2025年のERP最新トレンド ~AI、クラウド、そして新たな企業価値創造へ~
0.はじめに
2024年のERPパッケージライセンス市場規模(予測)は、前年比8.2%増の1,536億6,000万円で、2025年も引き続き成長が予測されています。(出典:(株)矢野経済研究所「ERP市場動向に関する調査(2024年)」(2024年10月18日発表))

その背景には、「2027年問題」による多くの企業グループに導入された外資系ERPのリプレイスの加速や、企業の基幹システム領域でも本格化しつつある「クラウド化」、また「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」でも指摘されている基幹システムの老朽化・複雑化・ブラックボックス化した既存システム再構築などによるERP需要の拡大があります。
本コラムでは、ERPの最新トレンドとその背景にある社会環境の変化や情報技術の変遷といった企業の環境変化も交えて、その内容について詳しく解説していきます。
1.2層ERPの採用
2層ERPとは、グループ企業内で企業規模などによって異なるERPシステムを採用するアプローチです。1990年代に企業の経営状況を把握やBPR(Business Process Re-engineering)という経営コンセプトが流行、日本の会計制度を国際標準に近づけるための「会計ビッグバン」が後押しとなり、大企業やグループ子会社を中心に外資系ERPの導入が進みました。一方で、導入にあたっては、自社の業務要件に合わせて高額な費用をかけてカスタマイズしたため、バージョンアップ時も高額な費用がかかるといった問題も発生しました。
2層ERPの採用には、さまざまな理由がありますが、海外と日本では、ERPに必要な要件(言語、通貨、会計基準、商習慣など)が異なり、国内事業を中心としている場合、グローバルERPと比べて国内の商習慣に適合した国産ERPの方が、カスタマイズが少ない、低コストで導入が可能、変化する日本のビジネス状況に即座に対応できるといったことが挙げられます。
2.クラウドERPへの移行
ERPパッケージライセンスのクラウド化は依然拡大を続け、2024年には6割を超えると予測されています。
クラウドERPは、短期間で導入が可能で、導入や運用コストを抑え、セキュリティを強化し、時間や場所を問わず作業できるなどのメリットがあることが、その大きな理由です。
クラウドERPは、その導入のし易さから、前述の「2層ERP」として採用されるケースも増えています。1層目を国産ERP、2層目に国産ERPと同一アーキテクチャで開発されたクラウドERPを採用することで、企業グループ全体でのデータ連携や内部統制のレベルを統一し、グループ全体の可視化やコンプライアンス強化に役立てることができるからです。
3.AIなどの最新技術の組み込み
近年、AIは目覚ましい発展を遂げています。特に、機械学習の進歩により、画像認識、自然言語処理、音声認識などの分野で飛躍的に性能が向上しました。これにより、AIは、私たちの生活に身近な存在となり、自動運転や医療診断など、様々な分野で活用されつつあります。また、生成AIの登場により、文章作成や画像生成といった創造的な作業も可能になり、AIの可能性が拡大、ビジネスの現場での活用が期待されており、そのプラットフォームとしてERPが注目されています。
ERPの普及により、従来、紙ベースで行われていた業務がデジタル化され、データ量が飛躍的に増加し、ERPシステムに集約されています。一方で、人間がすべてのデータを分析し、有効活用することには限界があり、AIはこの膨大なデータを短時間で分析し、隠れたパターンや傾向などを発見することができるからです。
今後は、グローバルなサプライチェーンの構築、多様な通貨、異なる法規制など、ますます複雑化するビジネス環境への対応や利用者一人ひとりのニーズに合わせてパーソナライズ化された製品やサービスの提供など、企業が迅速かつ正確な意思決定を行うために、AIが過去のデータに基づいた予測やシミュレーションを行い、最適な支援を提供するようになります。
4.クラウド利用の拡大と様々なシステムとの連携の必要性
「クラウド化」の波は、使い勝手の良さやコストの安さ、柔軟性と拡張性などのさまざまな理由で拡大しています。
(クラウド利用拡大の主な要因)
要因 | 説明 |
---|---|
使い勝手の良さ | 簡単に導入できる、事業者が運用を行うため専門要員が不要 |
コストの安さ | 初期導入コストが安価。資産や保守体制を社内に持つ必要がない |
柔軟性、拡張性 | 利用人数などに合わせてリソースを増減することができる |
その他 | セキュリティが担保されている。DX推進や働き方の多様化 |
一方、クラウド利用の拡大で、自社のデータがさまざまなサービス上に点在しています。例えば、勤怠管理はA社、メールやグループウェアはB社、SFAやCRMはC社、販売管理や会計システムはD社といったように、クラウドサービスが増えるにつれ、システムやデータベースが分散して別々のクラウドに保存される「サイロ化」という状態です。

「サイロ化」を解消し、複数のシステム間で同じデータを統一して扱い、データの一貫性や整合性を担保。システム間の連携を行うための仕組みの一つが「API連携」です。API連携とは、API(Application Programming Interface)を利用して、異なるシステムやアプリケーション間でデータや機能を共有する仕組みです。
5.ERPの将来
ERPは、企業全体の情報を一元管理するため、社会環境の変化に即応できる柔軟性を持つことが求められ、常に社会環境や情報技術の変化に合わせて進化を続けるシステムといえます。今後は、前述の4つのトレンドによるERPの進化が引き続き加速するとともに、近い将来、「サステナビリティを支援するための基盤」となることが求められると考えられます。
サステナビリティは持続可能な発展を目指す考え方や取り組みです。ERPはその中で、企業活動の情報とESG(環境・社会・ガバナンス)関連の情報を一元管理し、合理的なデータ分析・可視化することで、サステナビリティ関連業務の効率化・最適化を支援すると考えられます。
(社会環境や情報技術の変化からみるERPの最新トレンド)
- 2層ERP
- クラウドERPへのシフト
- AIなどの最新技術の組み込みによる機能強化
- APIによる様々なシステムとの連携
- サステナビリティ領域の支援
※記事の内容は、制作時点に一般公開されている情報に基づいています。また、記載されている会社名・製品名・システム名などは、各社の商標、または登録商標です。
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