60時間超の残業の割増率と代替休暇|社会保険労務士 川島 孝一

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労働基準法では、月の残業時間が60時間以内であれば「2割5分以上」、60時間を超える場合は「5割以上」の割増賃金率で計算した賃金を支払うことになっています。ただし、以下に該当する中小企業は60時間を超える残業があったとしても、現在は2割5分以上の率のままとする猶予措置が適用されています。

業種 資本金の額または、出資の額 または 常時使用する労働者数
小売業 5,000万円以下 または 50人以下
サービス業 5,000万円以下 または 100人以下
卸売業 1億円以下 または 100人以下
その他 3億円以下 または 300人以下

「現在は」と記載したのは、「2023年4月から」この猶予措置がなくなるからです。そのため、中小企業であったとしても、1か月60時間を超える法定時間外労働に対しては、「50%以上」の率で計算した割増賃金を支払う必要が出てきます。
60時間超の時間外労働をした場合は、支払金額がこれまで以上に大きくなります。現在60時間を超える残業をする労働者がいる中小企業は、労働時間の削減を検討していくことも必要になるかもしれません。
今回は、60時間を超えた場合の割増賃金率と代替休暇について説明したいと思います。

割増賃金率について

1か月の時間外労働が60時間を超えると、割増賃金率も変わってきます。繰り返しになりますが、中小企業については、2023年4月からスタートとなります。

割増賃金を支払う場合 割増賃金率
時間外労働 5割以上
休日労働 3割5分以上
法定労働時間内の深夜労働 2割5分以上
時間外労働が深夜に及んだ場合 7割5分以上(①+③)
休日労働が深夜に及んだ場合 6割以上(②+③)

代替休暇について

1か月60時間を超える法定時間外労働を行った労働者の方の健康を確保するため、引上げ分の割増賃金の代わりに有給の休暇(代替休暇)を付与することができます。この制度を導入することで、残業代を圧縮できる効果が期待できますが、計算が煩雑になので注意が必要です。

代替休暇制度導入にあたっては、過半数組合、それがない場合は過半数代表者との間で労使協定を結ぶことが必要になります。労使協定で締結する項目は、次の4つです。

1)代替休暇の時間数の具体的な算定方法

代替休暇の時間数の具体的な算定方法は、以下のような計算式で求めることができます。

代替休暇の時間数=(1か月の法定時間外労働時間数―60時間)×換算率
*換算率:代替休暇を取得しなかった場合に支払うこととされる割増賃金率から代替休暇を取得した場合に支払こととされている割増賃金率を控除した率

<例>
月の法定時間外労働時間80時間
換算率が0.25の場合
*60時間以下の場合の割増賃金率が2割5分で、60時間を超える割増賃金率が5割だった場合の換算率は、1.5-1.25=0.25となります。

80時間-60時間)×0.25=5時間 この5時間が代替休暇の時間数になります。

2)代替休暇の単位

代替休暇の単位としては、まとまった単位で与えることで労働者の休息の機会を確保する観点から、「1日」「半日」「1日または半日のいずれか」によって与える必要があります。

3)代替休暇を与えることができる期間

代替休暇は、特に長い時間外労働を行った労働者の休息の機会の確保が目的になります。そのため、一定の近接した期間内に休暇を与える必要があります。 法定時間外労働が1か月60時間を超えた月の末日の翌日から2か月間以内の期間で与えることを定めてください。
具体的な例をあげると、4月に60時間以上の法定労働時間を行った場合は、5月と6月で代替休暇を消化する必要があるということになります。

4)代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日

期間内に取得されなかったとしても、使用者の割増賃金支払義務はなくなりません。当然のことながら、代替休暇として与える予定であった割増賃金分を含めたすべての割増賃金額を支払う必要があります。

中小企業については、2023年4月まであまり時間がありません。従業員の健康管理の観点からも長時間労働が常態化すべきではありません。効率的に業務を進めることができる方法を考えていきましょう。

次回は、業務スケジュールにフィットさせることができれば残業時間を減らす効果がある「変形労働時間制」について紹介していきたいと思います。

著者プロフィール
社会保険労務士
川島 孝一

川島経営労務管理事務所所長、(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサルタント、社会保険労務士。
早稲田大学理工学部卒業後、サービス業にて人事・管理業務に従事後、現職。人事制度、賃金制度、退職金制度をはじめとする人事・労務の総合コンサルティングを主に行い、労務リスクの低減や経営者の視点に立ったわかりやすく、論理的な手法に定評がある。
著書に「中小企業の退職金の見直し・設計・運用の実務」(セルバ出版)、「労働基準法・労働契約法の実務ハンドブック」(セルバ出版)、「労務トラブル防止法の実務」(セルバ出版)、「給与計算の事務がしっかりできる本」(かんき出版)など。