【はじめての貿易入門】輸入業務の基本ステップと必要書類 ~海外から商品を「買う」「受け取る」ために必要な知識とは~
前回は「輸出業務の流れと必要書類」について解説しました。今回は反対の立場である「輸入業務」に焦点を当てます。
製造業が海外から原材料を調達する、商社が完成品を仕入れるなど、企業活動のあらゆる場面で輸入は不可欠ですが、国内取引と異なり、輸入には通関、関税、検査、決済など、専門知識と段取りが求められます。
本コラムでは、輸入実務の基本フローから必要書類までを、わかりやすく解説します。
1.輸入業務の全体像とは?
輸入業務は、以下のようなステップで進めます。
輸出と比べて、輸入者側は「税関への申告と納税」「国内流通への対応」など、より多くの手続きを担うのが特徴です。
(輸入業務の主要ステップ)
- 商談・契約(売買条件の確認)
- 輸送手配(フォワーダーとの連携)
- 船積みと書類の受領
- 輸入通関(税関手続き)
- 関税・消費税の納付
- 貨物の受け取り(引き取り・倉庫搬入)
- 支払処理(T/TやL/Cなど)
2.商談と契約
輸入取引は「購入側」が主導権を持つケースが多く、主体的に契約時に契約内容を明確化することが重要です。
(代表的な契約時の取り決め事項)
- 商品内容、仕様、数量、価格
- インコタームズ(例:CIF Tokyo、DDPなど)
- 納期・出荷日
- 船積港・到着港(ポート名指定)
- 必要書類(B/L、Invoice、COなど)
- 支払条件(信用状、T/Tなど)
【解説】インコタームズ
国際商業取引において、売主と買主の間で商品の引渡し条件や費用負担、リスクの移転を明確にするための国際規則です。これにより、貿易取引における誤解やトラブルを防ぐことができます。インコタームズは国際商業会議所(ICC)によって制定され、定期的に改訂されています。現在は2020年版が一般的に使用されています。
たとえば、インコタームズで「CIF Tokyo」で契約した場合、輸送費と保険料は輸出者負担。輸入者は東京港で貨物を受け取り、そこから先は自社で手配します。
(インコタームズ2020の全11条件)
すべての輸送手段に適した規則
略字 | 名称 | 意味 |
---|---|---|
EXW | Ex Works | 工場渡 |
FCA | Free Carrier | 運送人渡 |
CPT | Carriage Paid To | 輸送費込 |
CIP | Carriage And Insurance Paid To | 輸送費保険料込 |
DAP | Delivered At Place | 仕向地持込渡 |
DPU | Delivered at Place Unloaded | 荷卸込持込渡 |
DDP | Delivered Duty Paid | 関税込持込渡 |
船舶輸送にのみ適した規則
略字 | 名称 | 意味 |
---|---|---|
FAS | Free Alongside Ship | 船側渡 |
FOB | Free On Board | 本船渡 |
CFR | Cost and Freight | 運賃込 |
CIF | Cost, Insurance and Freight | 運賃保険料込 |
3.輸送と船積み書類の受け取り
輸出者が商品を出荷すると、B/L(船荷証券)やインボイスなどの書類が輸入者に送付されます。これらの書類が貨物受け取りや通関手続きの鍵となります。
書類は、銀行経由または国際宅配便で入手します。書類に不備があると、通関や引き取りが遅れる原因になります。
(主な受け取り書類)
書類名 | 内容 |
---|---|
インボイス(Invoice) | 商品明細、価格、契約条件を記載した請求書 |
パッキングリスト(P/L) | 梱包単位・数量・重量を示した明細書 |
船荷証券(B/L)または航空運送状(AWB) | 輸送契約の証明であり貨物引換証にもなる |
原産地証明書(CO) | 関税優遇措置(EPA/FTA)を受ける場合に必要 |
保険証券(Insurance Certificate) | 輸送中の損害補償のための書類 |
4.輸入通関と税関手続き
輸入貨物は、原則として「通関」を経て、国内に正式に持ち込むことができます。
尚、申告や検査は、通関士が在籍する通関業者(カスタムブローカー)に委託することが一般的です。
(輸入通関の主な流れ)
- NACCS(通関情報処理システム)を使って輸入申告
- 税関による審査(書類・貨物の内容確認)
- 必要に応じて貨物検査(X線検査や抜き取り)
- 関税・消費税の確定と納付
- 輸入許可証(I/L:Import License)を取得
- 貨物の引き取り
5.関税・消費税のしくみ
輸入にかかる税金は主に2つです。
関税は「関税率表(HSコード)」に基づいて計算されます。適用分類を誤ると、税額に大きな差が出るため、輸入実務では正確な品目分類が求められます。
税種 | 内容 |
---|---|
関税(Customs Duty) | 輸入品目に応じた税率が設定されている(例:衣類 10%、食品 5%など) |
消費税(Import VAT) | 現在10%、関税含むCIF価格に対して課税される |
【解説】関税とEPA(経済連携協定)
EPAは、幅広い経済関係の強化を目指して、貿易や投資の自由化・円滑化を進める協定です。貿易の自由化に加え、投資、人の移動、知的財産の保護や競争政策におけるルール作り、様々な分野での協力の要素等を含む、幅広い経済関係の強化を目的としています。EPA対象品目であれば、関税を大幅に軽減できる可能性がありますが、その際は「原産地証明書」の提示が必要です。
6.貨物の受け取りと国内配送
通関が完了し、関税・消費税を納付すると、ようやく貨物の引き取りが可能になります。
重量貨物や温度管理が必要な貨物などは、専門業者による特殊輸送が必要になる場合もあります。
(貨物受け取りまでの流れ)
- 貨物の所在確認(コンテナヤード、空港倉庫など)
- ドレージやトラックによる国内配送の手配
- 自社倉庫または製造現場へ搬入
【注意点】 貨物の引き取りタイミングを誤ると、倉庫の保管料や施設使用の延滞料(デマレージ)が発生します。到着予定日と通関完了日を事前に把握しておきましょう。
7.支払処理と為替リスクの管理
貨物の受け取りと並行して、輸入者は代金の支払を実行します。
また、為替変動によるコスト増加リスクに備え、為替予約(Forward Contract)を結ぶ企業も増えています。
(主な決済方法)
決済方法 | 内容 |
---|---|
T/T(電信送金) | 簡便だが前払いリスクあり |
L/C(信用状) | 銀行を介することで信用を担保 |
D/P・D/A | 船積書類の引き換えに支払や手形を用いる |
【解説】為替予約
為替予約(Forward Contract)とは、将来の特定の日に、あらかじめ定めた為替レートで外国通貨の売買を行う契約のことです。主に企業が輸出入取引に伴う為替リスクを回避するために利用します。
例えば、ある企業が3か月後にアメリカの取引先に1万ドルの代金を支払う予定だとします。
現在のレート:1ドル=150円
将来のレートが1ドル=155円に上昇すると、支払額は15万円増加(=5円×1万ドル)
これを避けるため、現時点で「1ドル=150円の為替予約」を結ぶと、3か月後に必ず150万円で1万ドルを受け取れることが確定します。
8.ERPや輸入管理システムとの連携による業務効率化
輸入業務は、複数部門の協力と多くの書類処理が必要な業務です。属人的に対応していると、ミスや情報の分断が起こりやすくなりますが、ERPや輸入管理システムを活用することにより、業務の一元化と精度向上が可能になります。
特に製造業では、輸入する原材料コスト把握が利益に直結するため、ERPとの統合は非常に有効です。
(ERPと輸入業務を連携させるメリット)
- 発注データ → 輸入実績への自動連携
- 通関情報や原価へのリアルタイム反映
- 支払ステータスや在庫情報との統合
- 原価計算に関税・運賃を正確反映
輸入業務は、海外との調達交渉だけでなく、税関対応、関税計算、国内物流まで幅広い知識が求められます。企業にとってはコスト・納期に直結する重要な業務であり、情報の整理とプロセスの可視化が成功のカギを握っています。
次回は、これまで解説してきた輸出入業務において、実務で頻出する貿易書類を一つひとつ取り上げ、記入の注意点などを紹介していきます。
※記事の内容は、制作時点に一般公開されている情報に基づいています。また、記載されている会社名・製品名・システム名などは、各社の商標、または登録商標です。
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