中小企業におけるERPと会計ソフトの選択 将来を見据えた対応が重要に
本記事のまとめ
- 会計領域の業務をシステム化する際の選択肢には、会計ソフトに加えてERPも考えられる
- 会計領域以外もシステム化する場合はERPの導入が有効。また、当初は会計領域のみにERPを導入しつつ、徐々に販売など周辺領域へ対応していく方法も検討できる
- 特に中小企業においては、ERPを導入する場合はコスト面や導入期間などに優れるクラウド型ERPを検討すべき
会計業務をシステム化する際にすぐに思いつくのは「会計ソフト」の導入ではないでしょうか。しかし、会計業務のシステム化においては、会計領域の機能だけではなく、企業が必要とするあらゆる領域の機能を備えた「ERP」の導入も一つの選択肢となります。
そこでこの記事では、特に中小企業の方を対象に、ERPと会計ソフトの概要を紹介しつつ、両者をどのように使い分ければよいのか、またERPを選択する場合には、どのように製品を選べばよいのかについて解説します。
目次
1. ERPとは?
まず、ERPの概要について紹介します。
ERPの概要
ERP(Enterprise Resources Planning:企業資源計画)とは、企業の根幹となるヒト・モノ・カネといった情報資源を一元的に把握するための仕組みです。
生産・販売・物流・購買・在庫管理・財務会計・人事給与などの企業の基幹業務を、ERPにより統合して実施することで、統一したデータベースで自社の情報を保持できます。
これにより、経営判断に必要なあらゆる情報をリアルタイムで確認できるようになり、業務の効率化や画面インターフェースの共通化を図れます。
ERPを企業に導入する際には、「ERPパッケージ」と呼ばれるソフトウェアパッケージを用いることが一般的です。また近年では、クラウドサービスとしてERPの機能を提供する「クラウド型ERP」を採用する企業も増えています。
ERPは会計業務に対応できるのか
一般的なERPであれば、会計ソフトが提供するような機能が含まれているため、会計業務にも対応可能です。
ただし、ERP製品によって会計領域の得意・不得意があります。特に、会計業務は法改正などへのスピーディな対応が必要であるため、会計領域に強いERP製品を選ぶことが重要です。
2. 会計ソフトとは?
一方で、会計ソフトとはどのようなものなのでしょうか。以下で紹介します。
会計ソフトの概要
会計ソフトとは、企業の業務のうち会計領域に特化して作られたソフトウェアです。手作業で帳簿付けを行う場合、かなりの労力がかかりますが、会計ソフトを用いることで、日々の仕訳の登録や試算表・総勘定元帳・決算書類など作成を効率的に実施できるようになります。
会計ソフトは、既製品のソフトウェアを購入して利用するのが一般的です。ただし、自社に特殊な会計業務がある場合などは、パッケージをベースとしてカスタマイズを行うこともあります。
会計ソフトのカバー領域
会計ソフトは、様々な領域に対応している製品も販売されています。例えば、管理会計の機能については対応可能なケースが多いです。管理会計とは、会計データを社内向けに整理し、自社の経営状況を可視化する取り組みです。管理会計を実施することで、自社の経営状況をリアルタイムで把握できるようになり、業績悪化時の対策や、今後重視すべき領域の判断などがしやすくなるでしょう。
また、出張申請・承認機能や、交通費などの経費精算の機能は、会計領域と親和性が高いため、製品によってはオプションで提供されています。
最近では、電子帳簿保存法に対応するため、書類の電子データ保管機能を用意している製品も増えています。2022年1月に施行された改正電子帳簿保存法によって、会計に関する帳簿や書類を電子データで保存しやすくなりました。帳簿や書類の電子データ化には、紙書類の保管コストや印刷費を削減できるメリットがあり、会計ソフトの導入と併せて対応を検討してみてもよいでしょう。
3. ERPと会計ソフトの違いと選択方法
それでは、ERPと会計ソフトはどのように選択すればよいのでしょうか。ここでは、「対応する業務領域」「コスト」「システム間連携」の3つの比較ポイントを紹介します。
対応する業務領域の違い
ERPは、統合システムとして企業のあらゆる業務に対応できます。一方で、会計ソフトの対応領域は、製品により多少のオプション機能は備わっているものの、基本的には経理などの会計業務のみです。
ただし、対応領域が広いからといって、一概にERPのほうが優れているとは言えません。ERPはあらゆる領域をカバーできる一方、会計ソフトと比較すると、導入のためのコストが高くなる傾向があります。また、自社の様々な業務に対応することから、導入難易度も高いです。
会計業務のみをシステム化したい場合は、無理にERPを導入するのではなく、会計ソフトの利用を検討してもよいでしょう。一方で、会計業務以外の領域についてもシステム化を検討している場合は、ERPの採用が有効です。
また、当初は会計業務のみをターゲットとしつつ、将来的に販売など周辺領域までリプレースを実施したいと考えている場合、最初は会計領域のみERPを導入し、段階的に周辺領域のERP化を図ることも一案となります。
コストの違い
上述の通り、様々な機能が備わっているERPよりも、シンプルな機能構成である会計ソフトのほうが、コストを抑えられる可能性が高いです。中小企業においては、コストは重要な観点といえるため、コスト面では会計ソフトの導入が有効な選択肢となるでしょう。
ただし、会計領域以外の機能もシステム化する必要があり、会計ソフトと他のシステムを組み合わせて利用する場合、ERPの導入よりもトータルコストが上昇する可能性もあります。ERPは様々な業務領域に対応できるため、導入も一度で済むというメリットがあります。一方で会計ソフトと他のソフトを組み合わせて利用する場合、各ベンダーに依頼しなければならず、結果としてコストがかさむ原因となります。
自社全体のIT投資コストを比較したうえで、ERPと会計ソフトのどちらを選択するか検討するべきでしょう。
システム間連携の有無
業務を効率的に実施するためには、システム間でデータを連携させる必要があります。例えば、商品の販売時には販売管理システムに売上データを登録しますが、その際に自動で会計システムにデータが連携されて仕訳が作成されれば、業務を効率化できます。中小企業であっても、一定以上の規模の企業ではシステム間連携は必須といえるでしょう。
会計ソフトを採用する場合、システム間連携を行うためには連携機能の開発が必要となります。システム間連携機能の開発には多くの工数がかかり、開発難易度が高い点がデメリットです。
一方でERPは、すべての業務を単一のシステムで対応するという思想で作られたものです。製造・販売・物流・会計などあらゆる領域において同じシステムで対応できるため、ERPを導入すればシステム間連携機能の構築は必要ありません。商品を販売した際や、給与計算を行った際など、企業活動が行われたときにERPに登録を行えば、自動で会計側に反映されます。
ここまで紹介した選択方法のポイントを整理すると、以下の通りとなります。
- 会計業務のみをシステム化し、将来的にも他業務のリプレースを検討しない場合は、無理にERPを導入するのではなく、会計ソフトを利用する
- 会計業務以外の領域についても併せてシステム化を検討する場合、もしくは将来的に他業務のリプレースを検討する場合は、ERPを採用する
4. ERPの効果的な導入方法とは
会計ソフトではなくERPを採用する場合、どのような観点に気を付ければスムーズに導入できるのでしょうか。ここでは、ERPの導入において気を付けるべきポイントを紹介します。
段階的なリプレースを検討する
上述の通り、当初会計領域のみをERPで対応しつつ、将来的に周辺領域のリプレースを行う導入方法も検討できます。多くの領域を一度にERPにリプレースすると、プロジェクトの難易度が高くなるリスクがあります。ERPにはモジュールごとに導入を行えるメリットがあるため、段階的な移行も選択肢となるでしょう。
将来的なシステム像を描きつつ、どのようにERPを導入していくかを検討することがポイントです。
データ活用を見据えた対応
近年では、DXの潮流のなかで、データ活用の重要性が高まっています。中小企業においても、先進的な企業ではデータ活用が進んでいる状況にあります。
データ活用を進めるうえで、ERPはデータ蓄積のための「箱」として有効です。ERPには自社のあらゆるデータを蓄積できます。蓄積されたデータを集計・分析することで、新たな知見を獲得し、既存ビジネスの改良や新規ビジネスへの進出につなげられます。
また、多くのERP製品には、標準機能やオプション機能としてデータ可視化・分析機能が備わっています。これからデータ活用を推進していきたいと考える企業においては、ERPを導入しつつ、可視化や分析機能を活用していくことをおすすめします。
カスタマイズは最小化する
業務とERPの機能が一致していない場合、業務に対応できるようにカスタマイズの実施を検討するかもしれません。しかし、カスタマイズは最小限に抑えるべきです。
カスタマイズを実施すると、開発費用や開発期間が必要になることに加えて、将来的なバージョンアップの足かせとなるおそれがあります。
ERPを効果的に導入するためにも、できるかぎり業務の見直しを行い、カスタマイズを避ける方法を検討しましょう。
一方で、どうしても現場からは「今の業務を継続したい」という要求が発生しがちです。そこで、ERPの導入においては、経営層からトップダウンで「カスタマイズの最小化」を指示することがポイントとなります。
5. 【中小企業向け】ERPの選び方
以下では、特に中小企業の方に向けて、ERP製品の選び方について解説を行います。
導入基盤
従来、ERPは自社でサーバーを購入し、オンプレミスで導入するのが一般的でした。しかし近年では、クラウド型ERPの登場により、クラウドサービスとしてERPの機能を利用する方法が浸透しつつあります。クラウド型ERPを採用することで、導入期間の短縮や初期コストの削減、運用保守作業の外部化などを実現できます。
企業規模にもよりますが、中小企業においては、クラウド型ERPを第一の選択肢として検討するとよいでしょう。
対応する業務領域と機能
当然ながら、ERP製品の対応する業務領域と、自社が必要とする領域が一致しているかは重要な選定ポイントです。例えば、小売業において在庫管理を行いたいのに、ERP製品に在庫管理機能が備わっていなければ採用はできません。
さらに、ERP製品が自社の業務プロセスに対応する機能を備えているかどうかも重要です。自社の業務要件を整理したうえでERP製品が標準で備えている機能と比較する、いわゆるフィット&ギャップ分析によって、ERP製品の適合度を判定するとよいでしょう。
操作性
ERPは、自社の幅広い業務をカバーするため、多くの従業員が利用することになります。そのため、操作性がよい製品を選ぶことは非常に重要です。
操作性が悪いと、従業員の不満につながるほか、システムを利用した業務の効率が落ちてしまうおそれがあります。操作性が悪いために「画面のカスタマイズをしてほしい」といった要望もあがりやすくなるでしょう。
製品を選定する際には、デモを行うなど操作性を確認する機会を設けるべきです。具体的には「入力項目に何を入力すればよいか画面から読み取りやすいか」「入力必須項目が明確に分かるようになっているか」「画面遷移は直感とあっているか」などをチェックすることをおすすめします。
一般的な傾向として、海外製のERP製品は全世界で共通的に利用できるように設計されており、直感的な操作がしにくいものが多いです。操作性の観点からは、国産のERPを選ぶことも一案となります。
コスト
ERPは基幹システムとして導入されるため、自社のITシステム費用の多くを占めることになります。そのため、コスト面の精査には力を入れるべきでしょう。
コスト面で最適な製品を選ぶためには、導入時の初期コストに加えて、導入以降に必要となるライセンス費用や運用費用などもすべて考慮した、いわゆる「ライフサイクルコスト」にて製品のトータルコストを比較する必要があります。
ベンダーのサポート体制
ベンダーから適切なサポートを受けられるかどうかは、ERP導入の成否に大きく影響します。また、導入後も運用を実施していくうえで、ベンダーのサポートは必須です。そのため、サポート体制が充実しているベンダーの製品を積極的に採用するべきでしょう。
また、ベンダー側の窓口となる担当者の動きがよいか、ERP導入時にプロジェクトマネージャーを担う予定の方は信頼できるかなど、人物面もよくチェックしておくことをおすすめします。
まとめ
この記事では、ERPと会計ソフトの比較や、ERP製品の選び方について解説しました。特に中小企業でERPを導入する場合は、クラウド型ERPを第一の選択肢にすることをおすすめします。
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