ERPコラム

財務会計と管理会計の違いは? ERPはどう役立つのか?

経営の意思決定に必要な情報を集約する管理会計。管理会計とは何か? どのように活用できるのか?

企業会計には、財務会計と管理会計の2種類があります。この2つの会計方法はそれぞれ別の目的を持っています。まず財務会計とは、企業がステークホルダーに対し、決算期の経営状態を情報提供する義務を果たすためのもの。そして管理会計は、経営者や事業責任者が意思決定をするための役割を担います。本記事では、後者の管理会計について説明してまいりますが、その前に、財務会計と管理会計の違いについて理解を深めていきましょう。

財務会計とは何か?

企業は、債権者である金融機関投資や投資をしている株主など、さまざまな利害関係者=ステークホルダーによって支えられています。ステークホルダーは、それぞれが債権や投資からの利益を最大化しようと考えています。
一方、企業経営者は、利害を持つステークホルダーから経営を委任され、彼らの利益を上げるために行動する必要があります。ステークホルダーには、社員やその家族も含まれます。勤務する会社の経営が安定しているのか、経営陣の取っている行動や意思決定は妥当なのかどうかといったことを知るうえで、社員にとっても財務会計の内容は参考になります。
財務会計は、企業の経営状況を社会に対して公開する役割を果たすために行われるものですので、「企業会計原則」に従わなくてはならないという義務があります。
それは、下記のような7つの原則に基づいています。

  1. 真実性の原則
  2. 正規の簿記の原則
  3. 資本取引・損益取引区別の原則
  4. 明瞭性の原則
  5. 継続性の原則
  6. 保守主義の原則
  7. 単一性の原則

この中で、特に「真実性の原則」は重要です。大規模な損失を隠し、資金の不自然な移動など経営者が不正に会計を偽装することは、粉飾決済として問題になります。企業の信用を著しく損なうことに加え、それらは罰せられる理由ともなるのです。

管理会計とは何か?

社会に対し、経営状態を明瞭に説明する責任を果たすために行う財務会計とは別に、企業経営を多角的に把握し、経営の意思決定を行うためになされる会計があります。それが管理会計です。
企業は限られたリソースを有効に活用し、利益を最大化しなくてはなりません。営業による売上と利益、製造におけるコストなどを観察すれば、それぞれの部署の状況は一応把握できそうです。しかし、流動する経費と固定費の変化を見たり、社員の労働時間を見たりするなど、隠れたコストや工数を把握しなければ、果たしてそれらの部署が効率的に動いているのか、安定性、持続性、あるいは発展性があるのかどうかといったことまでは正確に知ることができません。
管理会計を導入していない企業では、各部署が体感的にそれらを推し量っているケースがよくあります。そのため、定量的な根拠を持たないままに意思決定が行われることも少なくありません。

企業には、即時的な成果が求められる部署もあれば、将来のために投資する部署もあります。また、研究開発や企画開発のように、長期的に取り組んで効果が上がることを期待される部署もあります。企業の持続と発展を考えるならば、どの部署も重要であることは間違いありません。全体最適経営には、投資と利益追求のバランスを取りながら事業を行っていくことが必要です。
財務会計の結果である財務諸表(バランスシートなど)や自己資本比率などの財務指標のみでは到底図ることのできない企業のコンディションを、指標により明らかにすることによって、企業活動の目標、進路、速度、投資を決定するのに役立つのが管理会計なのです。

管理会計の指標

経営の意思決定に際し、定量的判断基準を提供する管理会計は、中期計画や事業計画の策定に役立てられます。
管理会計にはさまざまな指標があり、企業によってその採用、優先順位、分析の際のデータ粒度、観察の頻度などが変わってきます。業種・業態の違いによっても、活用する指標はそれぞれ違ってくるものです。
企業のコンディションは、損益分岐点の分析や予実管理、部門別会計など、さまざまな項目によって分析します。財務会計が国内共通のルールに基づいて行われるのに対し、管理会計は各企業の分析、判断の基準になるものですから、業種・業態によって手法は異なります。管理会計は、外部向けに客観的な経営状況を示すものではなく、あくまで経営層や経営企画、事業推進、営業推進といった各部署が、具体的な事業の改善や新規事業立ち上げなどの判断を行うためにつくられるものです。
それでは、管理会計における指標を見ていきましょう。

  1. 限界利益率
  2. 損益分岐点
  3. 労働分配率

管理会計では以上の3つが代表的な指標です。それでは、それぞれの指標について解説してまいりましょう。

1.限界利益率

「(売上高-変動費)÷売上高」という公式によって求めることができます。売上高から変動費を差し引いた部分が、売上に対しどの程度の割合かを示しています。
売上が増加すれば、仕入原価や流通コストなどが変動します。売れば売るほど儲かる事業ならば、変動費の増加は緩やかな状態で売上が伸びていくので、限界利益率は上昇します。また、通常人件費は変動費ではなく固定費として計算しますが、製造業やサービス業などで従業員の労務費が出来高によって変動する場合は、それを変動費として計算することがあります。
単純に、原価と売上を計算するのではなく、変動費に着目し継続的に観察することで、事業のコンディションがわかります。たとえば、売上が上昇しているにもかかわらず、限界利益率が下がっているようなケースを見ていくと、仕入原価や流通原価などに大きな変動があって利益が少なくなっていることや、売値が下がっていること、キャンペーンなどによる販促費が負担になっていることなどの原因がわかります。
それらを把握して分析することにより、当該事業の製造や販売、営業についての改善を図り、中期の計画策定に寄与することができるようになるはずです。

2.損益分岐点

「固定費÷限界利益率」という公式で求められます。
こちらは、固定費を維持するために必要な売上高が求められます。これにより営業利益がゼロになるポイントが明らかになります。つまり企業を維持するのに必要な売上を把握することができるため、管理会計では重要な指標です。商品をどのような価格でどれだけの量を売ればビジネスとして成立するかは、損益分岐点を見ることで判断できます。
しかし、スタートアップ企業では、損益分岐点を超える売上が示されるまで時間がかるケースは多くあるものです。このような場合は、事業計画で営業利益が黒字になるまでの期間を算出し、その後の成長による営業利益の増加を予測していきます。
また、企業内の複数の事業にそれぞれ損益分岐点を把握していけば、事業ごとに営業利益の状態が明らかになります。それにより、各部署の目標設定、コストの配分などに対する意思決定を行うことが可能となります。

3.労働分配率

「人件費÷付加価値」という公式で求めることができます。
労働分配率からは、企業が上げた付加価値に対し、どれだけの人件費がかかっているかを把握できます。ここでいう「付加価値」とは、財務分析用語で、労働により新しく付け加えられた価値を意味します。
企業が何らかの商品を販売する場合には、外部から材料を購入し、労働によって商品化し販売します。その際の売値と材料費、外注費、運送費など外部購入価格を差し引いたものが「付加価値」となります。便宜的に純利益を「付加価値」と呼ぶケースもあります。
労働分配率は、業種や業態によって異なります。サービスやIT企業のように外部購入価格が少ない業種では、価値を生み出すのは人の労働が主体になるので、人件費は多くなります。
労働分配率は、部署や事業ごとに算出することで利益を上げるのに必要な人件費の割合を把握することが可能となり、それは経営の意思決定にも役立ちます。それと同時に、労働分配率はその企業が社員の待遇に対してどういう考え方をしているかを示す指標でもあるといえます。

以上の3つ以外にも重要な指標はありますが、その企業の業種・業態や、経営者が何を把握したいのかによって、求められる指標は変わってきます。また、自社のビジネスにおいて、どのような指標が重要なのかを考えることも、経営者の重要な億割です。

管理会計とERP

管理会計は、各事業部や部署の業務から見えてくるものです。部門には、ヒト、モノ、カネのさまざまなデータが蓄積されています。日々の営業活動や販売のデータ、生産部門の仕入や工場の稼働状況、外注の件数と金額、新しい事業の進捗状況、そして日々の社員の行動…。その一つひとつが企業経営にとってのデータになります。
ERPは、これら社員の業務から生まれるデータを一元的に管理するシステムです。それにより、管理会計の指標にリアルタイム性と正確性を提供することが可能となります。
部署ごとに蓄積の方法やデータの種類が違っても、それらを統合環境の中で抽出し分析できるので、部署をクロスした指標の算出も可能です。
経営者の意思決定、部門ごとのリソースの管理、新規事業の見通しなどに役立つ定量的なデータとして、ERPに蓄積された情報は大いに役立つものです。ERPの環境自体が、管理会計を実現しているといえるでしょう。

まとめ

さまざまな状況の変化の速度が増し、不確実性に満ちた現在。企業の経営判断においてはリアルタイムに状況を把握し、場合によって計画の見直しも鋭く断行していかなければならない時代となっています。
こうした意思決定を合理的に行うためには、日々の業務のリアリティを把握し、市場や競合、調達先の変化にしっかり目を配る必要があるでしょう。そこで大きな力となるのが管理会計です。各部門のリソースを把握し、リアルタイムに課題を抽出し、解決するための管理会計の導入は、全社の業務基盤としてのERPの設計においてもっとも重要なことのひとつです。
ERPによる自社の管理会計を徹底活用すること。それは競合他社に対する戦い方、勝ち方を考える上での強力な武器にもなることでしょう。

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