基幹システムの入れ替え失敗事例、原因と対策

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基幹システムの入れ替えは難易度が高く、失敗した場合の業務影響は計り知れないものがあります。十分な計画を策定し、リスクの想定と対策の検討が重要です。本記事では、実際の失敗事例を基に、失敗の原因と事前に講じるべき対策を分かりやすく解説します。

1.基幹システムの入れ替えに失敗した企業の事例

基幹システムの入れ替えは、多額の投資と多くの人員を要する大規模なプロジェクトです。近年、実際に大規模なシステム障害を公表した企業の事例は、プロジェクトの難しさと影響の大きさを物語っています。ここでは、代表的な2つの事例を紹介します。

事例1

A社では、基幹システムの切り替え時に障害が発生。システムが正常に稼働できなかったため、受注から出荷までの一連のプロセスに大きな影響がありました。

この障害により、取り扱い商品の出荷を一時停止する事態に至っています。

この影響は甚大で、売上高は500億円規模の損害が発生しました。

本事例は、基幹システムの入れ替え失敗により、経営への直接的な影響が生じた事例といえます。また、生活に身近な商品の出荷停止が報道されたことで話題に取り上げられ、ブランドイメージの毀損も招くこととなりました。

事例2

B社システムの企業間のデータ通信で大規模なシステム障害が発生しました。これは、システムと各機関をつなぐ中継コンピューターの保守期限を迎えるにあたり、新しいハードウェアへ移行したことに起因するものです。

この障害により、サービスが約2日間利用不能となる影響が生じました。

影響を受けた処理は、送信側と受信側を合わせて約560万件にのぼり、社会インフラとしてのシステム障害がもたらす影響の大きさを浮き彫りにしました。

原因究明と再発防止策の策定には多くの時間を要し、改めてシステム移行の難しさが示された事例です。

このように、基幹システムの入れ替えは難易度が高く、失敗事例は決して他人事ではありません。基幹システムの移行の流れや失敗原因を知り、適切に対策を講じることが重要です。

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2.基幹システムの入れ替えが失敗する5つの理由

基幹システムの入れ替えにおける「失敗」とは、単にシステムが動かないことだけを指すのではありません。

  • 当初の予算を大幅に超過する
  • 稼働開始時期が遅れる
  • 導入したものの期待した業務効率が得られない

こうした状況も、プロジェクトの失敗に該当します。
基幹システムの入れ替え失敗の要因として、主に以下の5つが挙げられます。

  • 現行システムの理解不足
  • システムやベンダー選定の失敗
  • あいまいな要件定義
  • 業務担当者が不在のプロジェクト進行
  • 移行計画の検討不足

上記の要因をそれぞれ詳しく解説していきます。

1.現行システムの理解不足

長年使用されてきた基幹システムは、度重なる改修や機能追加によって複雑化し、現状把握すら難しい場合があります。

  • 設計書と実際のソースコードが異なっている
  • そもそも設計書や機能仕様書のドキュメントが残っていない
  • 当時の開発担当者が退職して改修経緯を知る者がいない

こうした事情で、現行システムの仕様がブラックボックス化しているケースも多く、現行システムが担っていた重要な機能を見落としてしまう可能性があります。

その結果、新システムで必要な機能が不足していたり、予期せぬ不具合が発生したりして、プロジェクトが頓挫する原因となります。

2.システムやベンダー選定の失敗

システムや開発を依頼するベンダーの選定ミスも、失敗の大きな要因です。コストを優先するあまり、自社業務との差(GAP)が大きいパッケージシステムを選んでしまうことがあります。また、導入実績の少ないベンダーを選ぶこともリスクを伴います。

このような選定ミスは、以下のような課題を引き起こす傾向にあります。

  • 標準機能では要件を実現できない
  • 追加のカスタマイズで予算が超過する
  • 導入がスムーズに進まず、稼働開始が遅延する

結果として、プロジェクト本来の目的を達成することが困難になります。初期段階でのシステムとベンダーの選定が、プロジェクト全体の成否を左右すると理解しておきましょう。

3.あいまいな要件定義

システムの向かうべきゴールを決める「要件定義」があいまいなことも、プロジェクトの失敗によく見られます。

追加機能の要望があっても、具体的な仕様が決められていない場合が典型です。

  • 追加する帳票の出力イメージが、現場担当者とすり合わせできていない
  • 権限管理に際し、データを参照してよい担当部門や役職などが整理できていない
  • 基幹システムとの連携先システムの担当者と、送受信するデータの項目や頻度が決められていない

このような状態で開発を進めてしまうと、後工程で手戻りが発生しがちです。結果的に、追加の開発コストが発生したり、開発スケジュールが遅延したりしてしまう事態が起きてしまいます。

4.業務担当者が不在のプロジェクト進行

基幹システムの入れ替えには、実際に利用する業務担当者の協力が不可欠です。

しかし、担当者は日々の業務で多忙なことが多く、プロジェクトの初期段階から参画できないケースも多くみられます。その結果、現場の意見がシステムに十分に反映されず、以下のような問題が発生するケースが目立ちます。

  • 完成した機能が、現場の実際の運用では使いにくい仕様になっている
  • 連携先システムの担当者と意思疎通が不足し、連携データの項目が足りていない

このような問題は、後工程での大規模な修正作業につながります。要件定義の段階で業務担当者を巻き込めないと、プロジェクトの遅延や予算超過を招く大きな原因となります。

5.移行計画の検討不足

基幹システムは企業の幅広い業務を支えている仕組みです。失敗事例で紹介した通り、システムが停止すると、事業全体に大きな影響を及ぼします。そのため、旧システムから新システムに移行する場合、業務を止めないように安全に移行する方式を検討する必要があります。

この移行計画が不十分だと、以下のような深刻な事態を招く可能性が高まります。

  • 予期せぬトラブルにより、長期間の業務停止が発生してしまう
  • 旧システムから新システムへデータ移行ができず、業務効率が著しく低下する

業務を継続しながらシステムを切り替えることは、簡単なことではありません。データ移行の手順やタイミング、移行中の業務継続方法など、詳細な計画を立てる必要があります。

3.失敗しないためにやるべき4つの対策

基幹システムの入れ替えに失敗しないためには、入念な準備が必要です。ここでは、具体的な4つの対策を紹介します。

  • 現行システムと業務理解の徹底
  • 有識者を交えたプロジェクト管理
  • トップダウンによるプロジェクト推進
  • 入念な移行計画の策定とリハーサルの実施

1.現行システムと業務理解の徹底

長年運用された基幹システムは、仕様書と実態が異なる場合がよくあるので、現行システムと業務の分析を進めることが有効です。

  • 開発環境を用いた実機検証で挙動を確認する
  • 現場の担当者へヒアリングし、業務フローを再調査する
  • システム外で使うツール(ExcelやAccessなど)も含めて業務実態を調査する

現場では、現行システムの機能が使いにくいために、システム外で作成したツールを使って実運用されているケースもあります。システム再構築の際は特に、こうした現状理解を踏まえて要件定義や設計に臨むことが大切です。

2.有識者を交えたプロジェクト管理

基幹システムの入れ替えは大規模で、開発中に多くの課題が発生します。
追加コストの判断や進捗、リスク管理など、高難度のプロジェクト管理は情報システム部門だけでは困難です。

必要に応じて、ベンダーのサポートに加え、外部コンサルタントの活用が有効です。

  • ユーザー企業とベンダーの間に入り、客観的な視点でシステム選定や要件定義を支援する
  • PMOとして品質管理、課題管理、進捗管理などを重点的にサポートする

このような支援を受けながら、チーム一丸となってプロジェクトを進めるのがよいでしょう。

3.トップダウンによるプロジェクト推進

基幹システムの入れ替えでは、システム選定や要件定義など、多くの場面で判断を迫られます。

その際、プロジェクトが「何を目指すのか」という目的が重要です。

  • 「標準機能」の活用を第一優先とし、既存業務も含めて再構築する
  • 「業務の自動化」を目指し、現場の要望を形にする

このように目的が違えば、要件定義や設計時に優先すべきことが変わります。

経営層が目的を明確に示し、トップダウンで推進することで課題発生時や予算超過時の難しい意思決定もスムーズに進むでしょう。また、現場からのシステム要求を整理しやすくなるという利点もあります。

その結果、予算超過やスケジュール遅延のリスクを抑えられます。

4.入念な移行計画の策定とリハーサルの実施

基幹システムの切り替えは、規模が大きいほど影響範囲が広がります。失敗を避けるには、入念なシステム移行計画を立てる必要があります。

特に以下の観点を踏まえて、準備を進めることが重要です。

  • データ移行:データの整備や変換、移行のタイミングなど
  • 業務移行:並行稼働の検討や業務の切り替え時期など
  • システム移行:他システムとの連携開始や旧システムの終了時期など

これらの検討には多くの時間が必要です。現場部門との調整も発生するため、早めに計画を立てることが成功の鍵となるでしょう。

4.失敗事例から学び、入念な準備を

本記事では、基幹システムの入れ替え失敗の原因と対策を解説しました。失敗につながる要因は以下の5つです。

  • 現行システムの理解不足
  • システムやベンダー選定の失敗
  • あいまいな要件定義
  • 業務担当者が不在のプロジェクト進行
  • 移行計画の検討不足

基幹システムの入れ替えは難易度が高く、業務への影響が大きいために社内からの注目も集まります。安全にシステム移行ができるよう、入念な準備を進めましょう。

特に、プロジェクトの初期段階である「システム選定」が重要です。自社の課題を解決し、業務を効率化する適切なERPパッケージを選ぶことが、成功への第一歩となります。

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