しました。「経営戦略とは、経営資源の配分を決定するものです。一方で、配分された後、資源をいかに効率よく使って、結果を出すか、問題を解決するか、その資源の使い方を戦術というように表現しています。これは現場でなくては判断できません。現場主導という言葉の本当の意味はここにあると思います」

ここで経営資源における時間の重要性についても話を展開します。「私は、経営戦略で事業単位に分配すべき資源とは、いわゆるヒト、モノ、カネに加えて、第四の資源として時間も含まれると考えています。同じ結果を出すのに長い時間をかけるのは、結果資源をよけいに使っているから非効率、同じ結果をより短い期間で出せれば、より効果的、というわけです」

「私は、最近のM&Aブームの理由の一つはここにあると思っています。私も相談を受けたことがありますが、自社単独で事業を起こすより、すでにスタートアップした企業を買った方が効率的、というわけですね。ちなみに、私自身は、時間に加えて情報も第五の資源であると考えています。第五の資源については、別日に解説いたしますのでご興味のある方はご参加ください」と付け加えました。

さらに臼井氏は経営戦略と戦術、そしてそれらの経営ビジョンとの関係性について以下のように続けました。「経営戦略と現業の戦術を経営ビジョンと関連づけることで、ビジョンを実際の経営に反映させることが期待できるようになります」

「また、戦術を遂行する場合に、戦略検討の段階では読めなかった部分というのが必ず出てきます。実際には読めなかった部分を随時調整、修正しながら、運営していく必要があります。つまり、現業の戦術遂行は定量/定性KPIなどを使って継続的にモニタリングする必要があるということです。想定から外れてきたと感じたり、修正が必要だと感じたりしたときは、再びビジョンや戦略を参考にして、修正を行います。この段階でもビジョンと関連づけて戦術を組み立てていることが重要になるわけです」と戦略と戦術、ビジョンの関係について補足しました。

新たなビジョンを作る必要性とは?

臼井氏は、企業にとって新たなビジョンが必要になるビジネスの局面について話を進めます。「ビジョンは戦略を経て、現実の戦術まで展開されます。だとすれば、最終的にビジョンが帰結するのは、顧客が手にする製品、商品やサービスになります」

「長い期間愛される製品やサービスには、会社がこうありたい、こうあるべきという考えが製品、サービスに反映されていることが多いのです。言い換えれば、製品やサービスが堅調に売れ続けている状況では、創業時のビジョンがまだ健在であり、ビジョンを新たに作る必要はないとも言えます。もちろん、実際には個別の会社の状況によります」と説明しました。

新しいビジョンが必要になってくるのは、製品やサービスが世間のニーズとズレ始めている段階だと強調しながら、ビジョンの必要性を、臼井氏はこう説明します。

「ビジョンは最終的に製品やサービスの特徴を作るところに帰結していきます。ビジョンがある製品というと、割とシンプルなものが多いのです。コンセプトがはっきりしているから、余計なものを付加させなくて済む。逆にビジョンがない製品というのは、だいたい機能過多、装飾過多になりやすい傾向があります。そういったものは、他の製品やサービスと競合しやすく、独自性が消えてしまう。その結果、価格競争に巻き込まれ、やがて衰退していくケースが多いように見受けられます」

「つまり、ビジョンを新しくして、新しい風を経営に入れたいタイミングというのは、往々にして既存の製品に逆風が吹き始めたときが多いと考えられます」

さらに臼井氏は以下のように続けました。「しかし、製品やサービスのライフサイクルは、現実的には、一方的に売れ行きが鈍るわけではないのです」

「製品やサービスは、売れ行きが下がり始めると、何かしらのてこ入れをして、また上昇傾向に戻すといったことがしばしば行われます。これを繰り返していくと、本当の製品の寿命、限界がわかりにくくなってしまい、判断を迷うことがあるのです」

新たなビジョンが必要になるタイミングについて「例えば、いくつかある製品のライフサイクルを比べて、仮に同じようなカーブを描いている製品が多いとします。しかしそんな中で、ある種の製品が他とは違った売れ行きのカーブを見せる場合があります。そんな場合、その製品のコンセプトの方が時代環境に即していることのサインであることがあります。さらにその内容を分析し、次のビジョンに役立てることができます」と例を挙げて解説しました。

今回のセミナーでは、他にも経営ビジョンの具体的な作成方法や、人をいかに動かせばいいのか、といった内容にまで及びました。現在のビジネスを取り巻く、変化の激しい時代において、いかにビジョンを活かして、経営を進めていくかについて、臼井氏は自身の肌で感じた経験をもとに有益なヒントを与えてくれました。