船荷証券の種類とは?基本を解説しながら特徴を比較
はじめに
「基本をしっかり理解しておくこと」は貿易の業界においてもとても大切なことです。とは言え、業界未経験のため「何から理解すればよいのか分からない…」、逆に長く業界にいることで「今さらこんな基本的なこと聞けない…」…と感じている方々も多いのではないでしょうか?
そこでこのコラムではそんな方々に向けて「貿易の基本」をお話させていただこうと思います。貿易業界初心者から熟練者まで「しっかり」基本を理解していただけると嬉しいです。
コロナで停滞していた物流が少しずつ回復傾向にある今、もう一度「貿易の基本」をしっかり理解し直し、来るべき今後の物流の動向に備えましょう。
【1】B/Lとは?
貿易に関わる書類の中で最も重要な書類…それがB/Lです。
現在国際貨物の大半が海上貨物(船に載せて輸送される貨物)ですが、B/Lはその海上貨物の国際間輸送の際に船会社から発行される書類です。
B/Lとは「Bill of Lading」の略で、日本語では「船荷証券」と呼ばれています。「船荷証券」という言葉からも分かるように、B/Lは小切手と同じ「有価証券」、つまり「価値・権利を有する紙」です。
船に積まれた貨物の価値と同等の価値を有する書類がB/Lということになりますので、この書類がいかに大切かお分かりいただけるかと思います。万が一紛失したりすると貨物の引き取りができないことになるため、扱いは厳重にしなければなりません。
貨物が船に積まれた時点で、船会社から荷送人(「におくりにん」貨物の送り手)に向けてB/Lが発行されます。荷受人(「にうけにん」貨物の受け取り手)が貨物を引き取るためには、荷送人からB/Lを入手しなければなりません。
【2】B/Lには何が記載されている?
B/Lには船に積まれている貨物の詳細はもちろん、他にも様々な情報が記載されています。
B/Lに記載されているものは下記の内容です。
- 荷送人の名前・住所
- 荷受人の名前・住所
- 到着通知先の名前・住所(通常は荷受人と同一です)
- 船の名称
- 発送地(国名等)と到着地(国名等)
- 貨物の情報(貨物の名前・個数・重量・容積・荷印(貨物に貼りつけてあるマークのこと)・HS CODE等)
- 海上運賃の前払い・着払いの記載
- コンテナの番号 等
これらの情報は貨物を輸送する際の情報として国際間で共有されます。また、税関に対する申告の際も記載内容は細かくチェックされます。
さて、そんな重要なB/Lですが貿易の世界で「B/L」と呼ばれるものにも色々あります。海上貨物における色々な「B/L」についてみていってみましょう。
【3】オリジナルB/L
いわゆる基本的なB/Lのことです。通常3枚の原本と3枚のコピーとでワンセットとなります。裏面には貨物の輸送に関する契約の決まり(「約款(やっかん)」といいます)がびっしりと英語で記載されています。万が一輸送した貨物に破損等が発生した場合は、この約款に従って船会社にクレームを起こします。次に説明する「サレンダーB/L」と区別する意味で「オリジナル」という言葉を用いられることが多いです。
【4】サレンダードB/L
よく「サレンダードB/L」というB/Lの種類があると勘違いされがちですが、実はこれは3のオリジナルB/Lの「回収方法」のことを指しているにすぎません。
1でお話しましたがB/Lは重要な有価証券のため、これを提出しないと貨物の引き取りができません。そのため貨物の荷受人は荷送人からB/Lを取り寄せる必要があります。
しかし近年の輸送リードタイムの短縮により、輸送距離が比較的短い国間での貨物輸送の場合、B/Lの到着より早く貨物が到着してしまうということが起こるようになりました。これにより「貨物は到着しているのにB/Lが手元に無いから引き取りができない…」という問題が発生してしまったのです。
これを解決するために考えられたのが「サレンダード(元地回収(もとちかいしゅう))」という方法です。貨物を船に積み込んだ時点で「船会社がB/Lを回収した」とすることで、オリジナルB/Lの到着を待たずに貨物を引き取れるようにしたのです。
この方法によって国際間の輸送に伴うオリジナルB/L紛失のリスクも解消されました。サレンダー処理されたB/Lは「SURRENDERED」「元地回収済」等のスタンプが押されたコピーで発行されます。このように回収処理されたオリジナルB/Lのことを「サレンダードB/L」というのです。
【5】SEA WAYBILL
近年の国際貿易で主流になりつつあるのがこのSEA WAYBILLです。
SEA WAYBILLは通称「WAYBILL」と呼ばれています。「WAYBILL」と呼ばれてはいるものの、SEA WAYBILL自体には有価証券としての価値は無く、単なる「貨物送り状」としての意味しか持ちません。
国際間の取引には絶えず決済の不安が伴います。「貨物を送ったのに金額の支払いが無い…」というのは実は意外とよく耳にするトラブルです。貨物を引き取る際は船会社へ有価証券であるB/Lの提出が必須ですが、これは逆を言えば、「B/Lを提出できなければ貨物を引き取ることができない」ということを意味します。このことを利用し、荷送人は決済が完了・確約されたタイミングでB/Lを荷受人に送付することで、決済のリスクを回避できるのです。
対してSEA WAYBILLは単なる「貨物送り状」としてのものなので、船会社に提出しなくても貨物を引き取ることができます。そのため「決済のリスクが無い・少ない取引」においては、速さ・効率性を重視したSEA WAYBILLが使用されます。「決済のリスクが無い取引・少ない取引」とは例えば、本社-海外支社間での取引、長年の信用実績がある海外企業との取引といったものが挙げられます。SEA WAYBILLは有価証券ではないもののオリジナルB/Lと同等の国際ルールが適用される部分があるため、採用する企業が多くなってきています。
おわりに
このように「B/L」と呼ばれているものには色々なものがあります。
国際間の取引には様々なリスクが伴いますが、契約の内容に合わせたB/Lを採用することが大切です。決済のリスクを回避したいならばオリジナルB/L(サレンダーB/L)を、書類手続きの問題による納期遅延を回避したいならSEA WAYBILLを、といった採用の仕方です。
いずれにせよ大切なのは、「周りがそうだから」「船会社・取引先が勧めてくるから」といった外部の声を採用するのではなく、きちんとご自身の理解のうえでB/Lを採用・手配することです。

秋田県出身。
大学卒業後、バンドデビューを目指して音楽活動をするも挫折。
就職を考えた際、当時のバンドのベーシストが務めていた「国際物流」の業界が面白そうだと思い飛び込む。
勤務した会社の恩師より、貿易の流れ、専門用語、輸出入の各種手続き、通関のノウハウを学ぶ。
国際貿易のスペシャリスト「通関士」の資格を取得後は、様々な貨物の取り扱いを経験。
業界で得た知識・経験を活かし、貿易相談サービスを展開している。
堅苦しくない肩の力を抜いたやり取りを通して「誰にでも分かりやすい」解説を心がけ、その内容は貿易初心者から熟練者まで好評を得ている。
ちなみに影響を受けたお気に入りのバンドは THE STONE ROSES とthee michelle gun elephant。