トピックス
ビジネスコラム

これから始めるDX。傾向と課題と対策

第一回 これからはじめる「DX(デジタル・トランスフォーメーション)の傾向と対策」 “DX”の範囲を絞り込んで最短最速でプロジェクトを成功させるスタート地点“

はじめに

DX(デジタル・トランスフォーメーション)という言葉が、こんなに身近にバズワードになるとは思っていませんでした。
ニュースやネットで、DXについて調べたり検索したりすればするほどわからない。筆者は恐らくそのど真ん中に居て、DXなんとかというプロジェクトにも複数関わっているのですが、そもそもDXという言葉が曖昧です。
DXは、魔法のランプとかドラえもんのポケットのように、どんな悩みもあっという間に解決するというゲーム用語のようですが、やっぱりそんなモノがある訳もなく地に足ついた取り組みが必要です。
どのベンダ、どのコンサルファームに聞いても「うちもDXやっています!」と言うのでいろいろ聞いてみるですが、その話は従来のソフトウェアやシステムにDXという枕詞を乗せただけに見えていまひとつイメージがクリアになりません。
そこで、これからはじめる企業やその担当者向けにではなく、直接関係無い人向けに「狭くて分かりやすくて最短最速で出来る」DXについて考えてみました。DXについて筆者なりに解釈すると、“従来の業務プロセスをデジタル化してプロセスごとにデジタル技術でデータを取得する。
さらに取得したデータを解析して業務プロセスを最大限見直し(トランスフォームする)、製品と取得したデータを利用した製品サービスによる競争力向上を行うこと”と考えています。
これまで業務カイゼンと呼んでいた取り組みの一部ですが、データを起点としていること業務プロセスをトランスフォームすることが違いだと認識しています。
今回は、第1回目ということで、DXのレベル感とDXプロジェクトのユースケースを例示して出来るだけイメージしやすい説明を心掛けたいと思います。

DXの定義を狭い範囲に絞って考えてみる

ニュースやネットを眺めてみると、いろいろなDX(デジタル・トランスフォーメーション)があるようです。既に多くの大企業が取り組んでいるようですが、成功率は低く約1割程度だという記事もありました。
DXプロジェクトが失敗した要因は、DX人材が足りないことやDXのデジタル“D”に偏りすぎてテクノロジーやシステムありきのプロジェクトになったことだとされています。これは、少し前に流行ったAI(人工知能)と同じような匂いがします。
AIは、目的と期待する効果が明確であればちゃんと費用対効果が出ているので、DXはまだそのレベルには無いということでしょう。

さてDXの定義ですが、できるだけ分かりやすくするためにここでは「製造業のお客様向けDXに取り組む」という狭い範囲に絞って考えてみたいと思います。
「製造業のお客様向けDX」と言ってもいろいろです。内向きのDXだと、①製品を良く作る(低コスト、高品質、短納期など)、②工場と設備の稼働を上げる(ゼロダウンタイム、予知保全、多品種少量生産、変種変量生産など)があります。外向きのDXだと、③製品のサポートを良くする(リモートサポート、アプリで機能追加、保守代行サービスなど)、④マスカスタマイゼーションによるお客様仕様製品を個別生産、⑤製品使用データから新ビジネス(デジタルツインでリモート精密制御、新製品/新サービス開発など)などがあります。
国内では①②③の取り組みが多いのですが、海外では③④⑤が多いようです。これは、外資系企業では経営者に求められる評価や報酬が業績(売上/利益)に連動しているケースが多いことに寄ると考えられます。国内企業は、業績が2倍になっても報酬が倍増するわけではないのでローリスク・ローリターンでプロジェクトを小さく始めるケースが多く、全社展開を想定していないためPoCを繰り返してしまうようです。いずれにしても、経営トップの参画度合いと危機感が欧米などより低い傾向があり、経済産業省が2020年12月末に公開された「DXレポート2(中間取りまとめ)」サマリーにその現状が書かれています。
(参考URL:https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004.html

DXの実行レベルには、担当者が行う“業務レベルDX”から、事業部門として取り組む“事業レベルDX”、経営トップが直接参画する“経営レベルDX”まで3段階あるように思います。
目指すゴールは、レガシー企業文化から脱却してデジタル企業になることですが、ここで勘違いが多いのはデジタル企業が単純にツールやシステムを導入するという意味では無いという点です。
分かりづらいのですが、デジタル企業とは「デジタル技術でデータを収集・解析して、そのデータを活用した新しい製品/サービスによって企業価値の最大化に取り組む企業」を意味しています。デジタル技術もAIと同様に、ただ導入しても活用できるデータや体制が無ければ見える効果など出ません。
そんな企業は、AI企業とも、デジタル企業とも呼ばないと思います。では、どうすれば、最短最速で“DX”プロジェクトを成功させることができるのでしょうか。

外向き製造業DXを最短最速で成功できるプロジェクトを考える

前述した製造業向けDXの①から⑤より、外向けの③製品のサポートを良くする(リモートサポート、アプリで機能追加、保守代行サービスなど)をテーマとして取り上げたいと思います。その理由は、2つあります。
理由その1は、最短最速で結果を出すため調整や準備に時間と手間が掛かる「生産」に係るのは難しいこと。
理由その2は、既存のお客様を対象としているので社内の調整がしやすく効果を明確に出来ることです。さらに、製品利用ユーザーとの保守サービスを見直して売上/利益を狙えるかもしれません。
今の時代だと新規顧客獲得は難しいため、ハードルが低い既存顧客を対象とした即効性のある取り組みが有効だと考えます。

製品サポートを良くするDXで、まず取り組むのは製品の稼動状況を「見える化」することです。
製造業はものづくりを生業とするメーカーですが、完成品を作るメーカーと部品/素材を作るメーカーの2つに区別することが出来ます。
みなさんの企業が完成品を作っている場合、対象とする製品の品種ごとにロットナンバーやシリアルナンバーで管理されていることと思います。その故障や消耗品をモニターするスマートフォン(またはタブレット)のアプリケーションを作ります。稼働状況や故障、消耗品の交換履歴などを製品ごとに管理できるアプリを作ります。
このアプリを公開して、製品利用ユーザーに利用者登録を推奨します。既に保守契約がある場合には、保守契約を改定してアプリの利用とアプリで取得したデータ使用許諾などを追記します。もし可能ならば、同業他社の製品も対象に加えて製品ごとのデータはそのメーカーへ提供しても良いと思います。重要なのは、お客様にとって利用価値の高いアプリとサービスを提供出来るかです。
こうして、製品サービスを提供するための最も重要なデータを入手することが出来ます。ここがスタート地点となります。

次に取得した製品稼動状況など詳細データから、故障や消耗品交換の相関性や傾向をビッグデータ解析します。
製品の稼働環境(温度、湿度、光:明暗、電流/電圧など)可能な限り環境データなどとの比較検証を行います。データが揃えば、故障予知や故障箇所特定が簡単になります。アプリの操作性や利便性、そしてデータ解析で得た結果をアプリのアップデートで繰り返します。
これによって、アプリ利用率が高まるほどお客様の反応や評価が詳細に分かるようになります。また、定期契約(年額/月額契約)すれば故障対応サービスや消耗品を値引くようなサービス提供も可能です。
掛かる費用は分かっているので、定期契約する方が必ず得するようにすれば安定した売上/利益が望めます。製造業DXの製品サービス導入ポイントは、製品(モノ)とアプリサービス(スマホ/タブレットの製品サービス)を組み合わせることです。対象とする製品を限定すれば、小さく始めることが出来ますから小さく始めて大きく育てることが出来ます。
将来、詳細データが十分に集まったところで製品のリニューアルや新製品開発に利用すれば、さらにその先へ進むことが出来ます。

部品/素材メーカーの場合は、データ取得のハードルが高くなります。言うまでもなく、部品や素材のデータをどうやって収集するかがポイントとなります。
過去の経験やプロジェクトから、打てる手は2つです。1つは、完成品メーカーの協力を得て故障時データを共有したり消耗品データを入手したりすること。
もう1つは、完成品の中にセンサーなどを入れてデータを取得することですが、これは容易ではありません。
しかし、データ取得に協力的ではない完成品メーカーは次第に競争力が低下していくと考えられます。結果的に、データに基づいた最適な顧客サービスを提供するメーカーがお客様に評価されることになるでしょう。完成品メーカーも部品/素材メーカーも、こうした情報はERPシステムやCRMシステム、コールセンターなどにデータの基本となるマスタやデータがあります。
これを起点として、製品(モノ)とアプリサービス(製品サービス)を補完する関連情報を揃えていくことになります。

まとめ

今回は分かりやすくするために、製造業のお客様向けサービスのケースを例にあげて説明してみました。
実際には多くの工場で設備の稼働データを収集していて、このデータを解析した予知保全などの取り組みが進んでいます。
予知保全の取り組みは、既に安定した効果を上げていてその活用技術の知見があります。しかし、工場内のノウハウやデータは機密情報として生産本部や工務部門が所有しています。
社内でも他部門と共有しないため、IT部門や事業部門はその内容を知らないことが多いようです。つまり、工場が持つこの技術はお客様向けサポートの製品サービスとして活用出来ます。
製品(モノ)から、製品サービス(コト)へビジネスモデルの中心を広げて新しい取り組みで売上/収益に貢献することがDXの傾向と対策だと思います。

お問い合わせ・資料請求

資料請求・お問い合わせはWEBで承っております。どうぞお気軽にご相談ください。

WEBからのお問い合わせ
お問い合わせ
資料ダウンロード・資料請求
資料請求