セミナーレポート

基幹業務システム刷新 成功の鍵
~ ビジネスプロセス分析の必要と導入PMの苦悩 ~

基幹業務システム導入などの大型プロジェクトの成否は、上流工程・業務分析の質の高さが左右すると言っても過言ではありません。
本セミナーでは、数多くの企業のビジネスプロセス変革に取り組んできたコンサルタントと、実際にプロジェクトを推進しているプロジェクトマネージャ(PM)が、それぞれの視点から基幹業務システム刷新における成功の秘訣を解説しました。

会場スナップ
会場スナップ

1.基調講演「システム導入時の上流工程・業務分析の必要性」

講師:
株式会社エル・ティー・エス 執行役員
山本 政樹 氏

プロフィール:
立命館大学政策科学学部卒業後、アクセンチュアにてビジネスプロセスコンサルティングに従事。フリーコンサルタントを経てLTSに入社。システム開発案件におけるプロセス設計や現場展開、ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)の導入など、ビジネスプロセス変革案件を中心に手掛け、現在はビジネスプロセスマネジメント及びビジネスアナリシスの手法や人材育成に関する啓蒙を中心に活動している。
日本BPM協会「ビジネスプロセス変革入門セミナー」講師、Business Breakthrough Ch「ビジネスプロセスマネジメント」講師。著書に『サービスサイエンスによる顧客共創型ITビジネス』(共著)、『ビジネスプロセスの教科書』、『Process Visionary』(共著)。

山本氏は、昨今話題に上ることの多い「デジタルトランスフォーメーション(DX)」について触れ、デジタルは目的ではなくあくまで手段、トランスフォーム(変革)すべきなのはビジネスそのものであると述べました。更に、変革そのものも手段であり、最終的に目指すべきはビジネスの価値を上げることだと訴えました。

株式会社エル・ティー・エス 執行役員 山本 政樹 氏

過去の様々なデジタルソリューションにおいて、常にソリューションの導入そのものが目的化する「ビジネス上の目的不在」は問題となってきました。ソフトウェア開発のプロジェクトにおいても、常に失敗要因の上位は要件定義であり、デジタルの問題ではなく、ビジネス側の要求が問題である傾向は20年以上変わっていません。

「要求仕様が明確になれば、仕様変更や工期遅延の発生が少なくなり、品質も高くなるため、満足度も上がります。大切なのは、ビジネスのニーズです。ニーズがあってはじめてソリューションの出番となるのです」(山本氏)

多くのシステム開発のケースで、ビジネスのニーズをIT部門やベンダーに伝える役割を担っているのはユーザー部門の代表、つまり現場の代表になります。

「確かに、かつて『カイゼン』という言葉が世界に知れ渡った当時は、現場のことは現場が一番知っていて、現場に任せれば業務内容をきちんと説明できていました。しかし、その現場力は、今はもう生きていません。1990年代初頭には1位だった日本の競争力は、現在大幅に落ちているのです」(山本氏)

更に、日本企業のデジタル化は欧米企業に比べて、「周回遅れ」とも言われており、その要因となる人材不足に関して、特に「ビジネスをデザインできる人材」が足りないと言います。

日本の現場力が低下したのは、この30年間で業務の現場が大きく変化したことと無縁ではありません。では、一体どのような変化があったのでしょうか。山本氏は大きな変化を5つ挙げ、それぞれについて詳しく解説しました。

1.プロセスの実行主体に人と機械が混在する世界となった

ビジネスプロセスに人と機械(工場設備やロボットはもちろん、デジタル技術全般)が混在することにより、業務の「ブラックボックス化」が起き、システムの中に埋め込まれたロジックを読み解かなければ、業務の本当の姿が理解できなくなった。

2.プロセスが企業の垣根を超えて広がった

この30年間で、パートナーシップやアウトソーシングといった企業間連携の動きが広がったため、他社に任せて自社で実行していない業務を経験則で理解することが出来なくなった。

3.顧客接点がマルチチャネル化した

顧客接点にオンライン(ネット)とオフライン(店舗)が混在するマルチチャネルとなり、デジタル接点では、お客様からのフィードバックを人が直接的に得ることが難しくなった。

4.プロセスマネジメントに必要な専門性が広くなった

内部統制や情報セキュリティ、環境管理といった企業統治のための様々なルールが複雑化し、現場担当者には必要なルール全てを理解することが難しくなった。

5.ビジネスプロセス変革が「End To End」となった

現在のプロセス変革は、調達、生産、物流、販売を貫くサプライチェーンや、技術開発やマーケティング、生産が連携して製品を開発するエンジニアリングチェーンなど、部門を貫いたプロセス全体を変革することを求められるようになった。

山本氏は、これら5つの変化を踏まえて、業務は経験を通して「習得」するものから、専門性を活用して「分析」するものへと変化してきている、とまとめました。

ではどのようにして、専門性を活用した分析を行えば良いのでしょうか。

「業務分析の中心には、見えない要素を可視化するための様々なビジネスモデリングの技法があり、その最も分かりやすいものが業務フローです。業務フローのような業務工程を描くスキルのことを『プロセスモデリング』と呼びますが、この他にも判断や意思決定の構造やルールを表現する『ディシジョンモデリング』、情報の構造やIO(インプット/アウトプット)を表現する『データモデリング』といったものもあります」(山本氏)

そして、最終的に「業務を説明できる」とは、下図のようなことを理路整然と説明できることを意味する、と示しました。

【業務理解の最終形】

業務理解の最終形

「このような、自分の業務を分析し、他人が理解できるように説明するための能力をどうやって育てるべきか、ということが基幹システム開発の体制を組む際に考えるべきことです」(山本氏)

そこで山本氏は、「ビジネスアナリスト」の解説に移りました。
ビジネスアナリストとは、戦略をビジネスプロセス(業務)とソリューションへの要求事項に落とし込み、現場に伝えて定着させるという役割を担う職業です。システム開発を成功に導くためには、ビジネスアナリストの役割を担う人をどのように配置するかがポイントになります。

ビジネスアナリストには様々な種類があり、活躍する部門やプロジェクト特性も多様です。
しかし、概ね以下のような共通点があります。

■ビジネスアナリストが果たす役割

  1. 客観的な立場で業務・サービスの問題分析を行う
  2. 多くの関係者からあがる要求をまとめ、新たなビジネスプロセスを設計する
  3. ソリューションを導入するエンジニアに要求を伝え、かつ要求通りのソリューションとなっているか検証する
  4. 取組みに関係する部署・組織のコミュニケーションハブとなり、関係者の協力体制を構築する

ビジネスアナリストは、欧米を中心に広く世界で認知されており、国際的に普及している職業です。世界のビジネスアナリストの総数は、推定で100万人~200万人とも言われています。

ビジネスアナリストは、IT部門に所属するケースが多いものの、業種や企業によってはビジネス部門に所属することもあるとのこと。ビジネス(現場部門)とIT(エンジニア)を繋ぐ役割を担っているのがビジネスアナリストであり、求められるスキルでは、コミュニケーションなどのソフトスキルが特に大切になります。

更に、「ソフトスキルを育てるためには、そばで育成対象者の振る舞いを観察し、改善点のフィードバックを行うコーチの存在が必要不可欠」だと山本氏は解説しました。コーチが社内にいない場合は、外部から専門家を派遣してもらうことになります。

一人前のビジネスアナリストに育つには、5~6年かかり、重要なのは自分がやっていない仕事を理解し、やっている人以上に詳しく説明するスキルです。基幹システム開発プロジェクトは、このようなビジネスアナリストを育てる絶好の機会なのです。

「様々な部門から選出され、基幹システム開発プロジェクトに携わった人材は、その経験を活かすためにもプロジェクト終了後もビジネスアナリストとして継続的に活躍してもらうと良いと思います。プロジェクトの苦労を引き継いで欲しいですね」(山本氏)

ビジネスアナリストの役割は重要ですが、決してビジネスアナリストだけにプロセス変革を任せればいいというものではありません。各ビジネス部門とビジネスアナリストが、役割分担の下で、協力し合うことで変革が実現します。

そのためにはビジネスモデリングに代表される一定の業務分析のスキルはビジネスアナリストだけでなく、社員皆が身に着けるべきです。特に各ビジネス部門をまとめる管理職の役割は、ビジネスプロセスを最適化させていく上で大変重要ですが、管理職にこのような訓練を行っている企業はまだ少数です。ビジネスアナリストは、この際に社員を育成する講師の役割も担うことができます。

「大切なのは、会社全体の変革への姿勢です。皆が変革を進めたいと思う中で、足りない専門性と稼働をビジネスアナリストが補うから、変革が進むのです。また、ビジネスアナリストを専任のポジションとして設置するかどうかよりも、ビジネスプロセスを変革していく能力や教育や訓練によって獲得する一つの専門性だと認めて、社員育成のための投資を行うことが重要です」と山本氏は変化への姿勢こそが最も大切な環境であることを訴えました。

2.「基幹システム導入PMの悩みを解消するツボとは?」

講師:
パナソニック インフォメーションシステムズ株式会社
エンタープライズソリューション事業部
基幹システムソリューション部
東日本基幹ソリューションチーム 
チームリーダー
岡橋 俊介 氏

プロフィール:
パナソニック インフォメーションシステムズ株式会社でパナソニック株式会社 ライフソリューションズ社(旧 松下電工株式会社)の製造拠点で情報システム担当として、生産管理システムの企画・設計・開発・運用保守に従事。その後、パナソニックグループ外の様々な業種・業態のお客様に基幹システム構築ならびに周辺の連携業務ソリューションの提案活動やプロジェクトマネージャーを務める。

パナソニック インフォメーションシステムズ株式会社 エンタープライズソリューション事業部 基幹システムソリューション部 チームリーダー 岡橋 俊介 氏

日経BP社のアンケート結果を示し、「何らかの問題が発生したシステム開発プロジェクトは、9割超」であることに触れました。

では、なぜそれほど高い確率で問題が発生するのか、その原因として、「関係者間の『利害対立』が負の連鎖を引き起こしている」と岡橋氏は主張しました。

「ここで言う関係者は、大きくユーザ側とベンダ側に分けられます。プロジェクトが進行していく各フェーズにおいて、ユーザ側とベンダ側で利害が対立する傾向にあります」(岡橋氏)

例えば、初期のプロジェクト計画のフェーズで、ユーザ側は、コスト優先でベンダを選出したり最新ITへ過度な期待を抱いたりといった問題を抱えているケースがあります。一方、ベンダ側は受注欲しさに無理な金額や納期で提案する、といった問題を抱えているケースがあります。

同様に、要件定義/新業務策定、基本・詳細設計/開発・テスト、運用テスト/システム移行、そして運用定着のフェーズまで、常に双方の利害が対立して、結果としてお互いが不幸になる、という事態に陥るのです。

次に、自身がPMとして携わった2つの導入案件を例に、この事象についてより具体的に見ていきました。

下表の通り同規模のA社とB社は、どちらも本稼働は予定通りでしたが、稼働後に明暗が分かれました。

明暗分かれる

そして岡橋氏は、5つのフェーズにおけるA社とB社の状況について、詳しく解説しました。

①プロジェクトの立ち上げフェーズ

A社は、大規模プロジェクトは初めて、かつプロジェクト専任者不在という状況でプロジェクトを立ち上げました。一方、B社は過去にERP導入経験があった上に、本プロジェクトでも専任者2名を選出しました。

また、B社はプロジェクトオーナーが、プロジェクトの目的と「ノンカスタマイズ」を基本方針としました。なお、ノンカスタマイズとはいえ、B社の強みを活かすため、パッケージコアロジックに影響を与えない最低限のアドオン開発は許容することとしました。

●プロジェクトの立ち上げフェーズのポイント

  • キックオフ会議でメンバーの参画意識を高める工夫
  • 要件定義前に概要確認セッションを行い、ユーザ側役員層に参画してもらい、現場との温度差を埋める=「プレ要件定義」

②要件定義/業務・適用設計フェーズ

このフェーズは、プロジェクトの最難関フェーズで、いかに曖昧さを残さずフィックスできるかが求められます。

しかし、A社はユーザ都合により要件定義開始が1ヵ月遅延。そのため、一部要件が未確定のままスタートし、予算も当初の1.3倍になってしまいました。

B社は、ノンカスタマイズを方針としたため、現行業務とパッケージ機能のギャップが生まれましたが、そこは業務改善で解決しました。

両者とも「逆レビュー会」を実施しましたが、A社のユーザ理解度は今一つ。一方B社はユーザとベンダ間で不明点などの確認を行い、認識を合わせることができました。

また、このフェーズでは、検討事項がプロジェクト横断で関連するため、議事履歴をエクセルで作成し、課題/ToDo管理は議事の読み合わせの際に分類するなどの工夫をしました。

●要件定義/業務・適用設計フェーズのポイント

  • 議事録はセッション最後に読み合わせ、課題/ToDo管理表への転記、翌日フィードバックの徹底より、曖昧さ・ヌケ・モレを防止
  • 要件について本当に必要なものか、プロジェクト目的・方針へ立ち返る
  • 「逆レビュー」により、ユーザ側の仕様認識レベル・腹落ち感をチェック

③設計・開発フェーズ

A社は、周辺システムとの連携開発で、スケジュールの認識合わせがうまくいかず、遅延が発生。連携テストを一部残したまま、次のフェーズに進まざるを得ませんでした。
B社は、特に問題なく順調に進み、周辺システムも進捗・課題一元管理により、問題なく完了しました。

また、変更管理や定量的品質管理を実施し、ユーザ側、ベンダ側双方に納得感のある開発を目指しました。

●設計・開発フェーズのポイント

  • WBSでプロジェクト全体の開発進捗・課題を管理・共有し、問題の予兆を察知
  • ユーザ側開発タスク粒度を合わせて、連携テストの足並みを揃える
  • 開発WBSは経験豊富なベンダ側で一元管理

④移行テストとユーザ検証フェーズ

A社は、移行テストを3回実施。しかし、新組織の確定が遅れて移行方針がなかなか固まらず、キーマンが多忙で運用検証の時間が不足する、といった問題がありました。
B社は、移行テストを2回実施し、2回目は本番並データで運用検証を実施しました。

なお、運用検証シナリオは、ベンダ側が提供したシナリオをユーザの業務観点で肉付けして検証を行いました。月、部門、周辺システム跨ぎなど、処理が複雑になるケースを想定した検証もしっかり行うことで、重要な課題が発見されることもあります。

●移行テストとユーザ検証フェーズのポイント

  • 移行テストに留まらず、リハーサルとして本番さながらに休日に実施
  • リハーサルはタイムスケジュールを策定し、時間内に移行できるか検証
  • 操作教育とは別に、ユーザによる運用試行は必須
  • 本番並みデータで、新業務フロー・マニュアル・機能に問題ないか最終チェック

⑤本稼働フェーズ

A社は、課題を残しつつも予定通り本稼働しましたが、稼働2ヵ月後に要件定義で曖昧だった機能に問題が発覚。急遽開発・検証チームを結成し、完了までに2ヵ月を要しました。
一方B社は、重要課題を残さず、予定通り本稼働をスタートし、その後もトラブルなく運用できました。

また、本稼働支援として問い合せ対応フローを作成しました。ここでのポイントは、窓口をユーザ側の支援チームに置くことです。これによって、ユーザ側に解決のためのノウハウが蓄積するため、安定稼働への近道になります。
他にも「問合せ報告書」を活用し、1件1様(単票)で状況の見える化を行い、混乱防止に努めました。

●本稼働フェーズのポイントは、以下の通りです。

  • 運用定着化への工夫
  • 本稼働がゴールではない。成果刈り取りに向けてプロジェクトの振り返り評価が必要

これらの事例を踏まえて、システム開発に伴う「問題」の発生を抑えるためには、関係者全員が当事者意識を持つことが重要になります。

「関係者全員が当事者意識を持った上で、PDCAサイクルをまわしてプロジェクトを成功へ導くための『導入テンプレート』の活用や、課題の早期発見・対策のための『プロジェクトマネジメント手法』の採用などを推奨しています。そして、最後の決め手はあくまでユーザ側にあるのです」と岡橋氏は訴えました。

最後に、ERPの短期・ノンカスタマイズ導入を実現した事例を紹介。キックオフから本稼働まで5ヵ月半という短納期導入を実現したポイントとして、

  • ノンカスタマイズ=業務改革の方針を一貫して徹底(トップダウン、全体最適)」
  • メンバー選定として業務経験とリーダーシップを重視(適用設計でヌケ・モレを最小化)の2つを挙げ、本セッションを締めくくりました。

2019年11月26日開催、パナソニック インフォメーションシステムズ株式会社主催セミナーの講演内容を要約して掲載しております。

パナソニック インフォメーションシステムズ
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