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平成31年度税制改正について

第三回 個人所得課税・資産課税・納税環境整備等の改正・見直しについて

第三回目は、個人所得課税・資産課税・納税環境整備等の主要な改正・見直しについてご説明します。

個人所得課税

ストックオプション税制の適用対象者の拡充

適用対象者の範囲は、中小企業等経営強化法に規定する認定新規中小企業者等(仮称)が認定を受けた新事業分野開拓計画(仮称)に従って、社外から企業に貢献する高度人材(外部協力者)にまで拡大されます。

NISA制度の利便性の向上等

NISA口座保有者が海外転勤等のやむを得ない事情により一時的に出国する場合等、日本を離れている間であっても、一定の手続きにより引き続き NISA口座の利用が可能となります。また、民法改正に伴い、口座開設可能年齢要件が18歳に引き下げられます。

その他

1.ふるさと納税の見直し

ふるさと納税制度の健全な発展に向けて、一定のルールの中で地方公共団体が創意工夫をすることにより全国各地の地域活性化につなげるため、次の基準に適合する都道府県等がふるさと納税の対象となる団体として指定されます。

  • 寄附金の募集を適正に実施する都道府県等
  • 返礼品は返礼割合3割以下の地場産品であること

この改正は、2019年6月1日以後に支出された寄附金について適用されます。

過度な返礼品を送付し、制度の趣旨を歪めているような自治体については、ふるさと納税の対象外とされます。

2.住民税の非課税措置の拡充

子どもの貧困に対応するため、児童扶養手当の支給を受けている児童の父または母のうち、現に婚姻をしていない者または配偶者の生死の明らかでない者で、前年の合計所得金額が135万円以下である者が個人住民税の非課税措置の対象に加えられます。これは2021年度分以後の個人住民税について適用されます。

資産課税

個人事業者の事業承継税制の創設

平成30 年度税制改正における非上場株式等に係る事業承継税制の抜本的な拡充に続き、個人事業者の事業承継促進のため、相続等または贈与により事業用資産(不動産貸付事業用資産を除く)を後継者が取得して事業を継続する場合の相続税・贈与税の納税を猶予する制度が創設されます。

この新たな納税猶予制度は10年間2019年1月1日から2028年12月31日までの時限措置で、青色申告者である被相続人等の事業用宅地(400㎡までの部分)、建物(床面積 800㎡までの部分)および一定の減価償却資産が適用対象とされます。相続税・贈与税ともに納税猶予割合は100%で、担保の提供が条件となります。
なお、この制度は「小規模宅地等(特定事業用宅地等)についての相続税の課税価格の計算の特例」との選択適用とされます。

また、この制度の内容は、非上場株式等に係る事業承継税制に準じるものとされ、適用を受けるためには、2019年4月1日から2024年3月31日までの間に承継計画を都道府県に提出することが必要となります。

2025年に70歳以上となる個人事業者は、約150万人と推計されており、その多くが後継者未定と考えられています。高齢化が急速に進展する中で、円滑な世代交代を通じた事業の持続的な発展の確保が喫緊の課題となっています。

特定事業用宅地等に係る小規模宅地の特例の見直し

節税を目的とした駆け込み的な適用等本来の趣旨を逸脱した適用を防止するために、特定事業用宅地等の範囲から相続開始前3年以内に事業の用に供された宅地等が除外されます。この見直しは、平成31年(2019年)4月1日以後に相続等により取得する財産に係る相続税について適用されます。ただし、同日前から事業の用に供されている宅地等および当該宅地上で事業の用に供されている減価償却資産の価額が、その宅地の相続税評価額の15%以上である宅地はこれまで通り特定事業用宅地等から除外されません。

非上場株式等に係る事業承継税制の見直し

非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予制度について次の見直しがなされました。

1.取消要件の緩和

一定のやむを得ない事情により認定承継会社等が資産保有型会社・資産運用型会社に該当した場合においても、その該当した日から6カ月以内にこれらの会社に該当しなくなったときは納税猶予の取消事由に該当しないものとされます。

2.年齢要件の引下げ

贈与税の納税猶予における受贈者の年齢要件が、現行の20歳以上から18歳以上に引き下げられます。

3.手続きの簡素化

非上場株式等の贈与者が死亡した際、相続税の納税猶予の適用を受ける場合には、贈与税に関する納税猶予の免除届出の添付書類を不要とする等、手続きが簡素化されます。

教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与の要件の追加

格差の固定化につながらないよう機会の平等確保等の観点から、受贈者の所得要件の追加(受贈者の合計所得金額 1,000万円以下)や教育資金の範囲、その他所要の見直しが行われ、適用期限が2年間延長されます。

民法の改正に伴う税制上の規定の整備

1.配偶者居住権の評価方法

平成30年(2018年)7月13日に改正民法が公布され、社会情勢の変化に対応し、残された配偶者の生活に配慮する等の観点から、配偶者の居住の権利を保護するための方策として配偶者居住権が盛り込まれました。これに伴い、相続税における配偶者居住権等の評価方法等が規定されます。

2.成年年齢の引下げに伴う税制上の措置

相続税の未成年者控除や贈与税の各制度おける受贈者の年齢要件が現行の20歳から18歳に引き下げられます。
この改正は、2022年4月1日以降に以後に相続等または贈与により取得する財産に係る相続税・贈与税について適用されることになります。

納税環境整備・その他

情報照会手続の整備

1.事業者等への協力要請

税務当局の職員が事業者等に対して、国税に関する調査に関し参考となるべき帳簿書類、その他の物件の閲覧または提供、その他の協力を求めることができることが法令上明確化されます。

2.事業者等への報告の求め

国税局長は、以下の要件のすべてを満たす場合に、事業者等に対して、特定取引者(事業者との取引を行う不特定の者)の氏名または名称、住所または居所および個人番号または法人番号につき、一定の期日までに、報告を求めることができることとされます。

  • 特定取引者の国税について、更正決定等をすべきこととなる相当程度の可能性がある場合
  • この報告の求めによらなければ、特定取引者を特定することが困難である場合

報告の求めが行われる場合には、事業者等の事務負担に配慮がなされ、報告事項が書面で事業者等に通知されます。事業者等による不服申立ても可能となります。

3.適用

上記の改正は、2020年1月1日以後に行われる協力または報告の求めについて適用されます。

近年、仮想通貨取引やインターネットを通じた業務請負の普及等、経済取引の多様化・国際化が進展しています。これらの経済取引の健全な発展を図るとともに、適正な課税を確保することが重要です。高額・悪質な無申告者等の情報を税務当局が照会するための仕組みが整備されます。

仮想通貨の取扱い

1.所得税

個人が仮想通貨の売却をした場合において、その取得価額を計算する際に行う期末評価額の計算方法は、移動平均法または総平均法とすることが明確化されます。

2.法人税

法人が事業年度末に有する仮想通貨のうち、活発な市場が存在する仮想通貨については、時価評価により評価損益を計上することになります。また、仮想通貨の譲渡に係る原価の計算方法は、移動平均法または総平均法による原価法とします。この改正は、2019年4月1日以後に終了する事業年度分の法人税について適用されます(経過措置あり)。

活発な市場が存在する仮想通貨については、会計上の取扱い(「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」企業会計基準委員会)においても期末における時価評価が求められており、税務と会計の取扱いが一致することとなります。 一方で、活発な市場が存在しない仮想通貨については、会計上は、期末における処分見込価額が取得原価を下回る場合には差額を当期の損失として処理することとされており、税務と会計の取扱いが異なることとなる可能性があります。

消費税率の引上げに伴う対応

消費税率の引上げの際に発生する駆け込み需要と反動減という大きな需要変動を平準化するために、住宅と自動車に対する税制上の支援策が講じられます。

1.住宅ローン減税

住宅ローン減税について、住宅の取得(消費税の税率が10%である取得に限る)をして2019年10月1日から2020年12月31日までに居住の用に供した場合に、税額控除を受けられる期間が10年から13年に延長されます。
一般の住宅に係る11年目から13年目までの各年の税額控除額は、下記のいずれか少ない金額とされます。

  • (イ)住宅借入金年末残高(4,000万円を限度)×1%
  • (ロ)住宅取得対価(4,000万円を限度)×2%÷3

11年目以降の3年間については、消費税率 2%引上げ分の負担に着目した税額控除の上限が設けられることになります。

2.車体課税

自動車取得税(価格の 3%)は2019年10月10月の消費税増税時に廃止されます。代わりに、燃費性能に応じて納める環境性能割(価格の 3%~0%)が導入されますが、増税後の 1年間に限って税率が1%分軽減されます。また、自動車の保有に係る自動車税は最大年 4,500円減税されます(恒久減税)。減税財源を確保するために、エコカー減税は縮小されます。

自動車関係諸税に関しては、技術革新や保有から利用への変化等の自動車を取り巻く動向等を踏まえて、その課税のあり方について中長期的な視点に立って今後検討を行うことが、大綱に記載されています。

その他

1.金地金

金地金密輸防止のため、消費税に関して、密輸品と知りながら行った課税仕入れについては、仕入税額控除を認めないこととされます。また、金地金に係る仕入税額控除について、「本人確認書類の写し」の保存が要件に加えられます。

消費税率の10%への引上げに伴い、金地金の密輸・脱税がさらに増加することが懸念されています。

2.連結納税手続き

連結納税における加入特例適用や異動届出書提出等の手続きに関して、簡素化が行われます。

3.大法人の電子申告義務化に係る措置

eLTAX(地方税のオンライン手続きのためのシステム)に障害が生じた場合には、総務大臣の告示により、申告等に係る期限を延長することができることとされます。
大法人の法人住民税、法人事業税の確定申告書等や添付書類に関して、電気通信回線の故障、災害その他の理由により電子情報処理組織を使用することが困難であると認められる場合には、申告書や添付書類を書面にて提出することができるとする宥恕措置が講じられます。

4.東京オリンピック・パラリンピックに参加する非居住者等に係る課税の特例

選手・審判員等の非居住者の一定の給与・報奨金等については所得税を課さないこととします。また、大会関連業務を行う外国法人が支払いを受ける一定の使用料および一定の恒久的施設帰属所得については、所得税、法人税を課さないこととします。

本コラムは、一般的な参考情報の提供のみを目的に作成されており、会計、税務およびその他の専門的なアドバイスを行うものではありません。EY 税理士法人および他のEY メンバ ーファームは、皆様が本コラムを利用したことにより被ったいかなる損害についても、一切の責任を負いません。具体的なアドバイスが必要な場合は、個別に専門家にご相談ください。

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