DXコラム#09 DXとパーパス
DXとは何かについては、多くの人たちが、様々な解説を述べています。また、経済産業省の「DXレポート」やIPAの「DX白書」が、リリースされるなど、その本質についての考察も深まりつつあるようです。
そんなDXの解釈を改めて整理し直すと、次のようになるでしょう。
「デジタル・テクノロジーの進展により産業構造や競争原理が変化し、これに対処できなければ、事業継続や企業存続が難しくなる。これに対処するには、自分たちの競争環境 、ビジネス・モデル、組織や体制を再定義し、企業の文化や体質を変革しなくてはならない。DXとは、そんな、変化に俊敏に対応できる企業/アジャイル企業へと変わるための取り組みである。」
もう少し、噛み砕いてDXを解釈すれば、次のようになります。
「デジタルに任せられることは、徹底してデジタルに任せ、肉体的労働や知的力仕事から人間を解放し、人間にしかできないことに、人間は、徹底して意識や時間を傾けることができるようにすること」
デジタルを駆使して、業務の効率化やスピードアップを図れたとしても、それだけでは、予測できない未来に対処することはできません。だから、イノベーションが必要です。
現実世界の変化をデータによってリアルタイムに収集し、これから起こりうる不連続な変化を予見し、新しいやり方を創り出すことです。それを試してフィードバックを得て、高速に改善を繰り返しながら、市場への定着を図る取り組みです。これは、デジタルに任せることはできず、人間にしかできません。
「圧倒的なスピード」と「イノベーションの創出」が、日常の当たり前として、できる企業に変わることが、 DXの目指すところです。これを次のような表現に置き換えることもできるだろう。
「デジタルを前提に既存事業を再定義し、新たな事業価値を創出する」
「デジタルを前提」とは何かについては、”DXコラム#07・ITベンダーの「DXを実践」とは何をすることか”に詳しく述べましたので、そちらをご覧下さい。
いずれにせよ、これまで築き上げた既存事業のあり方や、その市場価値を“デジタルを前提”に再定義し、事業を組み立て直す必要があります。
GAFAなどのデジタル・ネイティブ企業が、一般企業と大きく異なるのは、「既存事業」がないことでしょう。そんな彼らには、「業界」という縛りはなく、圧倒的なスピードで、いま社会が求めていることをどんどんとカタチにしています。これが結果として、既存の業界に、新しい競争原理を持ち込み、旧来の常識に拘る企業や業界を破壊しているのです。
彼らは、「既存事業を変革」する必要がありません。つまりDXなど不要なのです。これこそが、彼らの強さの源泉です。
多くの企業は、「既存事業」を抱えています。だから、“デジタルを前提”に変革すること、すなわちDXが必要です。この「既存事業」の存在こそが、DXの難しさの根源なのです。
この状況から抜け出すための1つの手は、自分たちの「パーバス/存在意義」を再定義することかもしれません。
「パーパス=ぶれることのない自分たちの価値」は何かを明確にすることです。古びたパーパスは捨て去り、いまの“デジタルを前提”とした時代にふさわしい、パーパスに置き換え、顧客や社会から、あるいは社員から、なくてはならい存在として、認めてもらうことです。
そして、そのパーパスにふさわしい行動をとることが、結果として、企業の収益を向上させます。
例えば、次のような事例を見れば、そのことがよく理解できます。
デンマークの製薬会社ノボノルリスクは、「糖尿病の治療薬インスリンの開発と製造」を事業の目的に据えていたが、2020年に新たなパーパス「Defeat Diabetes(糖尿病に打ち勝つ)」を発表した。これは単に自社製品の販売を最大化するのではなく、医療従事者、病院、自治体等と世界中で連携し、予防も含めて糖尿病という病気に向きあっていくことを意味する。
(PURPOSE パーパス・「意義化」する経済とその先)/岩嵜博論・佐々木康裕著・ニュースピックス・2021/P.73)
この会社は、自社のパーパスを再定義することで、糖尿病に苦しむ人たちのQOLや社会的損失にも目を向け、医薬品だけではなく、様々な手段を駆使して、糖尿病に関わる様々な諸問題を解決することを目的に、自分たちの事業を変えようとしています。
また、トヨタは、2001年、「Drive Your Dreams/新たな発想、無限の未来へ」とのモットーを掲げました。それを、2018年、「Mobility for All/すべての人に移動の自由と楽しさを」と変えました。これは、自らを「自動車メーカー」から「移動をサービスとして提供する会社」へと変わることの宣言です。これもまた、自分たちのパーパスを再定義することで、自分たちの事業もまた再定義し、収益構造やビジネス・モデルの転換を図ろうというわけです。
そんな取り組みの一環として、2019年、ソフトバンクと合弁で設立した「MONET Technologies」や、2021年に建設に着手した「Woven City」があります。これまでの自動車を製造して販売する企業から、移動サービス企業へと変わるための施策を着々と打ち出しています。
そんなパーパスの再定義なくして、事業の再定義は難しいでしょう。
DXを「デジタル技術を駆使して、業務を改善することや新規事業を立ち上げること」だと矮小化して捉えるべきではありません。デジタルは、前提ではありますが、DXの目的でも、本質でもないのです。
まずはパーパスを再定義することから、はじめてはどうでしょう。それを実現する取り組みが、結果として、DXとなるようにすればいいのです。

1982年、日本IBMに入社、一部上場の電気電子関連企業を営業として担当の後、1995年、当社を設立。外資系企業の日本で事業開発、産学連携事業やベンチャーの企業をプロデュース、ITベンダーの事業戦略の策定、営業組織の改革支援、人材育成やビジネス・コーチングの他、ユーザー企業の情報システムの企画・戦略の策定などに従事。ITの最新トレンドやビジネス戦略について学ぶ「ITソリューション塾」を2009年より主宰し東京/大阪/福岡で開催、また、ITに必ずしも詳しくない経営者や事業部門のリーダーを対象とした「ビジネス・リーダーのためのデジタル戦略塾」の他、年間150回程度の講義・講演。
- 「システムインテグレーション崩壊(技術評論社・2014)」
- 「【図解】コレ1枚でわかる最新ITトレンド(技術評論社・2015)」
- 「システムインテグレーション再生の戦略(技術評論社・2016)」
- 「未来を味方にする技術(技術評論社・2017)」
- 「【図解】コレ1枚でわかる最新ITトレンド[増強改訂版](技術評論社・2017)」
- 「SI事業者/ITベンダーのためのデジタル・トランスフォーメーションの教科書(デジタル出版・2018)」 https://libra.netcommerce.co.jp/5022
- 「【図解】コレ1枚でわかる最新ITトレンド[新装改訂3版](技術評論社・2020)」
その他、雑誌寄稿や取材記事、講義・講演など
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