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ビジネスコラム

これから始めるDX。傾向と課題と対策

第三回 DX発展の鍵は「データ駆動型サービスによるゲームチェンジ」と「DXステージの展開」

はじめに

このコラムも3回目となり、今回3回目でひと区切りとなります。このコラムでは、小さくDXに取り組む(1回目)、社内展開してDXサービス定着とDX人材を育成する(2回目)と言うDXの話をしました。今回はその先の話ですが、個々のDXプロジェクトにつながるDXプラットフォームとビジネスモデルがテーマです。「データ駆動型サービスによるゲームチェンジ」と「DXステージの展開」が、今回のテーマとなります。言葉だけ見ると分かりづらいのですが、内容は至ってシンプルです。この考え方は、製造業に限った話ではなく“どうすれば他社との差別化を維持して生き残ることができるのか”という課題に通じると思います。また、通常DXプロジェクトは短期的なものが多いのですが、このテーマは中長期的なものです。

製造業を支えるシステム群とデータ駆動型サービスの位置関係

製造業には、様々な業務システムが存在しています。財務会計や管理会計、販売管理、購買、生産計画/管理はGRANDITなどERPシステムの中に標準機能として実装されています。その他、設計や図面管理を行うPLMシステム(CADやPDMなど)、物流や倉庫などを管理するSCMやWMS(倉庫管理システム)、工場を管理するMES(製造実行システム)/MOM(製造オペレーション管理)最近ではネットで受注を直接受けるECなど目的や用途ごとに多数のシステムが導入されています。どのシステムもそれぞれ便利ですが、結果的にシステムが増え続けて乱立してしまいます。導入・維持コストも肥大化していくため、大企業でもシステム保有コストは増大するばかりなのですが、現状はここにDXプロジェクトが更なる負担を掛けています。中小企業では、いまだにExcelと紙でこうした業務を管理していますが、人手不足と働き方改革によってそろそろ限界点を越えたように思います。Excelと紙をERPやMESなどシステム化することをDXプロジェクトの目的にしてしまった企業もあるようですが、システム導入をDXの目的にしてしまうのはあまり良い戦略とは思えません。もうひと捻り必要です。今回はここがポイントとなります。属人的なExcelや紙のアナログをデジタル化して、データの収集・蓄積と利活用を促す。ERPやMES、PLM、ECなどやその関連システムの乱立と保有コストのムダを減らすことが狙いです。

(図表1、製造業を支える各種システム:水平連携/垂直統合を支えるシステム群)

製造業を支えるシステムは、階層(レベル)で整理することが出来ます。経営管理やロジスティクスは、レベル4でERPシステムやSCMシステムがこの階層になります。工場系のMESシステムやMOMシステムはその下レベル3の階層に位置しています。レベル4とレベル3のタテ連携は、ISA-95(ISO22400)という標準化されたKPIで繋ぐことが可能です。つまり、経営管理IT系のERPのデータベースと工場管理OT系のMEのデータベースからデータを収集して正規化すれば、製造業全体を網羅した統合データベースを構築することが出来ます。こうした考え方が、ここ最近先進企業が取り組んでいるIT x OT データレイクという仕組みです。(先行企業例は、日機装、三井金属鉱業、I-PEX、デンソー、AGC、協和キリンなど)

経営システム(IT系)はERPシステムの導入でマスタの整理とデータベース統合を行います。ここに物流関連のデータや、設備保全関連のデータを追加すればITデータレイクは完成します。次に工場システム(OT系)ですが、可能ならば工場間の業務標準化とデータ項目を揃えて共通MESシステムを導入します。費用やリソースの都合でこれが難しい場合には、Excelフォームと紙帳票フォーマットを工場間で共通化します。更に、このデータをRPAやAI-OCRなどを利用して各工場でデータベース化します。最後に、各工場のデータからサマリーデータを工場間データとして収集・蓄積すればOTデータレイクが作れます。OTデータレイク構築のポイントは、2つ以上の工場と2つ以上の生産ラインからプロジェクトをスタートすることです。1つの工場と1つの生産ラインからはじめると、他工場・他生産ラインとのギャップが見えないため仕様がガチガチになって他工場や他生産ラインでは全く使い物にならなくなります。大事なのは、曖昧なところをあえて作ることです。曖昧さが無いと、その更新も煩雑で続かなくなります。

(図表2、製造業を支えるシステムは階層で整理する(レベル4がERP、レベル3がMES))

ERP導入からITデータレイクの構築と、MES導入または現場のExcel/紙からOTデータレイクを構築すれば、そのデータを利用することが出来ます。ERPのマスタと工場系業務マスタの関係性と粒度(単位/頻度/品質など)を整理しておけば、データ駆動型サービスをつくるための基盤となります。次から次へと増えるシステムごとにデータベースを作るのではなく、この統合されたIT x OTデータレイクにあるデータベースを使ってサービスを作れば良いのです。データ駆動型サービスの基盤構築を“DXプロジェクト”の土台とします。現時点で社内にあるデータはほぼ揃っていますから、ここに足りないデータだけを揃えてサービス化(アプリケーション開発)すれば、短期間かつ最小限のリソースでサービス提供が可能となります。つまり、データレイクを構築している大企業の狙いはそこにあります。また、社内にあるほぼ全てのデータが一元管理されているので、個々のシステムからデータを入手するよりもこのデータレイクからデータを利用した方が必要なデータを素早く入手できます。

(図表3、製造業の経営システム(IT系)と工場システム(OT系)の連携イメージ)

「データ駆動型サービスによるゲームチェンジ」と「DXステージの展開」

製造業の強さは、「他社が入手できないデータ(経験/ノウハウ)とそのデータを使いこなせる人材(熟練/育成)」にあると言えます。災害や疫病など想定外のトラブルや、新しい製品/新しいニーズに対応した製品・サービスを創出は、こうしたデータ駆動型サービスを意味出せる人材が担います。つまり、属人化(暗黙知)やアナログ(Excelや紙)では、製造業の強さを最大限生かすことが出来ません。まずは、社内外にあるデータを整える必要があります。ERPシステムで標準化/正規化されたシステム、MESシステムや現場業務を工場間/ライン間で標準化/正規化したデータを必要最小限に絞り込んだデータレイク構築がゲームチェンジのポイントです。

DXプロジェクトのゴールは、企業が勝ち残ることにあります。勝ち残るためには、独自のデータを利用した優れた製品/サービスを提供することです。前述した通り、“データ”と“人材”が他社との差別化に直結しています。システムや設備などは、お金やリソースがあれば誰でも導入出来てしまいます。例えば、新しい通信規格の“5G(第5世代移動通信システム)”ですが、欧米や中国が先行しているのはご存知の通りです。しかし、先行してはいますが、5Gのキラーアプリはまだありません。単純にテクノロジーだけが進化しても、その活用方法が上手く見出せなければ大した効果は得られません。4G(LTE)の携帯電話と最新版5Gの携帯電話に大きな違いを感じられないのは、5Gの技術でなければならないサービス(アプリ)がまだ無いからです。製造業 x 5Gによるゲームチェンジについて、考えてみたいと思います。取り組む方向性を絞るために、市場ターゲットを4つに区分してみます。既存の製品やサービスに発展させた課題解決と新しい事業モデル創造の2つに分けます、さらに既存の儲けの仕組み(深化)したものと新しい儲けの仕組み(創造)の2つに分けて4つの象限で整理します。この4つのタイプを次のように名付けてみました、「プロセス改革型」「境界線横断型」「市場創造型」「ビジネス創造型」この4つのタイプで新しいビジネスモデルを生み出すチャンスがあります。こうした発想がゲームチェンジの起点となります。

(図表4、ゲームチェンジ:製造業 x 5Gのビジネスチャンス(参考))

参考情報:競争のルールを覆す「ゲーム・チェンジャー」の4類型を参考にフロンティアワンが作成
https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXMZO3114938030052018000000

このように、ゲームチェンジを狙うには新しいテクノロジーを利用した市場創出が有効なやり方です。例えば、製造業にとって今後大きな影響があるテーマの1つにカーボンニュートラルがあります。これは、地球温暖化を加速する環境効果ガス(GHG:8割以上がCO2)の排出を減らす取り組みです。CO2排出量を減らすために、石油や石炭など化石燃料由来の電力を太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーへ転換する取り組みです。これは、製品ごとにその原材料から輸送、生産活動などサプライチェーン全体のCO2排出量を集計して製品ごとに計算する必要があります。つまり、サプライチェーン全体のCO2排出量を収集するとともに、CO2排出量を減らす省エネの検討が求められます。この取り組みは、企業は自社内(グループ)だけでは実現することが出来ません。業界コンソーシアム(エコシステム)を作って相互連携するとともに、CO2排出量を減らす新しい技術開発をするために投資や技術の提供を異業種に求める必要があります。言うまでも無く、こうしたカーボンニュートラルに対するデータをExcelや紙で対処するのは手間と費用とスピードから困難だと言えます。

(図表5、カーボンニュートラル:企業のサプライチェーンCO2排出量管理全体イメージ)

出所:ウェイストボックス社 ホームページより
https://wastebox.net/service/scope/

DXプロジェクトを成功に導くためには、目指すゴールを上手く選ぶ必要があります。目先の困りごとや、課題解決だけでは済まないその先に繋がるテーマを選ぶことが重要です。DXに失敗するケースで良く見られるのは、従来のシステム導入をDXと偽ることやPoCで成功してもその先を考えていないなどの理由で行き詰まることです。DXプロジェクトを成功に導くためには、企業DX(自社内)→業界DX(企業間)→社会基盤DX(業種間)に広がりを持たせるイメージを持つことです。このDXステージの考え方は、自動車業界ではトヨタ自動車が建設機械業界ではコマツが既に取り組み始めています。このように、DXプロジェクトの領域拡大と時間的な発展を考えておくと良いでしょう。はじめはイメージが沸かないかもしれませんが、このDXプロジェクトの次のステージを考えるのがコツです。

(図表6、DXステージ:企業DX(自社内)→業界DX(企業間)→社会基盤DX(業種間) )

出所:『デジタルファースト・ソサエティ』
日刊工業新聞社、2019年12月11日刊
http://pub.nikkan.co.jp/books/detail/00003470

(図表7、DXステージ(参考例):建設機械と自動車のケース)

まとめ

2018年9月に経済産業省がDXレポートという資料を公開しました。2020年12月には、その中間報告としてDXレポート2が公開されています。その中で示唆されているのは、日本企業の競争力強化と市場変化に対する危機感です。このレポ―とには、老朽化した基幹システム(レガシーERP)の弊害が明確に指摘されています。さらに、データ駆動型サービスとそのサービスを実現するためのDX人材育成が重要だとしています。DXへの取り組みは、単なるシステムの導入や他社事例の真似ではないことは既に良くご存知の通りです。他社と自社が違うのは、経験やノウハウなど情報(データ)とその情報を使いこなせる人材にあります。ベンダやコンサルは助っ人にはなっても、ゴールまで連れて行ってくれるはずもなく、どれだけお金を積んでも成功を保証してくれません。DXに丸投げはありません。身近なところから小さくはじめて、ずっと先のゴールを決めて急がず地道に取り組むことが良いと思います。社内の意識が変わって、システム志向の人材が増えれば大成功です。

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