人事給与システムとは?効果的な選定ポイントと注意点を解説
人事給与システムは、勤怠管理や給与計算、タレントマネジメントなどを実現するシステムです。導入することで、人事業務の効率化やヒューマンエラーを防止します。
当記事では、人事給与システムの概要から機能、導入に際するメリットをご紹介します。
システム選定のポイントも解説しますので、人事給与システムの導入や刷新を考えている方は、ぜひ参考にしてください。
1:人事給与システムの概要
人事給与システムとは、従業員の人事情報および給与情報を一元管理するシステムです。さらに、具体的には、人事給与情報や勤怠情報の管理、給与関連の計算処理などの機能を備えています。
人事給与システムを導入することで、人事・給与関連情報を連携させられるようになります。人事業務の効率化だけでなく、人事・給与関連情報を経営戦略に活かすことも可能になるでしょう。
人事システムとの違い
人事システムは、従業員の雇用やライフサイクル全般に関わる管理を実現するシステムです。従業員の採用やパフォーマンス管理、能力を考慮したキャリア開発や研修、福利厚生管理などに関わる機能を備えています。
人事システムが従業員の管理に特化しているのに対し、人事給与システムは人事情報と給与情報を一元管理するという違いがあります。
2:人事給与システムの主な機能
人事給与システムの主な機能は、以下の8つです。
- 人事情報管理
- 給与計算
- 給与明細の発行
- 税金・社会保険処理
- 勤怠管理
- 組織管理
- レポート機能
- タレントマネジメント
各機能について、詳しく解説します。
人事情報管理
人事情報管理とは、従業員の個人情報や職歴、スキルなどを管理する機能です。
従業員番号や氏名、住所といった個人情報をはじめ、過去の業務履歴や、業務に活用できるスキルなどの情報を扱います。
従業員の個人データを適切に管理することで、必要なデータをすぐに閲覧できるほか、経営戦略の立案時に活用できるようになります。
給与計算
給与計算の機能は、人事情報や勤怠データをもとに、従業員ごとの基本給や残業手当、ボーナス、控除などの給与計算を効率化します。
計算ミスが許されない給与計算においては、システムによる計算のサポートや自動化が必須です。
給与計算機能を活用することで、正確な給与の計算が可能であるほか、年末調整のサポートも実現できます。
給与明細の発行
人事給与システムでは、従業員の基本情報や、給与計算をした結果をもとに給与明細を発行することも可能です。
従来は、システム内の情報をもとに、紙の給与明細を発行するシステムが一般的でした。しかし近年では、電子給与明細が主流となっており、従業員は給与明細システムにログインして、給与明細を確認するケースが多くなっています。
人事給与システムには、電子給与明細の機能まで組み込まれているケースが多く、給与計算に関わるシステムを複数導入する手間やコストを削減できます。
税金・社会保険処理
人事給与システムには、所得税や住民税などの税金・社会保険の計算処理と徴収を行う機能もあります。
また、健康保険や年金、雇用保険などの公的手続きのサポート機能も搭載されており、人事部門の手続き処理の簡略化に寄与します。
勤怠管理
出退勤時間や残業情報、有給情報、遅刻早退など、従業員の勤怠情報の管理をします。
出退勤時刻に基づいた労働時間の自動集計が可能であるため、ヒューマンエラーによる計算ミスの防止に役立ちます。
また、これらの勤怠データは給与計算に利用され、給与計算処理の効率化も実現します。
組織管理
人事給与システムの組織管理機能では、現在はもちろん、過去や未来の組織情報を管理できます。
さまざまな時間軸において、組織図や役職の確認・編集が可能です。
レポート機能
人事給与や勤怠情報、従業員のタレント情報をレポートで可視化することが可能です。
レポート機能を活用することで、一目で各データの情報を確認できる、経営陣への説明資料作成の工数を大幅に削減できるなどのメリットがあります。
タレントマネジメント
人事給与システムの中には、タレントマネジメント機能をもつものもあります。
タレントマネジメントは、従業員の持つスキルや人事評価を管理する機能です。人員配置や、不足するスキルの把握・育成計画への活用ができます。
タレントマネジメントの機能を活用することで、経営戦略の立案や意思決定の速度・精度向上に寄与します。
3:人事給与システム導入のメリット
人事給与システムを導入するメリットは、以下の通りです。
- 人事業務の効率化
- ヒューマンエラー防止
- データ連携による業務フローの改善
- 人材育成・評価への活用
人事業務の効率化
管理している勤怠情報や人事情報を活用することで、データの手入力や二重入力が不要となり、給与計算業務の効率化・自動化を実現できます。
また、従業員の情報管理やレポーティングの自動化など、さまざまな業務の効率化も可能です。
人事給与システムの導入によって作業時間が削減できることで、人事部門の従業員がクリエイティブな業務に専念できるようになります。
ヒューマンエラー防止
従業員が多くなればなるほど、日々の勤怠管理や給与計算は複雑・煩雑となります。大量の給与計算を手計算で行おうとすると、計算ミスが発生する可能性は高くなるでしょう。
人事給与システムを導入すれば、勤怠情報や人事情報などの各種データを活用した自動計算が可能になります。入力作業や転記作業が不要となるため、ヒューマンエラー防止に寄与します。
データ連携による業務フローの改善
ワークフロー機能や経理部門へのデータ連携により、業務フローの最適化が実現できます。これにより、異なる部門間でのデータ二重入力の防止や、月次締め処理時の作業スピード向上が可能です。
さらに、締め処理の効率化や業務上のムダをなくせるため、組織全体の効率化も期待できます。
人材育成・評価への活用
タレントマネジメント機能を使用することで、人材の育成計画や人事評価の管理・活用が可能です。
管理しているスキル・タレント情報から、従業員に不足するスキルを洗い出し、育成計画へ組み込めます。
さらに、評価を適切に管理して給与へ反映することで、従業員のエンゲージメント・モチベーション向上に寄与します。
4:人事給与システムの利用形態
人事給与システムの利用形態には、主に「クラウド型」と「オンプレミス型」があります。
クラウド型とは、自社にサーバーを持たず、インターネット経由でサービスを利用する方式です。
一方のオンプレミス型は、自社にサーバーを設置し、そのサーバーへシステムをインストールして利用する方式です。
クラウド型とオンプレミス型について、それぞれの違いを簡単に表にまとめました。
クラウド型 | オンプレミス型 | |
---|---|---|
導入スピード | 早い |
遅い ※サーバーの導入も必要であるため |
カスタマイズ性 | 低い | 高い |
拡張性 | 低い | 高い |
可用性 | 高い | サーバーの予備機を用意すれば、高い |
セキュリティ | 基本的に高い | 高い |
ここからは、クラウド型とオンプレミス型の人事給与システムについて、それぞれの特徴やメリットを解説します。
クラウド型人事給与システムの特徴とメリット
クラウド型は、インターネット経由でシステムやサービスを利用する方式です。
サーバーをはじめとするインフラを用意する必要が無く、コストが低い点や資産管理が不要である点がメリットです。
一方で、多くのクラウド型システムはカスタマイズ性が低く、複雑なカスタマイズには向いていません。
そのため、クラウド型の人事給与システムは、コストを抑えたい企業やサーバーを自社に置きたくない企業に適しているといえます。
オンプレミス型人事給与システムの特徴とメリット
オンプレミス型は、自社に設置したサーバーに、システムをインストールします。
サーバー管理の知識が必要ですが、設定次第では非常に高いセキュリティを実現できます。また、社内の他のオンプレミス型システムとの連携設定など、柔軟なカスタマイズが可能である点も魅力の一つです。
ただし、サーバーの購入費や保守費が必要であることから、クラウドに比べて大きなコストがかかる点には注意が必要です。
オンプレミス型の人事給与システムは、システムを柔軟にカスタマイズしたい企業や、高いセキュリティを求める企業に向いているといえます。
5: 人事給与システムの選定ポイントと注意点
人事給与システムは、自社にマッチするかを慎重に見極めなければなりません。
当セクションでは、人事給与システムの選定ポイントと、選定時の注意点を徹底的に解説します。
自社の目的・課題を解決できるか
システムを導入しても、自社の目的・課題を解決できなければ意味がありません。
勤怠管理があいまいである、給与計算に時間がかかりすぎているなど、企業によって抱える課題は異なります。つまり、自社の課題解決に直接寄与するシステムを選定するためには、人事労務の分野に関して、自社がどのような課題を抱えているかを洗い出すことが必要不可欠です。
ただし、求める機能をすべて搭載しようとすると、コストが膨らむ恐れもあります。予算を考慮しながら、解決すべき課題に優先順位をつけることも大切です。
システムの操作性
人事給与システムは、人事部門や経営陣が日常的に利用するシステムです。
頻繁に使用するシステムが使いづらければ、業務効率の悪化の原因となり、生産性低下を招く恐れがあります。現場の社員から「前のシステムの方が良かった」という不満が出るケースもあるでしょう。
システム導入前にはトライアルを実施し、操作感を確認することや、認識の齟齬をなくすことが重要です。
システムのタイプ(クラウド型 or オンプレミス型)
オンプレミス型・クラウド型共に異なるメリットがあるため、自社が何を重視するかを明確にしたうえで選定を進めましょう。
コストを抑えたい場合や、拡張性を重視したい場合には、クラウド型が適しています。柔軟にカスタマイズしたい場合や、高いセキュリティを求める場合は、オンプレミス型を検討してみましょう。
自社の他システムとの連携可否
優秀な機能を搭載した人事給与システムを導入しても、自社の他システムと連携できなければ、システムごとに入力の手間が発生します。一方、データの入力・出力共に連携が充実している人事給与システムであれば、組織全体で業務効率化や正確性向上が実現可能です。
データ連携の心配は、ERPの導入で解消できます。企業の情報を一元管理するERPを導入することで、情報をリアルタイムで活用できるようになります。
ERPの詳細については、以下の記事を合わせてご確認ください。 ERPとは?基幹システムとの違いやERPパッケージを解説【GRANDIT】
サポート体制の充実度
システムは導入して終わりではなく、運用し続ける必要があります。
システムの運用中に不具合や不明点が発生しても、すぐにサポートしてもらえる体制があれば安全に対応できます。
システムの導入前には、サポートしてもらえる時間や曜日、サポート方法(チャット or 電話 or メール)を確認しておきましょう。
スケーラビリティ
導入時点では自社に最適なシステムであっても、企業が成長するにつれてリソース不足に陥る可能性は否定できません。
柔軟な拡張性を持つシステムを導入すれば、企業の成長に合わせて機能を拡張できるため、長期にわたり同じシステムを利用できます。
一般的に、オンプレミス型よりクラウド型の方がスケーラビリティは高いとされています。拡張性を重視するのであれば、クラウド型のシステムを選択しましょう。
法規制への対応
人事分野における法改正は頻繁に行われており、情報を迅速にキャッチして業務へ組み込むことが必要不可欠です。
人事給与システムにおいても、既存の法規制はもちろん、法改正時に改正された内容が迅速にシステムへ反映されるかが重要となります。
クラウド型は自動でアップデートされるケースが多いため、常に最新の法規制に対応することができます。
イニシャルコスト・ランニングコスト
システムの選定時には、導入時のイニシャルコストだけでなく、運用保守時のランニングコストも考慮する必要があります。
オンプレミス型の場合は、システムのランニングコストだけでなく、自社で管理が必要となるサーバーの導入・保守費も確認しておきましょう。
導入スピード
スピーディーな組織改革・DXを進めるうえでは、システムの導入スピードも重要です。
一般的に、クラウド型は契約後すぐにサービスを利用できるため、導入スピードが速い傾向があります。
なお、自社要件を満たせるか、データ連携はできるのかなど、他のポイントをおろそかにしないことも大切です。
6:人事給与システムの今後の展望
最後に、人事給与システムの今後の展望を解説します。
AIとの連携による更なる業務効率化
昨今におけるAIの進化は目覚ましく、今後はさまざまなシステムに組み込まれていくことが予測されます。
人事給与システムにおいては、AIとの連携により以下のような業務効率化や自動化が期待できるでしょう。
- AI連携による給与計算の自動化やエラー削減
- タレント情報をもとにした、AIによる組織再編・従業員育成計画の提案
- AIを搭載したチャットボットにより、日常業務・問い合わせ業務のサポート
- 労働市場のトレンドを分析し、人材の供給と需要を予測
- 従業員からのアンケートをAIで分析し、エンゲージメントや満足度に関する洞察を得る
これまでは人が考えていた戦略を、人事給与システム内の情報をもとに、AIが提案するようになることが予測されます。
AIの提案内容を人事部門が精査して実践することで、さらなる業務効率化も実現可能です。
クラウド化の進行とその影響
近年、オンプレミス型のシステムは減少傾向にあり、クラウド型のシステムが主流となりつつあります。
クラウド型の人事給与システムを導入すると、システムの自動アップデートにより、法改正対応が自動で実施される点は大きなメリットといえます。また、拡張性が高く、企業の成長に合わせ柔軟にリソースを増加できる点も魅力の一つです。
一方で、インターネット環境が必須である点や、セキュリティレベルがベンダーに依存する点には注意しましょう。
7:まとめ
人事給与システムとは、従業員の人事情報と給与情報を一元管理することで、給与計算や勤怠管理の効率化・自動化ができるシステムです。導入すれば、人事業務全般の効率化や、給与計算時のヒューマンエラー防止が期待できるでしょう。
システムを選定する際は、自社の課題が解決できるかどうかや操作性はもちろん、システムの利用形態も検討しなければなりません。自社の他システムとのスムーズな連携を実現できるかどうかも重要なポイントです。
システム間の連携が大きな課題となる場合は、さまざまな情報を一元管理するERPの導入をおすすめします。
当記事を参考にして人事給与システムを選定し、人事業務の効率化や給与計算業務の自動化を実現しましょう。
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