「サービス業に求められるERPシステムの機能」とは?

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(0)はじめに

サービス業において、ERPなどの基幹システムは、業務の効率化、顧客満足度の向上、そして経営の安定化に欠かせない存在となっています。本コラムでは、サービス業に求められる基幹システムの機能について、具体的な事例を交えながら詳しく解説していきます。

(1)サービス業における基幹システムの役割

サービス業における基幹システムは、単なる業務処理システムにとどまらず、顧客とのタッチポイントを管理し、企業全体の活動を統合する役割を担っています。主な役割は以下の通りです。

サービス業に求められる基幹システムの主な役割

  • 顧客情報の集約と管理

    顧客の属性、購入履歴、問い合わせ内容などを一元管理し、顧客一人ひとりに合わせたサービスを提供するための基盤となります。

  • 業務の効率化

    受注処理、請求処理、在庫管理など、煩雑な業務処理を自動化し、従業員の負担を軽減することで本来の顧客サービスに注力出来るように支援します。

  • 経営状況の可視化

    リアルタイムな売上データや顧客満足度などの事業活動で得た情報を集計・分析し、経営判断を下すための材料を提供します。

  • コミュニケーションの円滑化

    社内外の関係者間で情報を共有し、コミュニケーションを強化します。

(2)サービス業に求められる機能

サービス業に求められる基幹システムの機能は、業種や企業規模によって異なりますが、一般的に以下の機能が挙げられます。

  1. 顧客管理機能(CRM)

    CRMの主な役割は、企業と顧客との良好な関係を築き、顧客のロイヤリティを高めることです。その主な役割は以下の通りです。

    • 顧客情報の集約・管理
      顧客に関するあらゆる情報(氏名、所属企業、役職、部署、店舗の利用日、購入履歴、取引日時などの情報を一元化して管理することで、顧客ニーズを把握するためのデータを収集します。
    • 顧客ニーズの正確な把握
      顧客を属性や行動パターンに基づいて分類、分析することにより、セグメントごとの顧客ニーズを抽出します。
    • 適切なアプローチの実施
      把握した顧客ごとのニーズに基づきパーソナライズされたマーケティング施策を実施します。
    • 顧客との長期的な関係の構築
      顧客との関係性を強化することは、顧客満足度やロイヤリティを向上させ、リピーターを増やすことにつながり、顧客生涯価値(LTV)の最大化や、マーケティング予算の効率化などの効果も期待できます。
  2. 販売管理機能

    販売管理機能とは、商品やサービスの販売に関わるお金の流れや業務を管理する機能です。販売管理の目的は、見積もり作成から請求、入金確認までの一連の流れをデータ化し、集計や分析ができる状態にすることで、主な機能は以下の通りです。

    • 受注処理: 顧客からの注文を迅速かつ正確に処理し、納期管理を行います。
    • 在庫管理: 商品やサービスの在庫状況をリアルタイムに把握し、品切れを防ぎます。
    • 売上管理: 売上実績を分析し、販売戦略の改善に役立てます。

    また、サービス業の販売管理に必要とされる機能は、サービスの形態や提供する商材などによって異なります。
    例えば、ソフトウェア開発やクラウドサービスの提供などを行う「情報サービス業」の場合では、多様なプロジェクトを同時に進行し、それぞれの進捗状況や資源の配分を管理する必要があり、複雑化するプロジェクト管理を行うための企業が重要視されます。

  3. 勤怠管理機能

    勤怠管理は給与計算に利用されるため、正しい給与、残業代を計算するためには、時間外労働や休日労働の把握も必要です。また、従業員の健康を守る、労働基準法や労働安全衛生法などの法律を遵守するといった観点でも重要視されています。

    • 出退勤管理: 従業員の勤務時間を正確に記録し、人件費管理に役立てます。
    • シフト管理: 従業員のシフト作成と調整を効率化します。
  4. 顧客対応履歴管理機能

    顧客対応履歴管理機能は、顧客とのやりとりが多いサービス業ではとても重要な機能です。業務プロセス内における進捗情報を顧客対応履歴として一元管理することで、顧客との関係性の構築やロイヤリティの向上によるビジネス成果の拡大に役立ちます。

    • 問い合わせ履歴: 顧客からの問い合わせ内容や対応履歴を記録し、迅速な対応を可能にします。
    • クレーム管理: 顧客からのクレームを効率的に管理し、顧客満足度向上に繋げます。
  5. レポート機能

    基幹システムのレポート機能では、企業全体の情報を一元管理して経営状況をリアルタイムで可視化することができます。経営ダッシュボードやレポート機能を活用することで、売上や在庫状況、キャッシュフローなどの重要なデータに基づいた問題解決や判断が実現します。

    • 経営状況の分析: 売上、顧客数、利益率などのデータを分析し、経営状況を可視化します。
    • 業務効率化のための分析: 業務プロセスを分析し、改善点を見つけます。

(3)基幹システム導入のメリット

基幹システムを導入することで、以下のメリットが期待できます。

  • 業務効率化: 手作業による事務処理が減り、従業員はより付加価値の高い業務に集中できるようになります。
  • 顧客満足度の向上: 顧客一人ひとりのニーズに合わせたきめ細やかなサービスを提供できるようになります。
  • 経営の安定化: 経営状況をリアルタイムに把握し、迅速な意思決定が可能になります。
  • データに基づいた経営: 蓄積されたデータを活用し、より科学的な経営が可能になります。

(4)事例:ビルメンテナンス業界における基幹システム

ビルメンテナンス業界では、人が行う現場仕事であるため現場で「ムリ・ムダ・ムラ」が生じやすいということが大きな課題となっています。作業時間以外に発生する、いわゆる「ロス時間」を極力カットし、本来の作業工程の最適化と、それに基づいた現場管理を実現することで、質の高いサービス提供と属人化した業務の標準化による原価管理の精度向上、高い利益率の確保に成功しました。

解決した課題

  • 原価予実管理の充実: 人件費、外注費(外部サービスに委託している特殊清掃)、資材費など契約締結時の予算をベースにした、日々の現場で実績コントロールを実現。
  • リアルタイム経営管理: 従来の月次ベースでの管理から週次ベースでの管理へと管理メッシュを変更。予算オーバーになっている案件状況をリアルタイム把握、改善策を取るという「先行管理」が実現可能になった。

【ビルメンテナンス業におけるERP導入事例】

(5)今後の方向性

大企業、中堅企業を中心に利用が拡大しているERP(基幹業務パッケージソフト)、その領域が中小企業まで拡大することで、今後もERP市場は順調に成長すると予測されています。
また、今後は以下のような新たな機能実装がされることで、より利便性の高いERPへと進化することが期待されています。

これからのERPへの期待

  • AIとの連携: ERPの持つ企業情報に基づきAIを活用することで、より高度な経営分析や業務自動化が可能になります。
  • クラウド化: クラウド型の基幹システムは、導入コストを抑え、柔軟なシステム運用を実現します。
  • UI・UXの向上: 画面の見やすさ、入力のしやすさや補助、情報検索の利便性向上
  • 外部連携:EDIやAPI対応、一括データ登録機能といった外部システムやクラウドサービスとの連携性の向上
  • 自動化、二次活用:RPAなどの業務自動ツールの活用やローコード、ノーコードツールとの連携により、最近のトレンドである社内SEや市民開発者の増加への対応

(6)まとめ

サービス業において、ERPなどの基幹システムは、顧客との関係性を深め、業務効率化を推進し、経営の安定化をもたらす重要なツールです。本コラムで紹介した機能を参考に、自社の業務内容や規模に合った基幹システムを導入することで、より高いレベルのサービスを提供することが可能になります。